プチ旅行
国の運営に関わることがあれば話し合う。
どこの国でも行っていそうなものだが、ウルミーラ王国は他と違って会議を開くのに敷居が低い。
それは単純に兄妹仲がいいから、三人がそれぞれ運営しているからといった理由が挙げられるだろう。
もちろん、忙しい忙しくないで予定を合わせる必要があるのだが、今回はすんなりと会議を開くことができた───
「毎度毎度、我が弟ながらイベントごとに事欠かない人だよね」
「おっと、会議開口一番でエンタメ枠にぶち込まれたぞ?」
場所は変わり、王城の会議室。
皆で昼食をいただき、連邦の第七席というお偉いさんの接待をメイド二人に任せたあと、アレン達三人は仲良く卓を囲っていた。
「えー、でも今回はおにいさま宛てのラブレターでしょ? ︎︎しかも、わざわざ校舎裏に呼び出すんじゃなくて教室まで来てくれた思いの強さ付き!」
「手紙の内容が愛の告白だったらテンションが高かったんだけどな」
アレンは懐から手紙を取り出し───
「こんな四大大国のお偉いさん主催のパーティーなんて、頬を引き攣らせるには充分だろ」
シャルロットの訪問の内容は自身が開くパーティーへの招待。
各国から自身で選んだ人を呼び、盛大に天才児が考案した新作をお披露目するらしい。
それに、アレンはわざわざ呼ばれた。今まで接点がなかったのにもかかわらず。
「いやさ、全員が全員敵さんとは言わないけどさ、普通はこんなん警戒するだろ。見方によってはアリの巣にキリギリスが足を運ぶような構図だぜ?」
「ってことは、罠?」
「いや、そうとは限らないんじゃないかな?」
ロイは手元の資料に目を通し、二人に向かって口を開く。
「どうやら、連邦の第七席───シャルロットさんは、今まで色んな人に声をかけて新作を作る度に招待しているらしい。今回も、そのケースに類似してる」
「あー……ってことは、単に自分の作った玩具を見せびらかしたいってことか?」
「それだけじゃない気がする」
アレンの疑問に、アリスは首を横に振る。
「だって、連邦の最新技術をお披露目するなんて「自分はこんな凄いの作りました! ︎︎ちゃんと頭入れておいてね♪」って警戒させるようなもんじゃん。感覚的には、牽制に近いのかも……目下、王国で一番ヤバヤバなのはおにいさまだし」
お披露目と可愛くは言っているものの、連邦の最新技術は他国の技術を圧倒的に凌駕する。
そんなのを見せられれば当然警戒するし、対策も講じ始める。
若くして連邦のトップの一員として鎮座している人間が、ただの自慢だとは考え難い。
となると、アリスの言った通りの牽制なのかもしれない。
何せ、多くの戦争を勝ち抜き、直近で魔法国家のナンバーツーまで引き入れたのだ。アレンを牽制したい気持ちも分かる。
「あとは、単純にアレンがいない間に王国を狙おうとしてるか……」
「ううん、それは考え難い。元々、このパーティーは彼女の独断……もし仮にそういう目的があったのなら、過去にどこか攻められた記録が残るはずだ」
「なら、やっぱり牽制って意味合いか」
ここで少しアレンは考え込む。
どうやら、今回の一件は戦争は行われそうにない。
推測が正しければ単純に牽制されるだけだろうし、そもそも戦争に興味もする気もやる気もない自分が行ったところでなんの影響もない。
だったら、行くしかなくね? ︎︎何度か戦争した国に赴かなければならないが、戦争する気がないなら戦争起こらないじゃん。
今まで他国に足を運ぶ時は決まって戦争戦争だったし、たまにはゆっくりプチ旅行してみたい観光してみたい。
「よぉーし、行こう! ︎︎可愛い女の子のお願いは捨て置けんッ!」
「いきなりやる気になった」
「下心がガラスでしか守られてないからスケスケだね」
だって戦争したくないもん。
このまま王国にいてもいつかは戦争起きるかもしれないし、遊べるなら超遊びたい。
「まぁ、僕としても連邦に行ってはほしいかな? ︎︎罠の可能性はあるけど、連邦の技術面は凄いからね……少しは関係値を作っておきたい」
「えー……じゃあ、私だけお留守番かぁー」
ぐでーっと、つまんなさそうにアリスが机に突っ伏す。
外交の側面が浮上するなら、ロイが行くことになる。
アリスは内政担当。こういう話の流れになれば、お留守番は確定なのだ。
しかし───
「ううん、今回はアリスが行ってきて」
「「ん??」」
予想とは違う流れに、アリスだけでなくアレンまで首を傾げる。
「いいのか? ︎︎こういう話って、そっちの担当だろ?」
「うん、まぁそうなんだけど……ほら、アリスってまだ他国に行ったことがないでしょ? ︎︎いくら内政を担当するといっても、外の世界は色々勉強になるはずだ」
「え、やったー! ︎︎この流れ私だけいい歳こいてのお留守番だと思った!」
「ははっ、今回はアレン一緒に行くからね。万が一何かあっても大丈夫だろうし」
アリスはよっぽど嬉しかったのか、ロイの背後に回って「ありがとー!」と抱き締め始めた。
アレンは自分のところに来てくれなかった部分にモヤを感じたが、それはそれ。
「可愛い妹が喜んでくれていることだし、あとはお手紙の中身がびっくり箱じゃないことを祈るだけだね」
───連邦の第七席からの招待状。
結局、アレン達は身内を一人加えて赴くことになった。
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