鉱山資源
「嫌だからな!? 絶対に戦争とか嫌だからな!?」
時は過ぎて、現在アレン達は王都へと繰り出していた。
弱小国とはいえ、流石は国の中心部といったところか。人混みで溢れ返っており、繁華街から聞こえる喧騒はとても賑やかだ。
出店やら商店やら色々。並んでいる姿はどこか目を引いてしまうものがあり、アリスは久々の外出に目を輝かせていた。兄の必死の訴えなど聞かず。
「おにいさま、私はあのりんご飴食べたいんだよ!」
「お財布すっからかんなお兄ちゃんにお菓子をねだるか、そうか。君がお小遣いを上げてくれたら俺は喜んで首を縦に振っていただろう。っていうか俺の話を聞いて」
「聞いてもいいけど、戦争したくないばっかりじゃん。それに、お小遣いアップしたらおにいさまの関節が柔らかくなっちゃう」
「『お小遣い=関節技』ってところに違和感を持とうぜマイシスター」
「ちっちっちー、甘いよマイブラザー。おにいさまが娼館へ行こうとする度にセリアさんから関節技をキメられているのは今や王城の風物詩なんだよ」
これまた随分とシュールな風物詩である。
「お待たせしました、りんご飴です」
ふと、離れていたセリアが戻ってきた。
どうやらアリスの要望を聞いてりんご飴を買ってきていたらしい。
「わぁー、ありがとうセリアさんっ!」
「いえいえ、お礼はご主人様にどうぞ」
「あれ? 人のお財布から勝手に払った感じ?」
どうやらそのようだ。
とはいえ、一国の王子であるアレンのお金からしてみればりんご飴程度安いものだろう……きっと。
『アリス様! こっちで座っていくかい!?』
『英雄様、うちの串焼きも食べていってくだせー!』
『セリア様、この前はありがとうな!』
歩いていると、あちらこちらから声をかけられる。
威厳と風格……というよりかは、王国では親しみという面で慕われているのだと分かる。
二人の性格がこのように明るく接しやすい部分が一番なのだろう。
才能主義の魔法国家とは大違いですね、と。セリアはこのような光景を見る度にそう思ってしまった。
もちろん、こういった温かい国の方が好きだ。アレンに拾われてよかったと切に願う。
「まぁ、話は戻すけどさおにいさま……ぶっちゃけた話、国を拡大するなら間違いなく空白地帯の鉱山は押さえておきたいんだよね」
りんご飴をぺろぺろと舐めながらアリスは口にする。
「新しい鉱脈を手に入れれば他国に売ることだってできるし、うちの産業ももっと発展する。空白地帯にある落し物を誰も拾わないんだったらうちが拾っても問題ないと思うんだよ。先に見つけたのは王国だし」
「だが、俺らが先に押さえようとすれば連邦は黙っちゃいねぇだろ? 空白地帯はどこの領土でもないが、他国の領土になるなら話は別だ」
もし、王国が空白地帯の一部を領土にすればどうなるか?
接している連邦など、他国が領土を広げるのは面白くない。加えて、国境が近くなる分危機感も増す。
更に、領土を広げようとすれば「そこに何かあるんじゃね?」と考えて自分達も領土にしようと考えるのが妥当だ。
先手を打とうとも、戦争になることは避けられない。
「しかし、アリス様の仰る通り鉱脈の話が本当であればこれほど美味しい話はありません。餌がご丁寧に置かれているのであれば食いついてみればいかがです?」
「釣り上げられて籠の中に入れられなきゃ考えたけどさ、戦争するのは俺な? 王子である俺な!? 国の利益だひゃっほーいで動くような人間じゃないの!」
「王子さん、頑張ってふぁいと♪」
「妹の声援が崖っぷちに立たせてくる……ッ! マジでこんな国さっさと出てトンズラしてぇ!」
とはいえ、これに関しては直々命令というわけではなく先手を打つかどうかの話。
もしかすれば連邦が先に手を出すかもしれない。その前にもらっちゃえという問題なので、軍が動かなければ内政を担当しているアリスが何を言ったところで無駄だろう。
(まぁ、私もおにいさまを戦場には行かせたくないし、悩ましいところなんだよねぇ……。国は発展させたいけど、おにいさまには危険な目には極力遭ってほしくない。もう一回宰相さんと相談かなぁ)
おにいさまLoveなアリスは嘆く兄の顔を見て思案する。
妹とて、兄を戦争に行かせたくないのは本心。いくら兄がいないと始まらない国になってしまっても、そこは変わらなかった。
「おや、あれは……」
その時、ふとセリアが先を見て首を傾げる。
そこには王国では珍しい祭服と修道服を着た男女が繁華街を歩いている姿があった。
「神聖国の神父とシスターか? 珍しいな、こんな小国にくるなんて」
イルムガンド神聖国。
その名の通り、神を神聖視している宗教国家だ。
神を崇め、信徒を増やしていくことで団結し、国力を上げてきた大国で、全ては「正義」と「平和」を行動指針にしている。
中でも特徴的なのは『聖女』と呼ばれる人間がいることだろう。
魔法を使うわけでもなく、神から与えられた御業によって人を癒し、災いから人々を救う。
実際にそれは噂などではなく、本当に存在するのだから余計にも信徒に影響を与えている。
大国になった歴史を振り返れば、この聖女という存在が大きかった。
「信徒を増やそうとしてるんじゃないかな? 最近はよく王国にも布教に来てるよ」
「いいのか? うちでそんなことをさせても」
「別にうちは宗教の自由は認めてるからね。無理矢理国民を取り込もうってしているわけじゃなくて単純に布教しているだけだからスルーしてる。それに、うちとしてはちょっと歓迎だったりするんだよ」
「どうしてでしょうか?」
疑問に思ったセリアはアリスに尋ねる。
「ここで神聖国の教会とか建ってくれれば、仮に王国が攻められた時に助けてくれるでしょ? 信徒が襲われた! って。そうしてくれればうちとしては大助かりなんだよ。大国バックはかなり魅力的☆」
「流石内政担当、よく考えていらっしゃる」
「本当はこういう部分はロイおにいさまの仕事なんだけどね。ちょっと内政に絡んできちゃったからお勉強したのですどやぁ!」
「ういうい、可愛いドヤ顔だぞ我が妹よ」
「えへへー」
兄に褒められ、頭を撫でられるアリスは嬉しそうな顔をした。
それを見たセリアは羨ましいと思ったのか、頬を膨らませて不満気なアピールを見せる。
「っていうことなら、安心して徘徊させとこうか。せっかくの休日だし、妹との交流を深めよう」
「さっすが、おにいさま! そういう兄妹愛が深いのは好きだぞー!」
「ご主人様、私もいます!」
「セリアへの愛情は既にマックスだから気にするな」
「そ、そうですか……! ここでストレートに返されると文句が言えないのが悔しいですっ」
頬が赤くなったセリア、嬉しくて腕に抱き着くアリス。
そんな二人を連れて、アレンは王都の人混みへと足を進めた。
───こういう日が続けばトンズラなんて考えないんだけどなぁ。
そんなことを思いながら。
まぁ、それがフラグになったのは追々の話ではあるが。
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