プチ旅行のおさらい

「さて、アリス。シャルロットのいない間におさらいをしておこう」

「おにいさま、そんなセリアさんとジュナさんから膝枕&なでなでされてる状態で真面目ぶられても、妹としては真剣に考える議題が変わっちゃうよ。将来とかお姉ちゃん問題とか」


 シャルロットからご自慢の発明品開発品を見せられてから翌日。

 パーティー直前だからか、シャルロットとは別行動になったタイミングでアレンが口を開く。

 なお、対面に座る可愛い妹の発言通り、セリアに膝枕をされながらジュナに頭を撫でられているという贅沢構図だ。


「一応、お兄ちゃんとしてアリスにはプチ旅行だけで済ましてほしくないわけで……兄貴に言われたことは覚えてるか?」

「うん、社会勉強と……あわよくば、連邦の誰かと関係値を作ることだよね」

「その通りだ」


 連邦の技術は素晴らしい。

 シャルロットほどではないだろうが、一人だけでも王国の技術を優に超える。

 できることなら、そういう人間を王国へ引き込みたい……もしくは、良好な関係を築いて貿易をしていきたい。

 だからこそ、今回わざわざ足を運んでパーティーという多くの人間が集まる場所に赴いたのだ。

 まぁ、戦争から離れられるという下心も多分に含まれているが。


「シャルちゃんじゃダメな感じだよね? 本人は亡命してもいいってオーラぷんぷんだけど」

「そこをツモれたら万々歳なんだろうが、色々抱えるものが多くなる。っていうより、元より今シャルロットを迎え入れるためのメリットをこっちが提示できない状態だ。親しい雰囲気が出てるだろうが、真面目な話を切り出せば間違いなく今は渋られる」


 王国は帝国や連邦と違って経済面も環境も劣る。

 いくらシャルロットから気に入られて、友好的な関係を築いていけたとしても「じゃあ、うち来ませんか?」と言ったところで対価が現状や他国に負けている以上は首を縦に振らないだろう。

 あくまで、王国は候補の一つ。

 高望みするよりかは、この小さく短い機会に確実性を重視するべきだろう。


「シャルちゃん、王国うちに来てほしいなぁ」

「そりゃ、技術面でも性格面でも来てほしいのは分かるがな。真面目な話は現実を見なきゃいけないのだ」

「眩しくもないのに直視したくない……」


 アリスががっくりと肩を落とす。

 すると、何故かジュナは立ち上がり、アリスの頭を撫で始めた。


「……よしよし」

「うぅ……姉属性がこっちも高ぃ」

「……ん?」


 流石は歳上グラマス美人お姉さん。

 これで戦闘能力もずば抜けているのだから、非の打ち所がない。


「まぁ、最低限関係値を作ってあとはいつかの機会に兄貴が頑張ってくれる、って方針ならアリだと思うがな。今すぐ成果を持ち帰らなきゃいけないってわけじゃないし、マイペースにことを進めてもいいと思うぞ?」

「で、でも……せっかくここまで来たら何か皆の役に立ちたいっ!」

「兄妹とは思えない意気込みですね」

「自堕落希望のお兄ちゃんと同じ血が流れてるんだがなぁ」


 いなくなったジュナの代わりに、セリアがアレンの頭を撫でる。


「しかし、ご主人様? 現実的に考えるシャルロット様以外の技術者ですが、突撃アポなしで王国へ引き抜けられるのでしょうか?」

「んー、正直自分で言うのもなんだが、難しいだろうな」

「というと?」

「この前、シャルロットが言ってただろ? 連邦以上の環境が整えられるなら、って」


 アレンは欠伸一つを見せたあと、


「要するに金、権力、女なんかよりも開発脳ってこと。技術者のトップがそう言ってるんだ、ほとんどの技術者がそういう考えなんだろう」

「イコール、国を出ることはない」

「シャルロットみたいな人間が珍しいと思うぜ? 場所にこだわらない技術者っていうのは」


 最高の環境があれば、自由に高みを目指せる。

 新しいものを生み出す人間の動機は様々だが、ほとんどが実績、栄養ほしさだろう。

 そんな人間達が、実績を残し難い環境にわざわざ行くとは思えない。

 何せ、今いる環境れんぽうが間違いなく最高峰なのだから。


「と言いつつ、やってみないと分からないけどな。もしかしたら、シャルロットがタダで帰らせるのは申し訳ないからってある程度繋いでくれるかもしれんし」

「他力本願が叶えばいいのですが」

「そりゃ、やってみないと分からん。だが、俺はアリスの愛嬌を信じている」

「どこまでも他力本願ですね」


 まず自分が動くという選択肢はないらしい。

 気持ちよさそうに瞼を閉じる自堕落希望のアレンを見て、セリアは思わず口元を緩めてしまった。


(んー……まぁ、こんな話をしてるけど、なんだがな)


 アレンは考え込むように、少し寝返りを打つ。


「ジュナさん、なんでそんなに姉力高いんだよぉ」

「……姉力?」

「そのたわわな胸とか! 真横に渓谷がある水平線な私の身にもなってッ!」

「……よく分からないけど、いい子いい子」


 なんか変なやり取り聞こえるなぁ、あの二人も随分と仲良くなったものだ。

 なんてことを思いながら、アレンの意識は静かに微睡みの中に沈んでいった。

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