空白地帯鉱山奪還戦③
「気張れや、お前ら! このご時世で最もハードで刺激的な職場で働く社畜の根性を見せてやれ!」
アレンは周りを鼓舞しながら、着実と前に進んでいく。
雷撃の一線を振り回し、時に拳を叩き込んで神聖国の兵士を倒していく。
そうと言っても、基本的にアレンが戦う相手は魔法士だ。
王国兵に残念ながら長距離戦ができる人間はいない。
その点、魔法士は基本的に長距離から魔法を放っていくタイプだ。
戦場においてどっちが有利で効果的なのかは言わずもがな。
故に、対応できるアレンのみが必然的に相手にしなければならなかった。
『白馬の王子様になるのは俺だ!』
『美少女からのハートの視線は俺のものだ!』
『危機的状況からのヒーロー……そして、健全なお付き合い!』
『幸せな結婚生活が俺を待っている!』
「やめろお前ら! 根性を見せろとは言ったが、誰も醜態を見せろとまでは言っていない!」
これは助けたあとの方が危機的状況になるかもしれない。
アレンは気合いが入っている部下を見て密かに出会ってもいないソフィアの妹に心配を寄せるのであった。
とはいえ、その気合いにも随分と助けられている。
モチベーションの高い兵士は決まって想像以上の力を発揮してくれるものであって、それが神聖国の兵士を圧倒し、大した損害もなく押せていた。
現状だけで見れば優勢。徐々に、王国兵が教会へ距離を縮めている。
「しかし、意外だな」
アレンが遠くの魔法士に槍を投擲しながら呟く。
「何がかね? 優勢という状況に対して言っているのであれば、それは少し心外だな」
ライカがアレンの少し後ろで銃を発砲していく。
あれなんだろう少しほしい。アレンは連邦お得意の最新兵器を見てそんなことを思った。
「違ぇよ、敵の数だよ数。おたくご自慢の兵器とか人数とかに文句を言ってるわけじゃねぇよちょっとそれ気になるんだけどあとで撃たせて」
「ふふっ、構わないよ。ようやく興味を示してくれたようで鼻が高くなるね」
それで、と。
「数が少ないのは分散させているからだと思うよ。別の方面で私の部下に攻めさせているからね」
「おぉ! いつの間に! っていうか……まだいたの、連邦の可愛い可愛い部下さんは」
「数が減ってしまった要因に言われると複雑な気持ちになるな。だが、我々とて四つの大国の一つだ───単純な兵力もそれなりにある」
ライカが今回邪魔なオブジェを倒すために用意したのは五千。
そのうち二千は予期せぬ王国からの攻撃によって消えてしまったが、まだ三千ほど余力はある。
だが、冷静に考えてみると『ライカは攻め落とすのに五千は必要だ』と考えて軍を展開していた。
その内の二千が減ってしまったということは───
「さぁ、穴埋めを頑張ってくれたまえ。不用意が己の首を絞めるっていういい教訓を学べてよかったじゃないか」
「身から出た錆がこれほどまでに辛いものだったとはッ! 絶対戦争勝たなきゃ涙になるやつだこれ!」
アレンは必死になって辺りに雷を飛ばしていく。
これで美少女の笑顔も守れず、鉱山の利権も手に入らなければ家族からドヤされることにもなり、いつも隣にいるメイドからご褒美の冷たい瞳を向けられてしまう羽目に。
それだけは絶対に避けなければ……ッ!
「まぁ、でも今のところ優勢だし、案外勝てるかも───」
その時だった。
『『『あぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァッッッ!!!???』』』
自国の兵士の叫びと共に巨大な火柱が自陣に広がったのは。
「早いっ! 最後まで言い切ってないのにフラグが回収されるのが早いっ!」
「立った時点で「いつでも回収してください」と言っているものだろう?」
「言っておくが回収してほしかったわけじゃないからな!? 可能ならスルー推奨のアンチコメントみたいな感じで扱ってほしかったんだよ俺は!」
激しい爆風に肌を撫でられながら、アレンは驚きを誤魔化すように叫ぶ。
しかし、そんな悠長なことは言っていられない。
すぐにアレンは大事な部下の安否と損害を確認する。
『ふぅ……日頃のジャンピング土下座が役に立ったぜ。あれがなければ、こんな魔法避けられなかった』
『日頃女の子から受けているビンタに比べれば、こんな火傷屁でもねぇ!』
『日頃行っている覗きによって培われた危機察知能力がなければ、今頃豚の照り焼きだったぜ……』
しかし、そんな心配は無用なようで。
奇跡的にも、あんな巨大な火柱が生まれたというのに目立った損害はなかった。
「さ、流石は俺の部下……逞しすぎる!」
「今のセリフをちゃんと聞いていたのか? 同じ女として尊敬どころか侮蔑ものだぞ」
日頃、彼らが何をやっているのか気になるところだ。
「それより───」
「あぁ、分かってる」
二人は敬愛すべき阿呆共から視線を外し、先の方へと顔を向けた。
そこには青紫色の三角帽子を被った金髪の女性。
それと、白いワンピース姿でゆっくりと並ぶように山を下っていく少女の姿があった。
「はぁ……面倒。どうして私がこんなことしなきゃいけないの?」
「ま、まぁ落ち着いてください、ジュナさん。これも上からの命令ですし、あとでいっぱい報酬出るらしいので」
「……私、基本的には引き篭ってインドアで楽しみを見つける派なのに。モニカみたいに前向きな思考っていうのが睡眠を妨げる朝日だよ」
金髪の女性をワンピースの少女が宥める。
緊張感もなく、魔法士達の合間を縫って歩いていく。
魔法士達がそれを咎めることはなかった。
ということは───
「俺とセリアの同業か……」
「あのお花畑にいそうな可憐な少女は、そうだろうな」
アレンの言葉を、ライカは否定していく。
「賢者、という魔法国家のお偉いさんは知っているだろう?」
「嘘だろ、おい!? その前振りはあのパツキン美女が賢者だっていうことなのか!? なんでそんなやべぇやつが来てんだよ、ただでさえ美女と美少女に弱いのにぃー!」
「まぁ、落ち着け。やつはその賢者の弟子だ。全魔術師の頂点……魔法を極めた者の中で最も頂きに登る相手ではないから安心したまえ。やつは髭を生やしたおっさんだ」
「その弟子っていうワードに安心感なんてねぇよ、ナメてんの!?」
つまりは、魔術師のトップから直々に教えを受けた天才だということ。
それだけで、彼女がどれほど他の魔術師達と異質で強大なのかはご丁寧に説明を受けなくても理解できる。
「マジかよ……うちの馬鹿共じゃ魔術師なんて相手できねぇから俺がやるしかないってのに、相手は賢者の弟子? 最近絶賛活躍中の俺に世界は色々と期待しすぎじゃねぇのか?」
「そんな、世界からの人気者に一ついい話をしてやろう」
ライカが口元を緩めて銃を構える。
「ただの魔術師は私に任せておけ。王国の英雄は賢者の弟子とダンスでも踊ってくれればいい」
「……いいのか? 助かるが、お前は魔術師でもなんでもねぇだろ?」
「なに、確かに私個人の戦闘力はそこらのおなごと変わらんが、武器の扱いには長けていてね。知っているかい? 眉間に鉛玉をぶち込めば、人は簡単に死ぬものだ」
「……あんな可愛い子、殺してほしくねぇなぁ。夢に出てきたら、俺はしばらくナニが立たない自信があるよ」
しかし、そうも言っていられないのが戦場だ。
故に、アレンは青い光を纏った拳を構えて気合いを入れる。
「そんじゃ、背中は頼むぜ連邦の黒軍服! こいつら倒せば大冠だ!」
「君こそ、あとで美女のエスコートが必要だと言わないように精々気張ることだ」
───相手は、魔法国家の魔術師と賢者の弟子。
王国の英雄と連邦の第五席は、それぞれ一つの勝利を得るために相対する。
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