年頃の女の子

 シャルロットに案内されたのは、巨大なビルという建物であった。

 どうやら、この建物すべてが宿泊施設らしく、一つの建物に一家が住むのではなくて大きな部屋をそれぞれが買って過ごすらしい。

 といっても寮とは違って、キッチンやお手洗い、浴槽が部屋に完備されており、購入者それぞれの生活スペースがしっかりと確保されている。


「どうぞどうぞ! 思春期レディーの一人部屋へいらっしゃいませです♪」


 玄関を開け、先に入ったシャルロットが愛らしい笑みを浮かべて出迎える。

 中は外観から想像ができるほど広々。リビングからは外の景色が一望できるほど高い窓が貼られており、ところどころに部屋へと繋がるドアがある。

 ただ、発言に対して首を傾げてしまうぐらいには簡素な部屋であった。正確に言うと、本や作りかけの道具、機材が綺麗に整頓されて思春期の女の子らしさを感じない、といったところだ。


「……アリスの部屋とは雲泥の差だな」

「むっ、おにいさまそれはどういう意味なのかな?」

「過ごしやすさ的にはこっち」

「絶対に今度おにいさまの部屋にファンシーなぬいぐるみ並べてやる……ッ!」

「そういうところだからな、居心地の悪さを感じるところは!?」


 男のお部屋がピンクなど居心地が悪いことこの上ない。

 しかしそれが分かっていないのか、自分の部屋にアンチを食らったアリスは可愛らしく頬を膨らませた。


「しかしよろしいのですか、シャルロット様?」


 荷物を置いて整理し始めたセリアが口を開く。


「ご自身のお部屋……ということは、シャルロット様も過ごされるのでしょう? この場に来賓扱いには首を傾げるメイドがいますが……」

「別に構いやしないですよ。っていうか、いまさらあなた達メイドを一般のメイド括りにできないでしょうに」


 確かに、立場上はセリアもジュナも王族に仕えるメイド。

 本来であればアレンやアリスといった王族をもてなすのが普通で、使用人は他の兵士達と一緒に別で宿を取るものだ。

 とはいえ、あくまでメイドの立場にいるだけで二人は大陸に数えるほどしかいない魔術師。来賓としてもてなされておかしくはない人間である。


「だが、メイドの皮を被った宝石はいいとしても狼さんがいるだろ? そこについて赤ずきんちゃんはどうお考えで?」

「私に何かするようなことがあれば、そっちの赤ずきんちゃんが狼さんを懲らしめてくれるじゃないですか」

「……潰す」

「徹底的にぶち処します」

「うーむ……確かに心配いらなさそうだ」


 どうしてか、相手が美少女ちゃんなのにまったく手を出す気になれない。

 おかしい……これも最近娼館に行けなくて枯れてきたからだろうか?


「でも、なんで俺達はシャルロットの部屋でいいんだ? 他にも招待してるんだろ?」

「単純にあなた達を一番最後に招待して、空いてる宿が少なかったっていうのと、接した感じだったからですよ。他に深い意味はないです」


 シャルロットは羽織っていた上着を壁にかけ、唐突に目を輝かせる。


「っていうか、お夕飯まで時間ありますし、早く荷物を置いてゲームしましょうよゲーム!」

「テンション高いなぁ……長旅の慰労とか観光とかそっち方面はないわけ?」

「だ、だって……同年代の人達とお泊りなんて初めてですもん」

「やだ、俺全力でゲームしちゃう……!」


 少し唇を尖らせる天才ちゃんに、思わず胸がキュンとなったアレンであった。


「ねぇねぇ、なにするの? 今の私はリベンジマッチしたいからシャルちゃんぶっ倒す所存で拳に気合いが入るんだけども!」

「ふっ……性懲りもなくこの天才技術者兼発明者の私にまだそんなことを言うなんて、アリスも学ばないですねぇ」

「むきーっ! たまたまだし! 負け越したのたまたまだし!」


 胸を張るシャルロットと、ポカポカ背中を叩くアリス。

 いつの間にか、親しく名前を呼ぶようになっていたらしい。同年代ということもあって、すっかり仲良しさんだ。


「いいでしょう! まずはどっちがマイクロ波をベースに氷を溶かせる機械を如何にどう作れるかゲームで勝負です!」

「容赦ねぇな」

「相手に勝ち目を与えない卑怯さが窺えるんだよ」


 まず、ベースとなるマイクロ波とやらがまったく分からない。


「ぐぬっ……! なら、原子番号一番からの電子配列を―――」

「だからお前は何を言っているんだ」

「誰もが天才児と同じ脳みその構図をしていると思わないことだね」

「じゃ、じゃあもう一回トランプで……」


 始めからそう言えばいいのに。

 しょんぼりと肩を落とすシャルロットが奥に向かったので、アレン達もついて行きソファーへと腰を掛ける。

 とりあえず、シャルロットは置くに消えていったので恐らくトランプを取りに行っているのだろう。

 セリア達はこの隙に荷解きをするらしく、荷物を開けていた。


「ね、ねぇ……おにいさま。ちょっと誤魔化したいから今のうちに吐露するんだけど……」


 さも当たり前のようにアレンの横に座ったアリスがシャルロットが視界からいなくなったタイミングでおずおずと口を開く。

 お手洗いにでも行きたいのだろうか? アレンは唐突に態度が変わった妹に首を傾げる。

 すると、アリスは少し気恥ずかしそうに―――


「わ、私ね……ちょっと同い歳の子のお家とか初めてだから、ちょっと緊張しちゃってる」

「……………」


 ほんと、今時の子はなんてこんなに可愛いのだろう。

 アレンは今一度、子供らしい妹の発言に胸打たれたのであった。

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