議会
「ねぇねぇ、連邦ってさ、どうやって国の方針を決めるの?」
現在ババ抜き中。
メイド、王族、技術者という異色の面子で行われる楽しい遊びの最中、唐突にアリスがそのようなことを口にした。
「いきなりですね。ある程度王族なら知ってるんじゃねぇですか?」
アリスからカードを引き、シャルロットは少し渋い顔を見せて横のセリアへカードを向ける
「いや、知ってるのは知ってるけど詳しく聞きたいなーって。ほら、一応私は社会勉強でここに来てるわけだし」
「だからって……その部分って結構踏み込んだ話だと思うんですよ。それを堂々と遊びのついでに投げられても困るんですが」
「いいじゃんー、私とシャルちゃんの仲だし♪」
「昨日今日の仲ですけどね」
アリスが「いいじゃないかー」と、笑みを浮かべながらシャルロットのほっぺを突く。
一方で、シャルロットは鬱陶しそう……というより、満更でもなさそうな顔を浮かべた。親しい友人みたいなノリが嬉しいのかもしれない。
「アリスにお友達ができて……俺はァ、涙が止まらねぇ……!」
「ご主人様、早く引いてください」
そして、お兄ちゃんの涙腺は酷く脆かったようだ。
「っていっても、あんまり知ってる情報と差異はねぇですよ? 議会によって外交であれ内政であれ運営の方針が決まる。決議の際に過半数の同意があれば可決……みたいな感じです」
「あ、やっぱりそうなんだ。皆で話し合って意見を出してって、随分と慎重なんだね」
「慎重っていうか、我儘な子供を納得させるために折り合いを見つけた結果って感じですよ」
「折り合い?」
不思議そうにするアリス。
ジュナからトランプを引き、こちらもまた渋い顔を見せた。
「あなた達みたいにトップが仲良しこよしってわけじゃないってことです。結局は小国が集まってできた国ですから、それぞれ譲れない線もプライドも残っていて、誰かを上に据えると誰かからバッシングを浴びるんですよ」
「……なるほど」
神妙な顔でジュナが頷く。
すると、どうしてか。アレンとセリアからジト目が突き刺さった。
「お前、分かってんの?」
「……要するに、私には理解の及ばない話」
「想像通りの反応で安心したよ」
難しい話はよく分からない。
戦闘特化の美女の印象がそのまま通りでアレンはどうしてか安心した。
「だから、面倒ですよー? 議会なんて開かれてもトランプタワーを積み上げられるぐらいの時間だけが食われて、蓋を開けたら出来レース……なんてことはザラです」
「まぁ、議会が始まる前にある程度裏で過半数の票を買収すれば済む話だからな」
「うちらって、本当に国のために動いてる人間って少ないんですよ。よくも悪くも、それぞれ突出した要素と影響力で席に座った曲者ばかりですから」
たとえば、シャルロットのように技術で席に座った者。
いつぞや鉱山で共闘したライカのように資本で席に座った者。
支持を受けて席に座ったのとは少し違う。それとは逆───発言や行動で国と民に影響を与えるから選ばれた者達。
そのため、国を想うというよりかは個を巡視する者が必然的に多くなるのだ。
「おかげで、統括理事局は魔窟ですよ魔窟。嘘八兆なんて朝から晩まで平気で行える連中ばかりですし」
「では、シャルロット様もそのようなカテゴリに?」
「自分で言うのもなんですが、こんな明け透けに話してるのに張りぼて笑み枠に入れられるって可哀想じゃねぇです?」
「シャルちゃん、すっごい顔に出るもんね……今、ババ持ってるでしょ?」
「ぬぐっ……!」
確かに、嘘はつけなさそうだ。
その証拠に、図星を突かれて唸る可愛らしい表情が視界に映っている。
「ご、ごほんっ! そもそもですね、自分を売り込むならまず本音が常識でしょう!? 過程に嘘ついたら一端の道具なんて完成しません! 技術者である以上、過程に嘘はつきたくないんです!」
「私、シャルちゃんのそういうところ好きー……まぁ、負けたら超煽るけど」
「勝ちますよ勝ってやりますよ! この一回は負けたとしても、敗北こそ次につながる勉強なんですから! またアリスを泣かせてやりますよッ!」
仲睦まじいというかなんというか。
たった数日の旅路の間に、こうして言い合えるような仲になったのは歳が近いのもあるが、もしかしたら気が合うからかもしれない。
そんな二人の様子を微笑ましそうに見つめる大人三人。気が付けば、もう手元にトランプは残っていなかった。
「……まぁ、質問に対する解答はこんな感じです。ってな感じで、私には合わないですし研究できればそれでいいんで、こんな席に興味も固執もないんです」
「ありがとね♪ 勉強になった!」
「逆に聞きますけど、あなた達って仮に私が「亡命したい!」って言ったら受け入れてくれるんです?」
「受け入れるよー、おにいさま超優しいし」
「まぁ、横に目下亡命してきた人間がいるからなぁ」
「……うん、アレンに連れて来られた」
王国は来る者拒まず。
というより、アレンの性格上困っている人間がいれば基本的に受け入れ、守ろうとしてしまう。
魔法国家に苦しめられたジュナのように、困っていて望むのであればアレンとて帰る家を用意する気はある。
「なるほど、だったら有力候補として今のうちに評価を上げるべきですね!」
そう言って、シャルロットは立ち上がってアレンに向かってビシッと指をさした。
「なら、このあと私の倉庫に行きましょう! 私がどれだけ凄いか、直にアピールです!」
「「「おぉ!!!」」」
連邦筆頭の技術者。
その発明品や技術の粋が集まった倉庫に興味をそそられないわけがない。
アレンだけでなく、ジュナやセリアもまた瞳を輝かせる。
しかし、この女の子だけは―――
「シャルちゃん、どさくさに紛れて勝負を終わらせようとしちゃダメなんだよ。さっさと引かせろぷりーず」
「ぬぐっ……」
シャルロットの手元にはトランプが二枚。
引けば勝ち……そんな状況で、アリスは見逃してあげるほどお優しくはなかった。
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