姉妹
レティア国、神聖国の空白地帯から魔法国家へ戻る際は必ず経由しなければいけない場所がある。
それは立地や時間といった要因があり、「普通ならこの道を選ぶのが安全面を考慮した上でベスト」と誰もがそう考えるからだ。
迂回? 神聖国から狙われていると分かっているのに、時間のかかることをするか? 踏破できない場所を魔法でどうにかする? いいや、無理だ。地形を変えられるほどの規模の魔法は魔術師でなければ難しい。魔術師がいたとしても、他の魔法士の存在がある限り足枷となって上手く進めないだろう。
そう考えて、アレン達は待ち伏せた。
現在、待ち伏せに向かう最中に訪れた魔法国家とレティア国の空白地帯。
本来は、こんなところなど特に何もない。
空白地帯は、互いの領土ではない空地のような場所だ。
誰かの持っている更地を奪われるかも? と重火器片手にずっと篭り続けるだろうか?
いや、ないない。いくら大国といっても重要なのは国境であって空白地帯ではない。
だからこそ、こんな場所に軍が展開しているなどおかしい話なのだ。
「考えるのはあとにしろっ!」
クラリスの疑問を、アレンは一蹴する。
「まずは目の前の野犬を追い払うのが先だ!」
距離はまだある。
とはいえ、この距離であれば魔法士よりも先にアレンの魔法が届く。
「『
青白い天まで昇る雷の柱が魔法士達へと向かっていく。
地面を抉り、抵抗のように放たれた魔法すら呑み込み、固まっていた魔法士達を薙ぎ払う。
英雄の猛威が過ぎ去ると、大勢いた魔法士達の塊はすっぽりと穴が開いてしまった。
「ふんっ、次は負けん」
「今なんで張り合ったの俺味方よ!?」
アレンの驚きを無視して、クラリスは一人間合いを詰めていく。
魔法士達の詠唱が始まり、戸惑いと焦りが呟きと共に感じ取れた。
それでも、クラリスは止まらない。
もう大槌を構えることはなく。最速で距離を詰めようと、放たれた土の槍が飛んで来ようとも、足を止めることはなかった。
やがて甲冑を越えて胸を抉られ、わき腹に風穴が空いて。
ドバドバと血を流しながらも、ようやくクラリスは魔法士の集団の中へ辿り着いた。
「どうだ、英雄!? チキンレースにビビった貴様の負けだ!」
「お、おまっ!? 絵面無視の突貫で胸張られてもお茶の間に見せられなくなるだけで誰も褒めてくれないからな!?」
不死身が故の突貫、不死身が故の戦闘スタイル。
懐にさえ飛び込んでしまえば、詠唱よりも先に手にしている武器が早く叩きこまれる。
集団の中に這い込んだクラリスは、次々と持っている大槌で魔法士達を薙ぎ払っていった。
「アイシャ様と主のため! 私は喜んでこの身を捧げよう!」
こうなってしまえば、魔法士達はお終いだ。
言うなれば、自分達を守るはずの狭い檻の中に一匹の肉食獣の侵入を許してしまったような。
魔法士達はちりじりとなって逃げ始め、アレンは仕方なく打ち漏らしを魔法で撃退していく。
(くっそ、一人で戦うよりかは楽だが、こいつに合わせるのが余計にめんどい!)
アレンもようやく集団の中へ入り込む。
体中に青白い電気を纏い、肉弾戦素人の相手に容赦なく拳と蹴りを叩き込んだ。
あと少しでもすれば、王国兵と神聖国の兵がごぞってやってくるだろう。
戦場は乱れた。
これから先は、殲滅が始まるだけ―――
「ねぇねぇ、お姉ちゃん! この人達めっちゃ強いね!」
―――と、その時。
深くフードを被り、ローブを纏った少女二人がアレン達の前へと立ち塞がった。
「うん、強い強い。噂の英雄と聖騎士、強い強い」
姉妹だろうか? やり取りから察するに、そのように見える。
だが、それよりも……声も、背丈も、あまりにも幼い。
ようやく十歳に差し掛かったぐらいのような……そんな気がする。
「な、ぜ……子供がこんなところに……?」
クラリスの手が思わず止まってしまう。
それもそうだろう。確かに戦場に十代の若者がやって来ることはあるが、これは流石に幼すぎる。
戦場に不釣り合い。魔法や剣に飛び交う道路の真ん中にボールを追いかけて飛び出してしまった子供。
でも、飛び込んでしまったという割には、あまりにも落ち着きすぎている。
まるで、ハナからこの場にいたかのように―――
「子供? ふふっ、子供だってお姉ちゃん! あの人達、私達を子供だと思ってる!」
「昨日十二歳になった大人なレディーに向かって失礼失礼」
「私達は優れた大人!」
「神様に選ばれた子供子供」
少女二人は駆ける。
アレンとクラリスの驚きを無視して、魔法士というアドバンテージを捨てて。
子供だからといって、油断はできない。
よく分からないものの方が怖いということを、戦場に幾度も出ている二人は知っているからだ。
そして———
「ぼんっ♪」
―――クラリスの首が爆ぜた。
「はぁ!?」
「きゃー! お茶の間に見せられない光景ー!」
アレンが横にいたクラリスを見て驚く。
しかし、姉と呼ばれた少女は止まることなくアレンの目の前へとやって来た。
「見せられない見せられない」
サイズの大きいはずのローブが膨れ上がる。
正確に言うとローブが、ではない。少女の腕が、そもそも可愛らしい外見とは不釣り合いなほど肥大していく。
アレンの眼前に迫る頃には、身長を優に超えるところまでになっていた。
「教育に悪いのは一緒一緒」
そして、アレンの体は容赦なく吹き飛ばされた。
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