予期せぬ衝突

 もちろん、アレンは部下を先に偵察させて周囲を警戒していた。

 それに、皆が集まって一緒に間違い探しをするよりも分散した方がより早くジュナ達を見つけられると思ったからだ。

 何せ、立体ではなく平面。間違い探しに気づかなくても、ヒョンなことから平面の先に出てジュナ達を見つけられるかもしれない。

 そう思っての行動。現在、魔法国家とレティア国の空白地帯。

 にもかかわらず、目下目の前に現れたのは───


「あれは完全に魔法士共クズどもですね。ということは、実際に私達が歩いている場所も実際にある場所……」

「悠長に分析してるつもり!? 俺も顎に手を当てて冷静に知的キャラをアピールしたいけど飛んでくるぞ魔法がッ!?」


 日を跨ぎ、ある程度歩いていたため、場所は先程の和かな場所とは違ってまたしても広々とした草原。

 だからからか、飛んでくる水の槍が戦場らしくてなんの違和感もなかった。


「だいたいさぁ……なんでこんなところに明らか魔法士がいるわけ!? そろそろ寒くなる季節だしゆっくり小屋とか関所とか分かりやすい場所に立ってろよちくしょうッ!」


 アレンが生み出した雷を幾本も上空へと飛ばしていく。

 的確に水の槍を撃ち落としているのは流石と言うべきか。破裂した魔法が周囲に散らばり、ほんの少しだけ湿度が上がる。

 魔法士の戦いの定石は遠距離で魔法を撃っていくだけ。

 懐に潜り込まないと攻撃できない兵士とは違う。そして、連邦の最新兵器でもない限り、そこら辺の弓よりかは遥かに魔法の方が勝っている。

 対して、こちらはアレンとセリアしか遠距離に対抗できる人間はいない。

 しかし───


「セリア、上を頼めるか!?」

「承りました……と、言いたいところですが、今回は手元にダイアモンドがございます」

「あー、そうだった!」


 そう、今回は傍に神聖国の戦力の要であり足枷なアイシャがいる。

 もし流れ弾でも当たってしまえば、負傷兵を治せる貴重な逸材ちから、神聖国の戦力せいきし不死身アドバンテージを失ってしまう。

 故に、護衛は必須。

 状況から考えるに、以前のソフィアの時同様にセリアが守らなければならない。


「わ、私も戦えるよ!?」


 足でまといを感じてしまったのか、後ろにいるアイシャが割って入ってくる。


「明らか箱入りお嬢様が見栄を張るんじゃありませんっ!」

「嘘じゃないもん! クラリスと一対一で首ちょんぱできたもんっ!」

「なんてことをするんだ箱入りお嬢様!?」

「というより、それは単に首を差し出しただけなのでは?」


 死なないとはいえ、なんとも絵面の酷いことができる女の子である。

 そういえば、確かに戦場でアレンにナイフを突き立てようとしていた。ある程度戦えるのは、もしかしたら間違いないのかもしれない。


「それに、このための聖騎士だもん! 足でまといだけにはならない!」


 そうアイシャが言った瞬間、聖騎士の一人が横に並ぶ。

 本来の役目は聖女の護衛。今更ながらに忘れていたアレン達は言葉に詰まった。


「……じゃあ、過重労働に行ってきます」

「では、上はお任せください」


 セリアの体が一瞬で消え、一帯に霧がかかり始める。

 そして、それを合図にアレンは一気に魔法士達に向かって駆け出した。


「はっはっはー! 戦争だ戦争! さぁさぁ撃ってこいよご自慢の魔法を!?」


 視線の先には、兵士達を先導するかのように駆けるスミノフの姿。

 しかし、ちょうどのタイミングで離れた先の正面にいる魔法士から魔法が飛んできた。

 スミノフは立ち止まり、一直線で飛んでくる岩の塊を斬り伏せる。


(ある程度スミノフがいりゃ兵士達は問題ないだろう)


 魔法士達の戦闘スタイルは後退しながら遠距離での攻撃。

 逆に言えば、


「あァ!? 大将、ズリぃぞ!?」


 斬り伏せている間に、アレンが横を駆け抜ける。

 アレンは魔術師。遠距離戦に才能はあるが、戦闘スタイルは魔法と肉弾戦を組み合わせた接近戦インファイト

 気兼ねなく戦うのであれば、間違いなく突貫の一択であった。

 と、その時───


「来たか、王国の英雄」


 アレンが通り抜けたのと同時に、横からクラリスが姿を見せる。

 背中に大槌を抱えているというのに、アレンと並んできた。


「お守りをほっぽり投げてどこで油売ってたかと思えば、一等賞でももらいに来たのか!?」

「馬鹿言うな、アイシャ様の身を守るための一番は敵勢力の排除だ。護衛そっちは部下に任せればいい」

「間違いない配分なこって!」


 魔法士達との距離はまだある。

 だからこそ、二人は足を止めない。


「というより、そもそも何故戦闘に発展する?」

「そりゃ、この人数で押しかけたら戦争を吹っかけに来たって思うんじゃねぇの!? もしくは、本命が案外奥にいるとか!?」

「本命がいるかどうかは確かめるしかない」


 岩の塊が真正面から飛んでくる。

 クラリスは大槌に手をかけ、走りざまに振り下ろして的確に砕いていった。


「逆に何もなければ、余計に分からん」

「その心は!?」


 走りながらアレンが尋ねる。

 すると───


「突然の訪問に用意周到で出迎えると思うか? 

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