プロローグ
あーはいはい、分かってますよ戦争ですよね。
なんてことを思っているのは、四つの大国に囲まれたウルミーラ王国の第二王子であるアレン・ウルミーラである。
自堕落ライフ希望、隠居して女の子とたくさん遊んで平和な毎日を夢見ている青年であるが、現実とはかなり非情なもので。
最近ではファンラルス帝国の第一皇女を護衛したり、ラザート連邦と手を組んでイルムガンド神聖国の聖女を救出したりと、平和とはほど遠い戦争ばかりしてきた。
おかげで『英雄』と呼ばれるようになったのだが……まぁ、それはそれ。
結局名声を手に入れても今目の前に広がる光景は代わりそうにもなく―――
「此度の戦争は捕虜を巡っての戦争、ですか」
空白地帯の丘の上。
下に視線を向ければ、先程から耳に響く声と金属音の正体が明かされており、兵士達は気合いを入れて足を進めていた。
そんな見慣れた兵士達が向かっている先には、大きいローブに杖を持った人間が。
そして、それを見下ろすアレンの横には戦場に似つかわしくないメイド服の少女がゆっくりテーブルと椅子を準備して紅茶を淹れている。
「捕虜に対する扱いって……積めよ、金を。戦争ってそういうもんだろ? もしかしてあいつらは体裁だけでチップを賭けて、あとから返してもらえるってお花畑な理屈が現実でも通用すると思ってんのか?」
一か月前、空白地帯で起きた先日の戦争で、アレン達は神聖国だけでなくルーゼン魔法国家とも争った。
その際、アレン達は倒した魔法国家の人間を何人か捕虜として持ち帰ったのだが……結局、このようなことになってしまった。
捕虜として捕らえた時は「いやー、いくらふんだくれるかなー楽しみだなー?」感覚であった。
とはいえ、実際に怒ってしまっている現実はふんだくるどころか起こしてしまった時点で費用がかかる悲しい戦争である。
「まぁ、欲をかきすぎて道端に落ちている宝石を掠め取ったのが原因なのでは?」
「……お嬢さん、今更ながらにツッコむが戦場にティータイムってやめね? そこで剣を掲げている労働者からのクレームが入るの目に見えてるだろ」
「ふふっ、いいではありませんか。今回は私達の出番はなさそうですし」
メイドの少女———セリアは楽しそうに笑う。
この笑顔が本当に戦場に合わないというかなんというか。アレンは少しドキッとしながらも、渋々用意してくれた椅子に腰を下ろした。
「流れ弾で死んだら、もっとも優雅な最後だったと後世に伝えてもらお」
「見出しは『英雄、
「おっと、何やら予定していない追記があったような?」
まぁ、いいや、と。
アレンは怒号と雄叫びと金属音が響き渡る戦場で優雅に紅茶をいただく。
「んで、話は戻すが……捕虜拾ってきただけでこんな扱いって酷いと思うのよ。あいつら、金ならいっぱい持ってんだろ?」
「えぇ、そうですね。起こしているのはいつものように一部の貴族でしょうが、
「……やっぱ道端で拾った宝石が原因?」
「間違いなく」
アレンは徐に澄み切った青空を仰ぎ見る。
そして、唐突に頭を抱えたのであった。
「あー……やっぱり賢者の弟子を捕虜ってきたのが間違いだったかぁ!!!」
そう、前回の戦争でアレン達が捕虜にした相手の中には魔法国家で有名な『賢者の弟子』がいる。
アレンが倒し、気絶しているところを「こいつ持って帰ればいいんじゃね?」と回収。
何せ、『賢者の弟子』はその名の通り魔法国家の象徴とも言える賢者の師事を受けている天才児。
大陸全土を含めて数え切れるほどしかいない魔術師。アレン達もそうであるが、彼女もまたその一人だ。
魔法国家としても貴重すぎる戦力は是が非でも取り返したいはず。
であればお金たくさんふんだくれるに違いない……なんて思っていたのだが、まさか正面から堂々と取り返そうとしてくるとは。
正直に言おう―――こんなことになるなら捕虜ってくるんじゃなかった。というのがアレンの本音である。
「……起こってしまったものは仕方ない、せめて今回の戦争で更にふんだくれるよう考えよう」
「そうでもしないと、アリス様に怒られてしまいますものね」
「妹からの冷たい視線が兄の胸を抉るんだよォ!」
これで赤字であれば妹からのお説教は間違いなしだ。
「んでさ、まぁ俺としても今回の戦争の経緯は分かるんだよ」
「はい」
「でも、一つだけ分かんないことがあってさ」
チラリと、アレンは丘の上から『絶賛戦場☆なう』な景色を見る。
すると、そこには———
『な、なんでジュナ様が俺らに攻撃してんだよ!?』
『勝てるわけねぇって、賢者の弟子がいるんだから!』
『そもそも、これはなんの戦争なんだ!?』
燃え盛る火の手。
それらを生み出している、金色の髪を靡かせる女性の姿があった。
「……ねぇ、なんで救出対象の賢者の弟子がこっちの味方してんの?」
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