現れない彼女は

「んで、肝心の主催者様はどこに行ったんだ?」


 人が入り初めてから一時間ほどが経過した。

 相変わらず談笑を楽しんでいるのか、賑やかな声が聞こえてくる。

 しかし、アレンと同じことを思ったのか、中々現れない主催者に疑問視する声も耳にした。


「おめかしに時間かかっているのでしょうか? 女の子はメイクアップに時間かかってしまいますし」

「え、でもシャルちゃん「面倒くさいんで、軍服のまま参加しますよ?」って言ってたし、おめかしに時間かかるとは思えないんだけどなぁ」


 シャルロットは早い段階で部屋を出て行った。

 その際はもうすでに軍服姿で、アレン達はてっきり会場の準備でもするのかと思っていた。

 しかし、一向に現れないシャルロット。

 恐らく、もう少しすればこの会場も違う意味でざわつき始めることだろう。


「ま、まさかシャルちゃんの身に何か!?」

「……そう?」

「まぁ、あんまり考え難い話だな。ここがピクニック日和の戦場じゃないんだ、敵陣ど真ん中で何かしようとするとは思えん」

「でも、誘拐とか……」

「ないことはないだろうが、それも考え難いな。パーティー当日なんて、タイミングだろ? そんなリスクを負うぐらいなら、その前に誰かしらがしてるよ」


 もし、外部からの誘拐であれば招待されてからパーティーが始まるまでの間に済ませればいい。

 アレン達とて、シャルロットと四六時中一緒にいたわけではない。

 たっぷり時間があった以上、合理的に考えれば間違いなく事前に済ませる。何せ、今はシロが巡回しているように一番警備が厚く、人目がある時なのだから。


「そもそも、アリスも経験あるだろうがパーティーに遅れは付き物だ」

「……そうなの?」

「出し物の準備、トラブル、直前の挨拶が長引いた等、挙げればキリがないほど要因は色々あります」

「ないに越したことはないがな」


 なるほど、と。ジュナはワインをちびちびと飲みながら頷く。

 この反応を見るに、あまり今までパーティーには参加してこなかったらしい。

 今までパーティーに参加したり開いたりした経験が多いアレン達は、そのことを身を持って知っていた。


「だから、俺達は大人しくここで待機。指がふやけるまで加えて待ってれば、どうせいつか―――」


 そうアレンが言いかけた時であった。

 そっと、タキシードの袖をアリスが俯きながら摘んだ。


「……おにいさま、もし誘拐だったら」

「…………」


 アリスの言いたいことは分かっている。

 心配そうな、どこか潤み始めた瞳。少し落ち着いて考えれば、今は間違いなく兄からもらった宿題をこなせるいいタイミングだ。

 色んな連邦の技術者に話しかけに行って、交流を深める。

 それに、シャルロットは一緒にいたとはいえ初対面と言っても差し支えない関係。

 もし仮に何かあっても、自分達に助けてあげるような義理はない……ない、のだが―――


「はぁ……分かったよ。ただし、ちゃんとシャルロットからもらった通信機を各自持つこと、何かあったらすぐに連絡すること!」

「うんっ! ありがとおにいさまっ!」


 勢いよく抱き着いてくるアリス。

 その姿に、アレンは思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 それと同時に、少しばかりホッと胸を撫で下ろしてしまう。

 すると、そんなアレンの横に寄り添うように、笑みを浮かべたセリアが近づいてきた。


「ふふっ、本当はご主人様も探しに行きたかったくせに」

「……お嬢ちゃん、いいことを教えてあげよう。時にお兄ちゃんはお兄ちゃん的真面目なお話をしておかないといけない時もあるんだよ」


 アレンとて、少しばかりの時間だがシャルロットに情は移っている。

 故に、心配はもちろん心配。助けに行けるのであれば助けに行きたかった。

 けれど、本来勝手に動き回るという行為はあまり褒められたものではない。だからこそ、アリスの手前では言っておかなければならなかった。

 まぁ、一番の理解者には気づかれていたようだが。


「……じゃ、私はここに残ってる。帰ってきた時用の役割、必要」

「おう、頼むわ」


 自ら居残りを買って出てくれたジュナの頭に手を置き、アレン達はその場をあとにしようとした。

 すると―――


「アレン様、もしかしてどこか行かれるのですか?」


 人混みの中から、薄緑色のドレスを着たレスティが姿を見せた。

 話しかけようとしていたところだったのか、可愛らしく小さな頭を不思議そうに傾ける。


「あぁ、ちょっとシャルロットを捜しに行こうかなってな」

「確かに、本来であれば始まる頃合いなのですが、姿を見かけませんね……」


 少しレスティは考え込み、小さく胸を張ってアレンに向かって頷いた。


「そういうことであれば、私もお手伝いいたします」

「いいのか?」

「えぇ、飛び入り参加組はこれぐらいのお手伝いぐらいしないと」


 人手が多い方が人捜しはいい。

 だからこそ、アレンは「助かるわ」と言ってそのまま会場を出て行く。

 それから、そのままアレン達は各自ビルの中を捜しに足を進めたのであった。



 ♦♦♦



 そして、結論から言えばシャルロットは見つかった。

 連邦の総本山。パーティー会場がある同じビルのとある一室。

 応接室のような小さな部屋にて、シャルロットの姿はあった―――


「わ、私じゃねぇです……」


 統括理事局第二席。

 

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