パーティー
早いもので、二日の日数が経ち、いよいよお披露目パーティー当日となってしまった。
会場は、連邦の総本山であるビルのワンフロア。
豪華なシャンデリアに赤いカーペット。丸いテーブルの上には料理が並んでいて、広すぎるホールの中には多くの人が押し寄せていた。
そんな中で、アレンは着替え中の女性陣を待つための一人壁の花に徹していた。
『あぁ、あれが噂の王国の英雄……』
『弱小国が、よくこの場に呼ばれたものだ』
『今のうちに関係値を作っておくか?』
先程から突き刺さる視線はそれぞれ。
連戦連勝、戦争において聞かない人間はいない英雄に対して好意的と関心の瞳を向けるか、自国よりも圧倒的下にいる王国を弱小国と嘲笑うか。
いずれにせよ、剣や弓や魔法が飛び交う戦場よりかはかなり楽な空気。
アレンは気にした様子もなく、ボーッと賑わう空気を眺めていた。
(しかし、色んな国の人間が来てるな……)
帝国、神聖国、それ以外の他国まで。
シャルロットの技術はこれほどまでに人気なのか?
魔法国家の人間の姿が見えないのはよく分からないが、もしかしたらジュナやセリアを気遣ってくれてのことかもしれない。
(さて、目下は連邦の技術者なんだが……うーん、俺もバーゲンセールに突っ込んだ方がいいか? ︎︎主婦力足りるかなぁ)
なんてことを思っている時───
「失礼、お話よろしいか?」
横から唐突に声を掛けられる。
横を向くと、そこには黒い軍服を着た青年が立っていた。
同い歳ぐらいだろうか? ︎︎アレンは初対面の青年が現れたことに首を傾げる。
とはいえ、着ている服装があまりにも場違いで、印象的。
どこの人間か一目で分かる青年に、アレンは向き直った。
「あー……あなたは?」
「統括理事局、第四席───ハク・ブランチェ。本日、このパーティーの警備を担当する者だ」
「警備、か……それはご苦労様っす」
警備を担当するにしてはあまりにも立場が上すぎるような気もするが。
なんて疑問を感じ取ったのか、ハクは苦笑いを浮かべる。
「私は規律を遵守し続けてこの席に座ったんだ。そのため、こういうイベント事にはどうしても立ち会わないと気が済まない主義でね」
「そういうことっすか」
「もちろん、私は私なりに交友関係を深めるいい機会だとは思っている。だからこそ、こうして協力的にもなる」
「利害の一致、シャルロットも感謝してそうっすね」
「ちなみに、このパーティーに掛かる費用は第五席が負担した。つまるところ、同じことを考える人間は私だけはないということだ」
統括理事局も一枚岩ではないとはいえ、利害が一致すれば手を取り合う。
シャルロットが人を集め、その恩恵を受け取るために場所と治安を用意する。
だからこそ、こうしてこの場にいるのだろう───まぁ、それならもう少し格好ぐらいは気を遣った方がいいのでは? ︎︎なんて思ってしまうが。
「んで、その統括理事局のお偉いさんが俺に何か用か?」
「いや、単に顔を覚えてもらおうと思っただけだ。あとは、ちょっとした釘を刺しに───」
「言われなくても、こんなところでおっぱじめようとはしねぇよ。見た目通り、俺は戦争否定派なんでね」
「その割には、背中に引っ付いている噂が規律を乱しそうな要因ばかりだと思うが」
それなら安心だ、と。
ハクはアレンの肩を叩いて「では」と、背中を向けて人集りと溶け込んでいった。
なんだったんだ、あいつ? ︎︎なんてことを思う。
「お話は終わりましたか、ご主人様?」
すると、今度は聞き慣れた声が。
横を向くと、そこには一緒にやって来た女性陣の姿があった。
「あぁ、やんちゃボーイに釘刺しに来ただけみたいだったからな」
「ふふっ、それならよかったです」
セリアは白を基調にした清楚なドレス。
ところどころに輝く装飾があしらわれていて、お淑やかな雰囲気をより一層際立たせている。
これが一介のメイドというのだから驚きだ。まるでお姫様のよう、というのが素直な感想であった。
「……動きづらい。脱いでもいい?」
一方で、ジュナの方は清楚というよりかは大人びた印象のあるドレスであった。
闇夜をイメージさせる黒のドレス。月のような金の髪と端麗な顔立ちとよく合わさり、視界に入れる者全員の目を惹いている。
「珍しくて美味しそうな料理がいっぱいで目移りするんだよ。これは食べえ帰らないとあとで後悔するタイプだね!」
アリスはアリスで、こちらは遊び心溢れていた。
丈は膝まで。ピンクと白を基調としたドレスに、宝石のような装飾が散りばめられている。
美しいというよりかは、愛らしい。アリスの可愛らしさをより一層に引き立てていた。
「んじゃ、皆揃ったことだし、できるジェントルマンは皆の分の飲み物でも───」
「ちょっと待ってください」
「……待て、できる男」
「おにいさま、まずは飲み物よりもやらなきゃいけないことがあるんだよ」
はて、なんだろう?
呼び止められたことに、アレンは首を傾げる。
「えへへっ、誰が一番似合ってる?」
おっと、こいつぁ驚いた。
似合うなんて、そこら辺のモブの反応を見ればよく分かる。
だからこそ「似合ってますか?」という質問であればアレンは喜んでサムズアップを見せただろう。
しかし『誰が一番か』なんて質問であれば、話は別。
アレン・ウルミーラ。今、もしかしたら人生で一番男として重要な決断を強いられているのかもしれない。
(い、いやいやいやっ! ︎︎無理だろ、いくら俺が優秀なジェントルマンだったとしても、なんだよこのどれ選んでも波風立ちそうな選択は!?)
恐らく、アリスはセリアとジュナの後押しをしたのだろう。
誰が一番褒められるか。好いている者として、ここで頑張って優劣をつけておきたい。
将来的には仲良く二人で娶ってもらおうと考えていても、これは乙女のプライド的な問題。
だからこそ、からかうようにいたずらっぽい笑みを浮かべるアリスと、瞳を輝かせるセリアとジュナという構図が完成しているのだろう。
とはいえ、それはそちらの話。
アレンからしてみれば、セリアと言えばジュナから。ジュナと言えばセリアから悲しい瞳を向けられ、波風を立ててしまうことになる。
だからこそ、どうすれば?
どうすれば、この場を乗り越えられるッッッ!!!???
「え、えーっと……」
そして、しばらく考え込んだあと───
「ア、アリスかな……?」
「ご主人様……」
「……うわー」
「おにいさま、それはないんだよ」
結局、三人からバッシングを受ける選択を取った。
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