この世で最も息が詰まる戦争

兵士長

 書籍版に合わせるためのサイドストーリーになります🙇🏻‍♀️⸒⸒

 新しい味方キャラクターです!


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……ヤツが帰ってくる」


 そう神妙な顔で言ったのは、鉱山での戦争が終わったとある昼下がり。

 賢者の弟子がまだ捕虜として尋問を受けている、俗に言う「終わった直後」のことだ。

 セリアはアレンにティーカップを差し出しながら、深刻な顔をするアレンを見て首を傾げる。


「ヤツ……というのは、スミノフのことでしょうか?」

「あぁ、その通りだ」

「そういえば、ロイ様と共に他国へ赴いていましたものね。ようやく帰ってきますか」


 とはいえ、どうしてそんな顔をするのだろうかと、セリアは不思議に思う。

 しかし、セリアの疑問よりも先にアレンが口を開いた。


「俺はな、思ってるんだ……あいつが帰ってきた時の第一声を」

「そのクイズに正解したらご褒美はなんでしょう?」

「そうだな……今日は添い寝と腕枕でどうだろうか?」

「乗りました」


 セリアがガッツポーズを小さく見せる。

 そして───


「「大将! 次の戦争はいつだ!? 早く戦争しようぜ戦争!」ですかね」

「おっと、まだ本人が顔を見せていないが花丸をあげたくなるような解答だぞ」


 なんとも戦闘狂バトルジャンキーっぽい発言で、平和の下で生きる人間の発言とは思えないが、否定できないのが悲しい。

 自分の中で首を横に振れなかったことに悲しさを覚えていると、いきなり部屋の扉が開け放たれた。

 そこから姿を現したのは、巨大な剣を背負う大柄の男であった。


「大将! 次の戦争はいつだ!? 早く戦争しようぜ戦争!」

「ぴんぽんぴんぽーん、だいせかいー」

「ふふっ、やった♪」


 セリアが可愛らしい乙女の笑みを浮かべる。

 対照的に、アレンは頭を抱えるように額に手を当てていた。


「おい、スミノフ……まずは平和な一日に相応しい挨拶から始めるべきだろうが。何、子供のノリ感覚で平和な日常を乱してんだよ……」


 ウルミーラ王国、兵士長───スミノフ。

 アレンやセリアを優に超える体格に、屈強な筋肉。

 並の兵士など足元にも及ばないほどの実力を持っており、ウルミーラ王国が誇るナンバースリーの実力者だ。

 ただ、問題なのが……本人がとんでもなく戦闘好きということである。

 ある意味、アレンとは正反対な性格の持ち主だ。


「なんだ、大将? まだ隠居のことでも考えてんのか?」

「常日頃から考えとるわボケ。お前とは違って平和主義者なのあんだーすたん?」

「って言ってるが、姫さん───」

「私はご主人様の行く場所にお供して子供を作るだけです」

「相変わらずだなぁ、姫さんも」

「おい待て、ツッコむべきところが後半にあっただろう!?」


 子供云々の話に、スミノフは違和感を覚えなかったらしい。


「それより大将、戦争はどうした? いっつも遊び感覚で用意してくれてるじゃねぇか」

「好き嫌いを我慢しなさいって感じでいっつも運ばれてくるよ……今度は捕虜問題で魔法国家とだ」

「おぉ! それは朗報だな!」


 完全に朗報でもなんでもないのだが、アレンと正反対なスミノフは豪快に笑う。

 アレンもこういう性格であれば、今頃毎日楽しく隠居も考えず過ごせていただろうに。


「んじゃ、俺は部下のところにでも行ってくるぜ! いい話も聞けて大将達に挨拶できたからな!」


 そう言って、大きなガタイを揺らしながらアレンの部屋から出ていくスミノフ。

 騒がしい人間が現れてはすぐさま消えていってしまった。

 その後ろ姿を見て───


「……お守りしなきゃいけない子供が一人増えた」

「随分と大きなお子さんですね」


 アレンは頭を撫で始めたセリアの手の温かさを感じながら、大きなため息をつくのであった。

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