家族会議
ウルミーラ王国は、大陸全土でも珍しく王族が国の運営を行っている。
外交官がいたり、宰相がいたり。王族や皇族としての使命こそあれど、メインで担当することはほとんどない。
もちろん、一人が全てを補っているわけではなく、兄妹がそれぞれ役割を与えられて分担している。
第二王子であるアレンが軍部、第一王子のロイが外交、第一王女のアリスが内政。
こうしてきっちり役割分担ができているのは、三人の兄妹仲がいいからだろう。
ファンラルス帝国のような継承権争いが起きることなく、仲良くしっかりとした運営を見せていた。
王族全員が運営に携わっているということもあって、兄妹は月に一度集まって定例会議を行っている。
近況報告や、目下の課題など。
国に関係のある議題を並べ、継続して運営していくために解決策を話し合うのだ。
そして、今日もまた恒例の定例会議が行われていた―――
「今日はおにいさまのお嫁さんが将来誰になるのかを話し合います」
「こらこらこら」
艶やかな金髪と愛嬌抜群の可愛らしい顔立ちをしているアリスが、会議室で至極真剣な顔を見せる。
どうやら、この表情で放たれた議題は兄に関係のあることのようだ。
「なんちゅー議題挙げてんじゃボケ。あれか? 家族全員で話し合って行き遅れのボーイに見合い相手でも募ろうってか? やめろよ恥ずかしいし情けなくなるだろ!?」
「逆だよ逆! おにいさまのお見合い相手が多すぎて、家族はプレイボーイなおにいさまに文句を言いたいの!」
「どこで覚えたプレイボーイなんて言葉!?」
妹は知らない間にどんどん成長していくらしい。
とはいえ、確実に間違った方向へ向かっているであろう言葉を学んでおり、アレンは真っ先に心配になった。
「まぁ、でもアリスの言いたいことは分かるよ」
「でしょ!? 私、一体誰を「おねえさま」って呼んだらいいのか分からないよ! セリアさん一択だと思っていたのに、気が付けば応募用紙がいっぱいなんだけど!?」
「そんないねぇよ何言ってんのだから!?」
国の運営より兄の将来が気になって仕方ない。
とはいえ、その危機感をアレンは感じ取っていないようで。食い気味に否定する兄に、アリスはジト目を向けた。
「……聞けば、帝国の美人なおねえさんからちゅーされたって」
「ぬぐっ!」
「……神聖国の聖女様から「結婚してほしい」って言われたって」
「ぐはっ!」
「……魔法国家の賢者の弟子さんがおにいさまのために国を裏切ってるって」
「か、可愛い妹の耳に暴露をプレゼントしてるのって誰なんです……?」
「セリアさん」
アレンは脳裏に浮かぶ可愛いメイドを恨んだ。
「そういえば気になったんだけど、アレン的には彼女のことはどうするつもりだい?」
苦笑いを浮かべていたロイが弟へ尋ねる。
妹のプレイボーイ疑惑にへこんでいたアレンは、ぐったりとうな垂れたままロイへと顔を向けた。
「娼館でしかハッスルしていない俺にはいっぱい彼女がいるらしいんだけど、誰の話……?」
「その中の一人だよ。目下取扱説明書が一番ほしい爆弾ではあるけど」
そのワードに、アレンもアリスも脳裏に一人の少女が浮かび上がった。
捕虜という扱いで迎え入れている魔法国家の異端児。
敵意がなく、そもそも弱小国家では縛り付けられない
「……どうするって、兄貴が考えてんじゃないの? 俺はこの国から如何にどうやっていつ逃げ出すかしか頭にないんだけど」
「生憎と僕は残念ながら弟を如何にこの国に縛り付けられるかを考えるのに忙しくてね」
「へいへい、兄貴。そういう時は女のスカートの中身でも考えてればいいんだぜ! 野郎のナニを考えるなんて時間の無駄さ☆」
「あのー、おにいさま。いくら兄妹でもセクハラはご法度思うんだけどー」
女性がいる場での発言は気をつけた方がいいというのはご尤もである。
「まぁ、軽口は置いておいて……実際考えてはいるんだけど、扱いが難しいのは事実なんだよね。とりあえずアレンに好意的だし、いざとなったらアレンかセリアくんしか対処できないから傍に置かせているわけだけど……」
素直に魔法国家に返せば、せっかくの交渉材料をふいにしてしまうし、「戦争を仕掛けられて怖くて返した」なんて変な侮られ方をされる恐れがある。
かといって目下繰り広げられている戦争の火種には違いないし、扱い方を間違えれば国がなくなりそうな爆弾であるのも間違いない。
こんなに悩むんだったら拾ってこなきゃいいのに、と。ロイはロイでアレンへの不満を吐いた。
「いっそのこと、将来的な戦力を削るって意味合いで処分するってはあるけど―――」
「あ゛? いくら兄貴でも、その手段を取るんだったら戦争するぞ?」
「ロイおにいさまはまたそんなこと言う。優しいおにいさまがそういう方法を嫌がるって言うのは分かってるじゃん」
「冗談だって、冗談。僕だって
ロイは大人しく両手を上げて降参のポーズを見せる。
それを受けて立ち上がりそうになったアレンは肩の力を抜いて、小さく息を吐いた。
「まぁ、元はと言えば俺が拾ってきた問題だけどさ、こういうのは兄貴が担当なんだし、いい案出るならそっちだろ」
「うーん……まぁ、方法がないわけじゃないんだけど……」
なんとも歯切れの悪い反応。
あるならさっさと言えばいいのに、と。そう首を傾げていた時だった―――
「失礼します」
会議室の扉が開かれ、そこからセリアが姿を現す。
手元に何もないことから、息抜きの紅茶を持って来たわけではなさそうだ。
突然の入室に、アレンだけではなくアリスやロイまでもセリアに視線を集める。
「どったの、セリア?」
「ご主人様に一つお話がありまして」
そして、少し困ったようにセリアは顔を顰めた。
「ジュナ様が王都を見て回りたいと外出許可を求めてきたのですが……いかがなさいますか?」
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