王国の英雄VS賢者の弟子①
アレンがまず先に起こした行動は至って単純―——
生み出した雷撃の槍を投擲して、自ら突っ込む。
まず、相対すると決めたのなら敵に己を認識させなければならない。
魔法士だろうが魔術師だろうが、遠距離の攻撃ほど有利で効果的なものはないのは言わずもがな。
しかし、その利を放棄してまで認識させるのは周囲にいる馬鹿者にこれ以上飛び火が向かわないためだ。
王子なのになんて損な役回りなんだ、と。アレンは内心で愚痴る。
(けど、セリアにも損な役回りをさせたし、ここで俺がしないのもって話だよな!)
槍が向かった先は賢者の弟子であるジュナ……ではなく、モニカと呼ばれた少女。
これもアレンなりの気遣いだ。
さぁ、どう回避するか? こいつの魔術はどんなものか?
あとで相対するライカに見せつけるための一撃。それに対し、ワンピースを着た少女は―――
「『
地面に手をつき、いきなり蔦で覆われた壁を自分の前へと生み出した。
雷撃の槍が壁を壊しながらも霧散していく。
「えぇっ!? いきなり私なの!? 普通、ここはジュナさんな気がするんだけど……」
「……その発言も、どうなの?」
二人の反応はあくまで飄々としたものであった。
それだけこの戦場に危機感を覚えないのか、あるいはそもそも相手にならないと踏んでいるのか。
しかし、これで二人の意識はアレンを認識せざる得なかった。
二人の下に行く道中、魔法士達がアレンに向かって魔法を放っていく。
火の玉だったり水の塊だったり。アレンは地面に転がっていた剣を生み出した雷の一線で拾い上げると、振り回すことで迎撃した。
そして、魔法士達の間を潜り抜け、ようやく二人の近くまで足を運ぶ。
狙いは―――モニカだ。
「ちょっ!?」
「さぁさぁ、一名様ご案内! しっかりと席へ案内頼むぜ、黒軍服!」
雷を纏った蹴りは容赦なくモニカの脇腹に刺さる。
それをモニカは生み出した草木でカバーするが、雷こそ身を守れたものの勢いだけは殺し切れずに吹っ飛んでいく。
モニカ達がいたのは斜面の上。蹴られた方向が下であれば、そのまま殺し切れない勢いは転がることによって距離を稼いでいく。
転がった先には黒軍服の女性の姿。
「案内を任されたからには丁重におもてなししないといけないね。具体的には、主食に入る前の前菜をプレゼントしよう」
そう言って、ライカは懐から取り出した玉のピンを抜いてポイ捨てでもするかのように放り投げる。
それがなんなのか、魔法国家の魔術師が知るわけもない。
だが、ここに至るまで自分が狙われ続けてきた流れが彼女にようやく危機感を覚えさせた。
「ッ!? 『
自身の体を覆うように生まれた草木の壁。
小型の手榴弾は容赦なく寸前のところで爆発し、草木の壁を破壊していった。
「ふふっ、それじゃあ君には資本で成り上がった第五席のお相手をしてもらおうじゃないか」
「うぅ……なんか、私ばかり巻き込まれている気分。せっかく会えると思って参加したのに」
―――そして、その様子を傍観する賢者の弟子。
「……分散が目的?」
「あの子の相手はあいつがしてくれるって言ったからな!」
これで、一対一。
アレンは相対を始めると、そのまま拳を振り下ろした。
その拳はジュナの頬にめり込み……アレンの顎に蹴りが入った。
「「ッ!?」」
ジュナとアレンの体が大きく仰け反る。
それと同時に、二人は自分の体に違和感を覚えていた。
ジュナは意識が飛びそうなほど体が痺れており。
アレンは顎が焼けるような痛みを残しており。
どうして魔術師が肉弾戦をしてくるのか。そんな疑問も沸き上がった。
「……不思議、ちょっと興奮してきた」
ジュナは三角帽子を放り投げてその艶やかな金髪を露わにした。
やはり遠目から見ても美しいと思えた顔。近くで見れば、それがより一層強調されたような気がする。
「やだねぇ、美女のお相手をするなんて。野郎はどこに行ったよ? 今だけはむさ苦しい戦場が恋しくて仕方ねぇ」
「……だったら、今すぐ戻ればいい」
だけど、と。
ジュナはアレンの懐へと潜っていく。
「……その代わり、ちゃんと私の相手をしてね?」
「ちくしょう! シチュエーションが明らかに違うんじゃねぇのか、今の発言!?」
振り下ろされる拳と襲い掛かる蹴りを寸前で躱していくアレン。
触れるだけであの痛みが襲ってくる。それが一種の恐怖を与えていた。
―――しかし、それはジュナとて同じ。
忘れてはいないだろうか?
どうしてアレンが英雄として称えられたのか。その要因の最もたるところは、アレンが魔術師だからではない。
圧倒的戦闘センス。
故に、魔術合戦に入らず肉弾戦ともなれば……先に拳を叩きこめるのはアレンだ。
「がッ!?」
ジュナの体がまたしても大きく仰け反る。
それだけではない。頭に響くような雷がジュナの次の行動を抑制した。
「これでも、普通の人間なら一発で倒れるんだけど、なッ!」
もう一発と、アレンは空いた胴体に向かって蹴りを放つ。
足はまだ靴を履いているからいい。しかし、殴った拳はやはり大きな火傷をしている。
あと何発この拳で殴れば焼けただれるのか? それは分からない。
だが―――
「……うん、いい。魔術じゃなくてこういう戦い方、私は大好きだよ」
「だから時と場所とワードが間違ってんだよそういうセリフはベッドの上で吐きやがれッッッ!!!」
ジュナは笑う。
恐怖も焦燥も気だるさもない。
先程のつまらなさそうな顔から一変……彼女は楽しそうに笑っていた。
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