男達の戦場(嫉妬)
しばらく進み、結局空白地帯を抜けることなくだだっ広い草原で野宿をすることになったアレン達御一行。
五百人もいるからか、かなりの大所帯での野宿になった。
とはいえ、これも魔法国家を抜けてレティア国に着くまでの辛抱。
途中何度か休憩を挟んでも、恐らく二週間ほどで第一皇女の護衛は完遂できるだろう。
本来であれば魔法国家を突っ切って進むと早く着くのだが、生憎と五百人も連れてなどいけるはずもないし、皇女が足を運ぶとなれば余計な面倒事で道草を食ってしまう恐れがある。
それなら、どの国の領土でもない空白地帯を進んだ方が賢明だ。
そして、それさえ終わってしまえば、あとはのんびりだらだら国に帰ればいい。
五百人もいるため魔法国家やレティア国の観光をして……なんてことはできないが、いつ襲われるか分からないスリリングな時間よりかはよっぽど楽になる。
「はぁ……なんだかんだ初めてお前らと一緒に野宿するよな」
兵士達に混ざってテントを設営しているアレンがぼやく。
慣れないハンマーでの杭打ちの音が薄暗い草原に響き渡った。
「大将はいっつも村とかで寝泊まりしてるからなー」
「たまにはこういうのも悪くねぇんじゃねぇの、大将?」
「うーん、そう言われればそうなんだが……」
王国を出てからこれまで寝泊まりをした時は村か街に泊まっていた。
しかし、それはこんな大人数でできるわけもなし。最低限の護衛を連れて、基本的に兵士達はずっと野宿である。
「仮にも王族なんだがな、こっちは。威厳と面子が土ころで汚れなきゃいいんだが」
「俺達からすれば土汚れも立派に輝いて見えますよ」
それは兵士達の本心であった。
王族であるにもかかわらず一介の兵士達を労い、自ら前に出て戦い、圧倒的な実力で引っ張ってきてもらった。
こうしてなんだかんだ言いながらも一緒にテントの設営を手伝ってくれているのだから、アレンの優しさには胸が温かくなる。
このような上司がいて、尊敬しない人間などいるのだろうか?
この場にいる兵士達は皆、同じような気持ちであった。
(あれ……?)
その時、ふと兵士の一人が違和感を覚える。
なんか若干霧ができてね? と。
そう思った瞬間———
「ご主人様」
ピトッ、と。
アレンの背中を抱き締めるようにセリアが現れた。
「おい、才能の無駄遣いはやめなさい。お前はドッキリ企画に全力をつぎ込む製作者か」
「ですが……今日は歩いてばかりでご主人様成分が摂取できていませんでしたので」
「俺はビタミンか」
文句は言いつつも、背中に張り付くセリアをスルーして再び杭を打ち始める。
そんな光景を見て、兵士達はアレンとは違って思わず手が止まってしまった。
「た、大将……?」
「ん?」
「これは一体、どういう現象で?」
あの魔術師が。自分達の首根っこを掴んでは平気で放り投げるような女の子が。
まるでぬいぐるみを抱くかのように目の前で甘えた様子で背中へと抱き着いている。
第二王子に気があるというのは見れば分かったが、流石に幸せそうな顔を浮かべる姿には目を疑ってしまった。
「あー……こいつ、一日に一回は甘えないと気が済まねぇんだよ」
『『『『『チッ!!!!!』』』』』
「おいコラ、舌打ちしながら抜刀するな」
「ご主人様に甘えるのはメイドの特権です」
『『『『『チッ!!!!!』』』』』
「悪くないだろう!? この件に関して言えば俺は悪くないだろう!?」
毎日体を鍛えるだけで使用時間などなく持て余ざるを得ない男共にとっては、可愛い美少女に甘えられるという現象こそ万死に値する。
立場など関係ない……幸せを謳歌する者には死の鉄槌をッッッ!!!
「あら、お邪魔だったかしら」
そこへ現れたのは帝国の第一皇女であるリゼ。
瞳を燃やして羨まけしからん主人を囲うように抜刀している兵士達、背中に抱き着くセリア、命の危機を感じて拳を握るアレン。
血が流れそうな一歩手前を見ても平然としているリゼは中々の精神の持ち主であった。
流石は国を担う皇族といったところだろう……物応じないその精神は賞賛に値する。
「お邪魔じゃねぇよ今すぐヘルプがほしいところだよ!!!」
「救急セットを用意させておこうかしら」
「俺の怪我は確定なのか!? 事後に至る前に打開しようってポジティブな精神は持ってくれないのか!?」
このままでは貴重な戦力が一人減ってしまう恐れがある。
今すぐにでも助けてほしいアレンであった。
「これから私、湯浴みをしようと思うのだけれど」
「このタイミングでその発言は覗けっていう前振りでよろし?」
「覗いて大事になってもいいのなら私は構わないけど……」
「……………………超悩むがやめておこう。ここを切り抜けてエデンを拝めたその先にセリアと帝国からの往復ビンタがあるって俺は分かっているからな」
最悪往復ビンタどころではなく首を斬られる可能性もあるのだが、アレンは一歩踏み止まる。
何せ欲求を貫こうとしても剣を向けた兵士達が行く手を阻み、背中に張り付いているセリアからのお仕置きが待っているのだから。
「でも、私個人アレンには感謝しているし―――」
アレンが一人、兵士達に囲まれて冷や汗を流している中……リゼはからかうように笑った。
「なんなら一緒に入る?」
「かかってこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
『『『『『しゃおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!』』』』』
アレンはセリアが背中に張り付いている状態で兵士達へと突撃していった。
ここを切り抜けて待っているのは美少女との混浴。それは、全世界の男の
ならばこそ、
「ご主人、様……?」
「な、何やら背中から不穏な空気と股関節に走る痛みうォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!???」
―――とはいえ、そんなに美味しい話などあるわけもなく。
きちんと、甘えから戻ったセリアがアレンの股関節の可動域を叫びだすまで無理矢理に広げたのだが……まぁ、それは余談である。
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