予期せぬ展開
「うぉぉぉぉぉぉい!? なんでここで魔法国家が出しゃばってくんだよ!?」
火属性の魔法をなんとか回避したアレンが叫ぶ。
辺りを見渡すと草木に火が燃え移り、周囲は見晴らしのいいものへと変貌していた。
幸いにしてアレンが叫んだおかげで兵士達も同じように躱せていたようだ。リゼはアレンが頭を押さえていたので、こちらも無事である。
「おかしい、これはおかしいわ……ッ! いくら魔法国家の空白地帯だといっても、私達に干渉するなんて!」
「間違えて誤射した可能性は!?」
「あれを見ても同じようなことが言えるならちゃんと答えてあげるわ!」
もう一度魔法士の方へと顔を向ける。
すると、魔法士達はこちらに向けて二射目を放とうとしていた。
「おいおい、森の開拓は他所から始めてくれよ!? 逃げ遅れた兎ちゃんがまだここにいるだろうが!?」
アレンは手を振って雷撃の槍を飛ばす。
それを見た魔法士達はごぞって逃げようとするが、的確にアレンが生み出した槍は追従するかのように脳天へと突き刺さった。
これで脅威はいなくなった……などと考えるのは安直だ。
「てめぇら、走れ! かくれんぼの鬼さんが明かりを求めてやって来るぞ!」
アレンはリゼを抱えて走り出す。
辺りは燃え、アレンが生み出した光でこの場所は極端に目立ってしまった。
もし付近に第二皇子派閥の帝国兵がいるのであれば、間違いなく勘付いてここへ向かってくるだろう。
「生まれて初めてのお姫様抱っこ……憧れはなかったけど、もう少しロマンチックなシチュエーションがほしかったわね」
「俺だってほしかったよこんなにスリルあるシチュエーションじゃなくてさぁ!? パーティー会場が焦げ臭くて仕方ねぇ! 助けたご令嬢が鼻つまんじゃったら絵面最悪だろうが!」
とりあえず、足を動かす先は当初のルート通りレティア国の国境だ。
セリア達とは違って迂回ルートを進んでいるため、とりあえずは森を抜けることを優先しなければならない。
いや、それよりも問題は―――
「今の攻撃……私怨から打ってきたものって考えてもいいかな? よく見えないけどあれって王国兵じゃね? ってノリで! そっちの方が幾分か未来は明るい!」
「今の私達は旗も掲げてなければどこにでもありそうな服に甲冑よ。よく見えないけどってノリで打ったのなら、間違いなく自国の兵士もいつか豚の丸焼きね」
「食卓に並ぶチキンはなんでもいいって発想の方が怖いわな! 魔法国家は皆猟奇的なお心のまま育ったのか不思議だよ! 教育方針はどうなってる!?」
無論、こんなことを言っているが無差別に知らない人間だから攻撃した……なんて可能性は薄いと思っている。
四つ巴の拮抗が続いている状態で下手に相手を攻撃して大義名分を与えてしまえば、魔法国家が維持してきた拮抗が簡単に崩れ去ってしまうからだ。
先に手を出したのはそっちだろ? 落とし前はどうしてくれる? こんな言葉を向けられ、軽く無視しようものなら相手だけではなく他国だって大義名分の方に加担して食い物にするだろう。
それが頭で分かっているからこそ、相手が誰かも分からない相手を攻撃するというのはあまり考えられない。
つまり、目的があり、相手が誰か知っているからで―――
「とにかく逃げるぞ! 呑気に登山なんかしてりゃ、後ろのクライマーに背中を突かれちゃうからな!」
「突かれるのが指だったらいいけど」
「残念なことに、登山に不相応な剣か槍だろうよ! ここにはそういう趣味の野郎しかいねぇしな!」
そう思っていた時、進行方向にローブを羽織った集団が現れる。
人数は十人、それぞれがアレン達の姿を視界に収めるとすぐさま杖を向けてきた。
『敵だ!』
『ここにも男の風上にも置けない野郎が現れやがった!』
『守れ! 優先事項は大将と皇女様だ!』
兵士達も抜刀を始める。
だが、アレンはそれを大声で制した。
「馬鹿、手を出すな! 魔法士相手じゃ、兵士は不利だろうが!?」
アレンはリゼを背負ったまま口にする。
『
いくつもの雷の柱がアレン達を覆うようにして生まれる。
その光は地面を抉るようにして魔法士達へと向かって行き、逃げる間もなく相手を飲み込んだ。
焦げ臭い匂いが辺りに広がり、黒く荒んだ死体だけが地面へと転がる。
「走れ! このかくれんぼをさっさと終わらせて
アレン一人であれば幾分かマシだったかもしれない。
だが、いつ背中を狙われるか分からない現状で護衛対象を抱えて動くのはいつか限界がくる。
故に、アレンは焦燥を滲ませながら走り続けた。
♦♦♦
一方でアレン達と別れ、多くの兵士を引き付けれ当初のルートを進んでいたセリアはため息を吐いていた。
「さて、これは困ったことになりましたね」
何せ―――
「敵が誰一人としていません」
♦♦♦
走り続け、道中現れた魔法士を兵士達と協力して倒したアレン。
全力疾走したおかげか、数時間ほどで森を抜けることに成功した。
だが―――
「……おいおい、話が違うんじゃねぇかリゼ様?」
少し起伏のある崖の上にて、アレンはポツリと言葉を漏らした。
その横では、同じように驚いているリゼの姿。
「ごめん、なさい……私もこれは予想してなかったわ」
「そりゃ、結構。馬の着順が大荒れすれば、同じことを吐くだろうよ。って言っても、吐くべき人間は俺達王国だろうがな―――」
二人が向ける視線の先。
そこには千を優に超える帝国兵と……魔法国家所属らしき魔法士の姿が数百名。
レティア国の国境を守るかのように、アレン達の行く先に立っていた。
「てめぇら帝国はいつから魔法国家と手を組んでいやがった!?」
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