添い寝

「しっかし、まさかあの迷子の子が聖女だったとはなぁ」


 アレンは自室のベッドで寝転がりながら先程出会った少女のことを思い出した。


 神聖国の聖女とも言えば、教皇に継ぐほどの地位を持った権力者だ。

 神聖視されている面を見れば、民からの人気は教皇よりも上だろう。

 そんな相手がいきなり目の前に現れれば驚きもする。迷子になっていたが。


「世の中、何が起こるか分かりませんね。結婚式のサプライズゲストに国王様がやって来た感覚と同じでしょうか?」

「え? 新郎の席に座ってくれなきゃ困るんだけど?」


 アレンからしてみれば実の父親が同席もせずにサプライズに現れたら驚くというよりも困るだろう。

 どこから現れてんだよと拳が飛んできてもおかしくはない。


「それで、聖女様はどこにいかれたのでしょうか?」


 アレンの頭を膝の上に乗せながらセリアが尋ねる。

 現在、アレン達は王都巡りを中断して王城へと戻ってきていた。

 もちろん、ソフィアも一緒に連れてきた。探している聖騎士はアレンの兵士達に任せるという流れに落ち着く。

 流石に聖女をあのまま王都に放置するのはよろしくないというのが、アレンとアリスの見解であった。


「さぁ? アリスが連れて行ったからなんとも。国のどこに何を建てるかっていう部分はアリスの担当だからな、きっとその話でもしてるんだろうよ」

「驚いていましたね、ご主人様達が王族だと知った時は」

「向こうも結局は俺達と一緒だったってわけだ。そりゃ、いきなり目の前に王族が現れれば結婚式にサプライズで教皇が現れるぐらい驚くだろうよ」

「向こうからすればそれこそサプライズで現れれば困るのでは?」


 似ているようでどこか違う。

 具体的に挙げるとすれば、間違いなく国力という悲しい点だろう。


「ま、結局聖女様だろうがなんだろうが俺達には関係のない話だ。優雅に昼寝でも興じようぜ?」

「ご主人様、そろそろ足が痺れてきました」

「おっと、すまん」

「ですので、寝るのであれば添い寝でカバーしようと思います」

「おっと、その発言をしてくるとは思わなかったぞ。男女が同じベッドという点に君は危機感を覚えるべきだ」


 日は沈んでいないが、流石に未婚の男女が同じベッドというのはマズいだろう。

 合法的に金を払う場所ならともかく、メイドに手でも出せば一夜の過ちが人生の過ちに早変わりだ。


「式を挙げるなら海の見える丘の上で挙げたいです」

「なるほど、危機感を越えた先の責任まで君は見据えているわけか……ッ!」

「子供は三人ぐらいがちょうどいいと考えます」

「将来設計まで組み立てるとは思わなんだ!」

「ですが、ご主人様がサッカーができるぐらいほしいというのであれば考えなければなりませんね……」

「考えるべき点は二十人も容認できるお前の頭だと思うが!?」


 そこまでハッスルはできません、普通に。

 アレンは二人ぐらいがちょうどいいと考える派の人間だ。


「ささっ、一緒にお昼寝といきましょう♪」

「……はぁ、なんか俺の中での女の子のイメージがどんどん崩れ去っていくような感じがする」


 それでも、お昼寝に興じたい気持ちは変わらず。

 アレンはセリアの膝から頭を離して、そのままふかふかの枕へと頭を置いた。

 そして、そのタイミングを見計らってセリアもアレンの横に寝転がる。


 甘く、それでいてどこか胸をくすぐる匂いがアレンの鼻腔を刺激した。

 ドクッ、と。胸の鼓動が早まるのを感じる。

 横を向けば、セリアの整った顔が眼前まで迫っており、その顔はほんのりと赤く染まっていた。


「いかがですか、可愛い女の子の添い寝は? 今時、お金を積んでも味わえないサービスですよ?」

「はぁ……俺以外にはするなよ、もっと自分を大事にしろ」

「ご安心ください、ご主人様以外にするつもりはありませんので」


 そうかよ、と。アレンは天井を向いてふと瞼を閉じる。


「んじゃ、夕食時になったら起こしてくれ」

「ふふっ、かしこまりました」


 そう言って、アレンの意識は微睡の中へ―――


「おにいさまー!!!」


 ―――誘われることはなかった。


「なんというベストタイミング……ッ! 重たくなった瞼が一本釣りされた気分だ!」


 勢いよく開け放たれたドア、ご近所迷惑考えない大声。

 昼寝に興じようとしたアレンの意識は強制的に目を覚ましてしまう。


「およ? お邪魔だった」

「そうだな、寝るところだったからな。決してナニをするつもりじゃなかったっていうことは先んじて弁明しておく」

「セリアさんはばっちこいみたいな空気出してるような気がしなくもないけど……」


 入った部屋で男女が同じベッドで寝ていればそう思うのも無理はないだろう。

 だが、アレン・ウルミーラ……過去一度足りとて、メイドの少女に手を出したことはなかった。


「……んで、なんの用だよ? 聖女様と話し合いしてたんじゃねぇのか?」


 アレンは瞼を擦りながらゆっくりと体を起こす。

 セリアに至ってはかなり名残惜しそうにアレンの寝ている場所を見ていた。


「あー、うん……一応さっきまで話してたんだけどー」


 何か口籠り始めたアリス。

 何か話が纏まらなかったのだろうか? アレンは首を傾げた。


「教会をどこに建てるかって話なんだけど……先に言っておきます! 欲が出ちゃいました! ごめんちゃい!」

「……ん?」


 アレンの背中に何故か嫌な予感がヒシヒシと張り付いた。

 脳内に「今すぐここから離れろ!」という警報すら鳴り響ているような感じさえもする。


「教会は新しくできるに建てることにしました!」


 そして—――


「っていうわけで、教会をバックにつけたからサクっと鉱山取ってきてくれない、おにいさま? 私達は籠城戦っていう形の戦争を始めたいと思います!」


 そんな爆弾を落とすのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る