第5話「すいません、こんなとこで騒いじゃダメっすよね?」
「な、ななな、何やってんのよ、アンタ等!! ここがどこだ思ってるのよ!!」
突如、『
彼女はボディスーツのような、きわどい黒い軽鎧を身にまとっており、
彼女は背に短弓をうっちゃり、手にはクナイ。
そして、体中には、暗器を括りつけていた。
そう、『
彼女は白銀の髪を敢えて泥で汚し、綺麗な顔にも炭を塗って汚れているが、それでもなお美しい少女だった。
そのリズが───。
「どうしたリズ? 慌ててよぉ、何があった……」
「そうだぜぇ? まずは落ち着きなって、『ニャロウ・カンソー』はどこだよ?」
「っていうか、リズ臭ーい……!」
一方、リズの険しい様子にも何の危機感も持っていないマナックたち。
彼女は険しい表情のまま、タタタタッ! と、軽快に走り寄って来ると、マナックの胸倉をつかみ……。
「馬鹿ぁー!! 魔物の領土でなんでそんなに騒いでんの? バカなの? 死ぬの?───……何考えてんのよぉもぉ! あいつに気づかれちゃったじゃない!!……ああ、もう、いいから、皆、隠れてッ!───四天王『ニャロウ・カンソー』が来るわッ!」
「「「「は?」」」」
「え………………?」
ズズン……バキバキバキ、メリ。
リズが駆けてきた咆哮。
湿地の低木が多数生い茂るその先から───。
《ウジュルルルルルルルル……! ブシュゥ……》
不気味な叫び声がこだました。
(───う、嘘だろ……。マジで来やがった!)
困惑するグエンに、慌てるマナック達。
「な、なんだよ! この声、この音!」
「こ、この魔力は……邪悪な気配は……!」
表情を険しくするレジーナ。
その様子からも、ただ事ではないとわかる。
そして、
ズシィィィィイイイン……! と突如、リズの背後から現れたのは───……。
《ブシュゥゥゥ………!》
「「「「ひぃ!?」」」」
3バカとレジーナが顔面を蒼白にしているその前に!!
そう。のっそりと現れたのは─────壁??
「お、おい……。なにかいるぞ!」
グエンの声にようやく顔をあげたマナック達。
「か、壁?」
「な、なによこれぇ?!」
そう。
最初は壁かと思った。
それほどに巨大……そして、圧倒的質量。
…………だが違う。
《ウジュゥゥ…………! ブシュゥゥ……!》
顔があり、
身体があり、
武器を持ったそいつは!!!
───まさに悪夢の存在だった。
「う、嘘だろ……」
マナックは茫然とそれを見上げる。
リズは既にこちらに到達していたが、よほど慌てて来たのか、肩で息をして声をあげることもできないらしい。
辛うじて臨戦態勢を整えているが……。
そのリズのかわりに、アンバスが叫んだ!
「し、四天王……毒者の『ニャロウ・カンソー』だぁぁあああーーー!!」
彼の声は、
それはそれはわかりやすく、全員にその正体を教えてくれる。
そして、
《ヴジャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!》
ビリビリビリビリと、大気を揺るがす咆哮に全員の生気が奪われた!
ぎゃ、
「「「「ぎゃああああああああああ!」」」」
マナックはタダ絶叫し、慌てて武器を引っ掴む!
だが、アンバスは盾を構えるのすら忘れ、
シェイラも杖を握りしめたまま、ただブルブルと震えるのみ。
普段は毅然としているレジーナも……。
「じょ、冗談きついわよ……こんなのに勝てるわけが───」
「こ、こんなの無理ぃ───!!」
シェイラは腰を抜かし、失禁するほどだ。
ズシンズシンズシン!!
「ひぃ! こ、これが、ニャロウ・カンソー?! こ、こここ、これで魔王軍四天王最弱なの?!」
浄化に長けているはずの枢機卿レジーナでさえ、四天王の姿を見ただけで実力差を理解してしまった。
そう。圧倒的なまでの実力差に───。
「む、むり……」
あれほど威勢を誇っていた『光の戦士』たちが、四天王最弱と言われているはずの、ニャロウ・カンソーに恐れ慄く!
《グルルルルルウルウ、ウジュルルル……!》
だがそれも仕方のないこと。
だって、その姿は四天王と呼ばれるに相応しく、凶悪そのものッ!
毒を撒き散らしながら迫りくるニャロウ・カンソーは、いっそ巨大なリザードマンと言った風貌だった。
いや、もはやドラゴンか…………!
《ルぅルルルルウルウぉぉおおお……!!!》
ビリビリビリビリ……!
太い四肢と棘だらけの尻尾を持ち、全身を分厚い鱗で覆われており、頭部には一見して目はない。
───代わりに瞼のような……分厚い装甲を纏っている。
「ぶ、武装してやがる!」
そして、武装はと言えば、二手にそれぞれ槍と銛を構えており、尻尾にはモーニングスターのような鉄球がついていた。
さらに、全身は魔法を跳ね返す「
これこそが、ニャロウ・カンソー。
人の手の届かぬ安全圏。
その頭部からは常に毒を吐いて、見たものの心を折るという……。
それが魔王軍四天王!!
その最弱といわれる──毒者の『ニャロウ・カンソー』の姿だった。
《ブシュ……。ウジュルルルル!》
奴が息をするたびに、周囲には異様な臭気が立ち込めてきた。
「う、スゲー匂いだ」
「おえええええ……!」
ビチャビチャとシェイラが吐き戻す中、ニャロウカンソーが堂々と姿を現し『光の戦士』を見下ろす。
《ウジュルルルル……!》
「で、でけぇ……! ちぃッ! リズの奴、厄介なもの連れてきやがって……! 奇襲されてんじゃねーか、くそ!」
「おい、どうする? やるのか?!」
毒づくマナックに、アンバスが顔面を青くしながらも問う。
「こ、このままではまずいよな。……おい。レジーナ! すぐに結界の構築を! まずは体勢を立て直す───」
マナックは愚りながらもを、すぐに迎撃態勢を整え、四天王に向き合う。
奇襲を受けた時点で不利と判断し、一度体制を整えることにしたらしいが……。
しかし、
「む、無理よ! 結界は、そんなにポンポンと展開できるものじゃないわ! 時間がかかるの!」
レジーナの得技、聖女教会の秘術───「
それは、邪悪なものの侵入を阻み、一時的に癒しの効果をもたらす無敵の
「な、なんだと?! おまっ、あんなに無敵の結界だって豪語してたじゃねーか!」
「だーかーらー、時間がかかるの! で、でも。あ、アンバスが時間を稼げばあるいは……!」
結界までの時間をタンクのアンバスに稼げと提案するレジーナ。
それを、
「そ、そうかッ! よし、アンバス行けッ!」
「ば、ばばば、馬鹿言うな!! 物理はともかく、毒は──────ぐぅ、くっせ!!」
ズシン……ズズズ……。
《ブシュゥゥ……!》
いつの間にか周囲を薄く漂っている霧の様なもの。
これは、
「ど、毒です!! 奴の毒が撒き散らされています!」
さっと、ハンカチを口にあてて簡易マスクを作ったレジーナ。
まともに吸い込んだアンバスはと言えば、口から泡を吐きビクビクと痙攣している。
「アンバス?! おまえタンクだろうが…………!! って、こりゃダメだ!!」
バッターーーーーーン!!
ついに、白目を剥いてしまったアンバス。
「く……! まだ戦闘にもなっていないのに! このものの不浄を癒したまえ……
パァッァア♪
レジーナは解毒魔法を唱え、マナックを回復させるが、戦闘開始前でこれだ。
まともに戦えるはずがない……!
《ブシュウウウ、ブシュウウウウウ!!》
ズシン……! ズズズ……!
アンバスが解毒されようがお構いなしにニャロウカンソー迫りくる。
まるで、どれを最初に獲物にしようか舌なめぜりするように……。
遂に全貌を現したニャロウ・カンソー!
「こ、こんな奴! 僕の魔法で!!」
「そ、そうだ! やれッッ! シェイラ」
キュィィィィイイイン!!
シェイラの持つ禍々しい杖に魔力が集中していく。
それは上級電撃魔法、マルチサンダーボルトらしいが、
……ここでようやくグエンが叫ぶッ!
「だ、ダメだ、シェイラっ! そいつに魔法は──────」
しかし、このパーティでグエンの言葉を聞く者はいない。
リーダーのマナックに至っては、
「……くっくっく! 奴は四天王最弱ぅ!──俺たちの力で一気にッッ!」
グッと人知れずマナック達が拳を握りしめ……。
いけっ! シェイラ! と───。
「──うん!! はぁぁぁああああッ! マルチサンダーボルトぉぉお!」
ちびっ子のシェイラの杖からバリバリバリ!! と眩い光が迸り────……ピシャーーーーン! とニャロウ・カンソーの体を刺し貫いた!
「やった!」
刹那。
ニャロウ・カンソーの巨体が白い光の中に消え! シルエットがグラリと傾く。
「い、いいぞ、シェイラ!!」
「す、すごいじゃない!!」
マナックと、レジーナが手放しでほめる。
そして、ようやく意識の覚醒したアンバスがボンヤリとした顔でニャロウ・カンソーの姿を探し……。
モクモクと猛烈い立ち込める爆炎の中、言った。
「や、やったか…………?」
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