第28話「よぅ……! もう一回言ってみろよ」

「ぐ、グエン……だと。ほ、ほんもの、か?!」


 まるで死人に出会ったように顔引きつらせるマナック。

 顔色は蒼白で、今にも卒倒しそうだ。


 そして、このクソアマも。

「───う、うそ……。ど、どうやって?」

「よぉ?───その節はどーもぉ!」


 神に誓って・・・・・大嘘をついた・・・・・・枢機卿のレジーナさんも驚愕している。


「て、てめぇ……! あの傷でどうやって?! 俺は確かに──」

「おぅおぅ、痛かったぜぇ?」


 アンバスは信じられない者を見る目だ。

 しかし、

 頭が脳筋ゆえ、つい口を───。


「ば、ばか! だ、だだだ、黙ってろ!!」

「喋んじゃないわよ、このうすらデカ!!」


 思わず!ポロリと本音の出たアンバス。

 それを周囲は、バッチリ聞いている。


「あの傷??」

 途端に胡乱な目付きになるティナ。


「そうだ! テメェみたいな雑魚が動けねぇように、しっかり足を!!」


「おい!? アンバス!」

「黙れって言ってんでしょ!!」


 おーおー。

 仲間が必死だぜ。


「……はは! 俺は『パシリ』なんでね。ちょっとした怪我くらいでピーピー言ってらんねぇんだよ──っていうか、お前さっきから見てたが、泣いてるふりして笑ってただろ」

「んな?! このパシリが!」

「でも、頭が悪いから、マナックに黙って突っ立ってろて言われた口か?」


 くくく。

 こいつホントに馬鹿だからな、挑発すれば勝手にさえずるさ。


「んっだと、この野郎! もう一回ぶっ刺して・・・・・・・・・やろうか!!」


 痛いところを疲れたアンバスが激昂し、剣を抜こうとする。

 だが、それより素早く、


「黙ってろって言ってるだろうが、でくの坊ッッ!!」

「死ね、筋肉だるまッッ!!」


 思わず立ち上がったマナックと、

 たまらず跳ね起きたレジーナ!


 ───バァァン!!


 二人が憤怒の表情でアンバスを壁に叩きつける。


「す、すまん……」


 衝撃と、マナック、レジーナの鬼のような形相にすごすごと引き下がるアンバス。


「くくく……」

 それにしてもひどい言われようだな……。

 ええ、おい?


「…………えっ~と、マナックさん────今のは・・・どういう意味ですか?」


 ギックーーーーーン!

 と、顔をひきつらせるマナック。


 だが、ギルド職員は甘くはない。

 リズに縋り付きながらも、ティナは胡乱な目つきをマナックに見せる。


「──『もう一回ぶっさす』とは??」


「い、いや──そ、その」

「え、ええ。そ、そのぉ……」


 ティナの目を見ることができずにマナックはタジタジ。

 レジーナもダラダラと冷や汗をかく。



「ふむ……『もう一回』ですか──」



 ダラダラダラダラ……。

「「あぅあぅあぅ……」」


 もはや、青いを通り越して黒い顔色のマナック達。


 だが、ティナは容赦しない。

 先ほど泣きじゃくっていた様子をどこにも見せず、口は笑っているが眼が全く笑っていない恐ろしい表情で追及する。



「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か・?」



 じっとりと、睨むティナの視線に、顔をひきつらせたマナック達。

 そして、レジーナの顔といったら──まぁ、ぶっさいく。


「あわあわあわ、ああああ───あれだ! あれ!」

「そそそそそ、そう、そうよ! あれよ!」


 なんだよ、あれって……?


「あれとは?」

 はい、ナイスつっこみティナさん。


「あれはあれだ! あれー?」

「あは、あはははは。ティナさん? あれはあれです」


「はぁ? つまり、誤魔化しいのですか?」


 ドキリ! 顔を硬直させる三馬鹿。


 とくに、二人が必死で誤魔化してるのに、口を滑らせた当の本人、アンバスはバカ面を晒している。

 パカー……とあけた口の端から涎が一筋。

 表情筋がお仕事をしていない様子だ。


「…………ふーむ。どうやら、随分報告の虚偽が含まれているようですね」


 トン! とわざと音を立てて書類をテーブルに置いたティナ。


 ギクリと身を震わせるマナック達。

 ギルド職員であるティナに指摘され、冷たい視線を見せらると、もはや見ていて滑稽なくらい脂汗まみれだ。


 小さく咳払いしたティナは、マナック達の調書をパラリとめくると、


 えー。

「───では、最期を目撃し……かつ、確かに神に誓ってまで、間違いなく死んだと証言してくれたレジーナさんも交えて、その死んだはず・・・・・のお二人も交えて調書を作りなおしましょうか?」


 ────ニッコリ。


 不気味に笑うティナに、マナック達が震えあがる。

 絶対逃がさねぇぞ! と、その目が言っていたのだから──。

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