第29話「よぅ……。これを見たかったんだろ?(前編)」
「────……というわけです」
「……な、なるほど」
顔の色を失ったマナック達を尻目に、
グエンはティナにむけて、あのニャロウカンソーの領域で起こったことの全てを報告し終えた。
もちろん、マナック達が黙って聞いているはずもない。
鬱陶しいくらいに、途中であーだこーだと茶々をいれたり、真っ向から反論したり……。
しまいには、途中で激昂したアンバスが何度も剣を抜こうとする始末。
だが、さすがにそれだけは全力で押し留めるマナックたち。
「放せ、この野郎」と、それでも構わず、アンバスは幾度となく割り込もうとしていたが、ティナは涼しい顔と絶対零度の眼差しでそれを押しとどめていた。
「やれるもんなら、やってみなさいよ」
ティナはずいぶんと余裕ようにしているが、それはここがギルドだからだろう。なにせ、ギルド内での職員への暴行は重罪である。
仮にティナに小さな傷一つつければ、世界中のギルドからお尋ね者指定だ。それは、いくらSSランクでもそれは免れない。
「「「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎ……」」」
それをわかっているらしいマナックとレジーナは、ついに諦めたのか、先ほどから一言も発していなかった。
数枚にわたる調書。
ティナもさすがに疲れをみせていたが、ようやくペンをとめ、事情聴取を締めくくった。
そのまま、大きくため息をつくと、
「───それにしても、まぁ……よくぞご無事で。リズさんも……」
額を抑えたティナが、もうお腹一杯といった様子で天井を仰いでいた。
一度目の、マナックたちから取った調書には、赤字で修正やら注釈が記載されていたが、あまりにもそれが多すぎる。
ついには、それでも間に合わず、結局新しい調書を取り直すことに。
それくらいにマナックとグエンでは、言うことが乖離しているのだ。
事の発端から、事の顛末まで。
まー…………それはそれは、内容から結果に至るまで、マナックのそれとはまっっったく異なるもの。
グエンはグエンで、一部、称号「光」のことは省略しつつ報告した。
言っても良かったのだが、
しても理解できないだろうし、するとややこしい。
何より、マナック達に手の内を明かさないためでもある。
そのため、グエンの調書もマナックに負けず劣らずかなりぶっ飛んだ内容になり、どっちも中々甲乙つけがたい状態だ。
「うーん……」
ティナが困った顔で天井を仰ぐ。
だが、グエンは何も心配はしていなかった。
なぜなら、マナックとグエンの
そのせいか、ティナは額を抑えて悩む羽目に。
「なんというか、ほとんど小説ですよね? これ……」
ティナは苦笑いを浮かべて、グエン達を見回す。それでも投げ出さないだけに、どこかに確信があるらしい。
それでも、リズの補足がなければ、グエンの言う報告だって荒唐無稽な作り話にしか聞こえなかっただろう。
だって…………、
「──くっくっく……」
その時だ。
今まで沈黙を守っていたマナックが、低い笑いを漏らす。
それに同調するかのように、レジーナもクスクスと含み笑いを浮かべた。
「くすくすくす……。あーらら」
二人が突如様子を豹変させたことにアンバスだけがついていけずに、「え? お? あ? えへへへへへ」と、とりあえず追笑を始めたころには、マナック達はいつもの不敵な様子に戻っていた。
「………………何がおかしい?」
その様子に、若干のいら立ちを含めたグエン。
正直、同じ空間にいるのも腹立たしいが、まずはここで決着をつけようと堂々としているのだ。
だが、そこに挑発的なマナック達の態度。
「はは!
「おっかしいわよぉ────おーっほっほっほっほぉ!!」
聖女の顔をかなぐり捨てたレジーナが高慢ちきな笑い声をあげた。それに合わせるようにマナックアンバスも調子を合わせて、3人がゲラゲラと笑い始めるではないか。
笑っていないのは、
グエン達と、ティナと───その三人の様子に、いつの間にか応接スペースの傍にいてオロオロとしているシェイラだけ。
(……なんだこいつら?)
「おかしいところでもあったか? ああん?!」
グエンがゆっくりも凄んでみせると、マナック達は余裕のは表情。
「だってよぉ、」
「ねぇぇえ……」
ニチャア、と笑うマナック達。
そして、
「お前がニャロウ・カンソーを倒しただぁ?!」
「おまけに、伝説の槍を二本もですってぇー!! クスクス」
「ありえねーーーーーーーー! ギャハハハ」
「「「証拠もねーーーーくせによーーーー!」」」
ぎゃーーーーーーはっはっはっ!!
………………………………あ゛?
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