第8話「すいません、逃げちゃいましょう!」

「伏せてッ、グエンっっっ!」

 グエンの予想外の位置、まさかの後方からの救いの手が────……?


 振り替えろうとしたグエンの鼻先をのなにかが航過していく───。


 ビ───ヒュ、ヒュンッッ!!


「リズ?!」

「伏せろっていってんの!!」


 黒いつむじ風のごとき、小さな影が戦場に乱入すると、その姿を追うように、鋭い輝きが疾駆し────……。


 ズカカッカカカッ!!

《ギジャァッア?!》


 着弾と同時にリズが急制動をかけた。

 彼女の姿がグエンを庇うように降り立ったとき、

 ………………ドズゥゥンン!!

 と、背後で沸き起こった盛大な地響きッ。


 猛烈な土埃がグエンを追う超すようにして押し寄せてきた。


「す、すっげ……」


 見れば、ニャロウ・カンソーが顔面にクナイを受けて地面に墜落している。

 どうやら、前方から援護に駆け付けたリズが相対速度を活かして、クナイの強烈な投擲を開始したらしい。


「ゴメン、遅れたわ! 今から援護するねッ!…………はぁっぁああ!!」


 更に追撃の一手として、両手の五指に棒手裏剣を構える。


多連投擲マルチシュートッッ!」


 ズバシュシュシュシュシュシュン!……──ズカカカカカンッッ!!


《ギョワァァァ!?》


 黒い手裏剣が暴風のように飛びすさり、地面に突っ伏すニャロウ・カンソーに突き刺さる。

 奴がそれを嫌がり、顔を掻きむしると……。



「伏せてッ! 爆破の呪符付き・・・・・・・なの、あれ───」

「んな?!」


 カッ─────────────……チュドーーーーーーーーーーン!!


「ひええ!」

「きゃああ!」


 グエンとサティラの叫びが爆風にかき消される。


 直後に、地面を震わせる大爆発!!

 リズが二手の五指より放った、八本の爆破呪符付きの棒手裏剣が一斉爆発したッッ!


 しばらくして、バラバラと土塊が降り注ぎ───ニャロウ・カンソーも……。


「や、」

「やったの?!」


 顔を伏せていたグエンとシェイラ。二人が期待に胸を膨らませて後ろを振り向くも、


「やってるわけないでしょ!! 逃げるわよッッ!」


 ですよねー……!!


《ギシャシャシャシャァジャァァアアアアアアアア!!》


 うわ、めっちゃ怒ってらっしゃる!!


「はやく!」

「おう!」「う、うん!」


 リズの援護で少し「時間」が稼げた。

 だけど、「ヘイト」も滅茶苦茶かせいでしまった気がする!


 それでも───。

 それでも……!!


「だ、大丈夫よ。もう少しでマナック達がいるから! そこまでいけば……」


 リズは期待を込めて前方見つつ駆け続ける。


「は……?」

「え……?」


 マナック達が……?


 グエンとシェイラが至近距離で見つめあ──……顔を見合わせる。

 そして、リズが大きな勘違いしていることに気づいて、顔を真っ青に。


 そうとも。

 マナック達がいるからどうだというんだ?

 一体リズは、マナック達に何を・・・・・・・・期待しているというのか……?


「り、リズ?」

「大丈夫、いける! 『SS級パーティ』だもん。体勢さえ立て直せば……。加入して日が浅い私にもわかる。勝てる……!」


 勝てる……?

 勝てるだって……?!


「リズ───。違う。違うぞ、リズ」

「ち、違うよリズ……」


 グエンもシェイラも理解していた。

 だから、首を振らざるを得ない。


「「あ、アイツらは……」」


 アイツらはあの程度の連中・・・・・・・だ──。

 奥の手もなにもありはしない。

 あのとおりの見たままの実力で………………!


 ──た、体勢を立て直すなんてのはタダの方便なんだぞ?!


「え? 何言ってんのグエン。──あ、ほら。いた! マナックたちだ……!」


 期待の眼差しで前を見るリズとは異なり、

 グエンとシェイラは一度顔を見合わせて、目をそらし、また前を見て、二人同時に首を振った。


「ば、馬鹿な……!」

「アイツらじゃ──」




 無理だ─────────、と!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る