第38話「なんだと……! なんでお前らがここに───?」
「マスター?! お帰りなさい……えっと、随分早かったですね??」
ティナが怪訝そうな顔でギルドマスターを見ている。
彼女からすれば、業務上の決裁権者なので一刻も早い帰還は望むべくものだったはずなのだが……。
「うむ。急ぎの連絡があってな────本部の用を中断してきた」
「は、はぁ……? いいんですか? 定例会議だったんじゃぁ……」
ジロリと睨むギルドマスターの剣幕に、ティナが「うっ」と仰け反りすごすごと引っ込む。
だが、ティナだけでなくほかの職員もどうやら怪訝に思っているらしい。
なぜなら────。
「よぉ、グエン」
「あら、おはようございます。グエンさん」
「へっ。パシリは早起きで当然さ」
「……しょぼーーん」
昨日、泡を吹いてぶっ倒れていた3馬鹿プラス、チビッ子で恩知らずの計4名が、一人を除いて意気揚々とやってきたのだから。
そりゃあ、ギルド中が疑問だろう。
経緯を見ていた冒険者たちもザワザワと騒ぐ。
幸いにして朝という時間帯故まだ人は少なかったのだが、それでもそれなりの人だかりができる。
一方で気やすく声をかけられたグエンは眉根を寄せてマナック達を睨む。
さっき脱退したばかりだというのに、まだ手下のパシリ扱いをしてくるマナック達にいやな気分にさせられた。
せっかく、やり直そうと思っていた矢先のことなだけに、出鼻をくじかれた気分だ。
「てめぇら、捕まったはずじゃ……?」
当然の疑問に、ギルド中がうんうんと頷いている。
「は! 誰が捕まるもんかよ」
「うふふふ。ただの手違いですわよ。グエンさん」
ニィと笑うマナックたち。
だが、半ば予想していたことでもある。
(やっぱり、あれで引き下がるはずもないか)
「それはそうと、昨日は随分世話になったなグエン───」
チッ……!
「あぁ、昨日ぶりだな」
「ふん………………」
無視するのもどうかと思ったので一応声を返すが、隣にいたリズはあからさまに無視している。
それどころか、鋭い目つきを浮かべると、まるで敵だといわんばかりに暗殺者の本領を発揮してスゥ……と気配を絶ってしまった。
そのまま目立たぬ動きで人影に紛れる。
「は! ご挨拶だな……。「おはようございます、マナックさん!」───だろうがよぉ!! この腐れパシリ野郎が」
ペッ、と反吐を吐きながらマナックが、よたりをつけてグエンににじり寄る。
それを無感動な目で見ているグエン。
(なんだ……。パーティを抜けたら、よーく見えるな──こいつがどんなに小者だったのか、が)
今まで、なんでこんな奴の言うことを聞いていたのか自分でもわからないくらい。
それほど、マナックの小者ぶりと醜悪な態度にグエンは人知れずニヒルな笑みを浮かべてしまった。
「んっだ、ごらぁ! 何がおかしんだ、テメェ!!」
何がおかしいって?
「お前のチンピラっぷりがだよ、マナック」
「あ゛ぁ゛!? もう一回言ってみろッ!」
思わぬグエンの反撃に、カッと頭に血の上ったマナックがグエンに掴みかかろうとする。
だが、敏捷9999のグエンがそんな見え見えの動きに捕まるわけがない。
光速移動するまでもなく、スィとマナックの手を躱すと、代わりにトンッ! と足を突き出す。
たったそれだけの動きで、マナックが無様に足を引っかけスっ転ぶ。
「ぁ……ぐあッ!!」
ドターン! と、みっともなく頭から転んだマナックが顔を真っ赤にして、起き上がると剣を抜こうとする────が。
「てめぇええ!!」
「落ち着けよー。ギルドでの私闘がご法度なんだろ? あ?!」
「う……」
槍をくるりと返して、石突の部分で剣の柄頭を抑えるグエン。
それだけでマナックの剣はびくともしなかった。
筋力に言わせて抜けばグエンの力では押し負けるのだろうが、ここにきてようやくマナックも冷静さを少し取り戻したらしい。
「ち! 今のは必ず倍にして返してやる」
「勝手に転んだんだろうが? そうでしょう、マスターさんよ」
胡乱な目つきでギルドマスターを見るグエン。
その目を見て、ギルドマスターが怪訝そうな顔をする。
「あ、ああ。そう、かもな……。いや、それより、お前……グエンだよな?」
「当たり前だろう? 他のだれに見えるんだ?」
「い、いや……おう」
おそらくギルドマスターの記憶の中にあるグエンはパシリとして、いつも低姿勢でヘコヘコしている人物として記憶されているはずだ。
このギルドとの付き合いはさほどでもないが、人の情けない姿は存外記憶に残るものだ。
「で──ギルドマスターじきじきに何の用ですか? 犯罪者連中と一緒に連れだっているのを見るに、ただならぬ様子ですねー」
挑発するよなグエンの口調に、
「あぁ! 誰が犯罪者だ!」
「ちょっとグエンさん! 人聞きの悪いことを!」
「おい! てめぇ、誰に口きいてんだ!!」
「は、犯罪者……」
まぁ、わかりやすく反応してくれる『光の戦士』の面々。
シェイラに至っては半泣き顔だ。
「そういうな、グエン。ちょっとした誤解を解いておきたいという話があったから聞いていただけだ」
はぁ~ん誤解ねぇー。
「そうですか。それはご丁寧に────ティナさん、あとは任せましたよ。俺も次を見越して活動したいんで」
「そうはいかん。グエン────お前やっちまったな?」
あ?
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