第39話「なんだと……! そーいう手を使うつもりか?!」


 あ?!

 ──やっちまった、だあ?!


「おい、なんの話───」

「マナック達に話は聞かせてもらった。そのうえで総合的に判断させてもらったが──……」


 スッ、とギルドマスターが懐から取り出したもの。

 それは昨日ティナから聴取されて作った、事の顛末を記した調書だった。


 そう。

 グエンの分と、マナック達の分の二部──。


 それを────…………びりびりびり!!


「これは、荒唐無稽な法螺話として、どちらも記録に残さないこととする」

「な! てめぇ!!」

「マスター?!」


 グエンは驚愕し、

 ギルド職員たるティナは非難するように声を上げる。


 慌ててカウンターから駆け出してきたティナが、ボロボロになった書類をかき集めているが、それをぐしゃぐしゃと踏み散らすギルドマスター。


「ティナ。お前はもう少し有能な人間だと思っていたんだが──……がっかりしたぞ」


 ふんと鼻を鳴らしたギルドマスターは、とどめとばかりに書類を蹴り上げバラバラにしてしまった。


「あああ! なんてことを!! 正規の書類ですよ?!」

「はっ! 馬ぁ鹿を言うな。この雑魚の冒険者が一人で魔王軍の四天王を撃破したなんて言う法螺話を、本部に送れるわけがないだろうが!──あぁそうだ。こいつもついでに、」


 びりびりびりびりびりびり!!


「そ、それは! マスターなんてことを!!」


 ティナがギルドマスターの腕に飛びつき阻止しようとしたもの──……それはグエンのSSSランクへの昇級上申書だった。


 書類の体裁は完璧。

 あとは、同レベル帯の冒険者・・・・・・・・・の推薦・・・か認定、そして、ギルドマスターらが決裁し、本部に送れば───晴れてグエンはSSSランク……。

 その段階まで来ていたもので、冒険者ならだれもが欲するものだった。


「ふん。……こぉんなものを冒険者ギルドの本部連中が見たら、俺は一生笑いものだ。もう一度やり直せッ!」


 腕に縋り付くティナをドンッ! と突き飛ばすギルドマスター。

 その様子にグエンの頭にカッと血が上るが、すぐ近くでより強い殺気を感じてグエンのそれが委縮していく。


 チラリと視線を送れば、冒険者の陰に移動して気配を絶っていたリズが口の端から血を流しながらギルドマスターを憎悪のまなざしで睨んでいる。


 仲の良いティナが暴行を受けたことに、彼女にしては珍しく怒りの感情をあらわにしているのだろうか?


 しかし、その様子に気づかないギルドマスターを含め、マナック達もゲラゲラと笑い声をあげている。


 昨日までは「「あばばばばば」」とか言ってたくせにこの豹変っぷり。


 ここまでくればグエンだって気づく。


「……ギルドマスターを抱き込みやがったか」


 なるほど。

 金か権力かレアアイテムか何か知らないが、マナック達はギルドマスターを買収し、隠ぺい工作を図っているらしい。

 いや、この様子だともっと酷いかもしれない……。


「衛兵隊は───……無駄か」


 街の名士たるギルドマスターが身元引き受け人になったのだろう。

 法に従う衛兵隊なら、法に則って正規に手続きを踏まれれば、それに従わざるをえない。

 身元引き受け人が、正規にそーなったかはまた別の話だが。


「抱き込まれただ?! なんだぁ! まるで、俺が買収されてみたいな言い方だな?」

「違うのか?」


 ビキス! と額に青筋を浮かべたギルドマスターがガッチムチの筋肉をひけらかすように腕を組み、グエンを見下ろす。


「馬ぁ鹿をいうな。総合的に判断した・・・・・・・・といっただろう。……誰がお前ひとりで魔王軍の四天王を倒したと信用するんだ。あ゛あ゛ん?」


 ギルドマスターも、頑として譲らない。

 たしかに、グエンの報告書は荒唐無稽にすぎるが────……それにしたってマナック達の悪行が消えてなくなるわけではない。


 グエンの功績だけでなく、

 マナック達のしでかしたことも同時に消すとなれば、これはもう買収されていると思って間違いないだろう。


 本来なら、グエンの功績に疑問があるなら、ギルドマスター自ら再聴取を行えばいいだけのこと。

 そのための決裁権だ。

 

 当然、その中にはマナック達の調書も含まれており、グエン達を見殺しにしたという事実が浮き彫りになるはずなのだが──それをしない。


 つまりは、そういうこと・・・・・・──だ。


「倒したといっているだろう。これが事実だ。これが証拠だ」


 そういってトリアイナとグングニルを突き出すグエン。


「ふん! それが例のレアアイテムか──マナック達から奪ったそうだな」

「あ゛あ゛?!」


 こいつは何を言っているんだ?


「それに、魔物のレア素材も勝手に売却したと聞いている──今日付けで、勝手に換金もしたらしいじゃないか」

「当たり前だ。これは俺が……。俺がリズとともに入手したものだ!」


 グエンはそう訴えるがギルドマスターは鼻でせせら笑う。


「ふふっ。くだらない嘘はよせ。『光の戦士』でドロップした品だろう? それが何でお前の手にある。お前は!ついさっき脱退しただろうが──」

「ぐ……! そ、それは……!」


 くそ!

 こいつ等、このタイミングを見ていやがったのか?!


 思わずティナを見るが、彼女は違うと否定するように激しく首を振る。


(そりゃそうか……。ティナがマナックたちとグルなら、昨日の時点でグエンの報告は握りつぶされている)


「──つまり、それは『光の戦士』のもので、換金したものもすべてマナック達のものだ。……何か間違っているか?」




 こっの野郎────!!

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