第40話「なんだと……! 君は一体……?!」
──それは、すべてマナック達のものだ。
「こ、こっの野郎────!!」
いきなり横から割り込んできてしゃしゃり出るギルドマスターに、グエンもいら立ちを隠せない。
おまけにドロップ品と換金したお金をすべてよこせと言いやがる……!
「ふっざけんじゃねーぞ! これは俺とリズのものだ。そして、ニャロウ・カンソーは俺たち二人で倒した!」
「は! それを誰がドーやって証明するんだよッ! 使えないパシリと得体のしれない新人の証言があてになると思ってんのか?」
グエンの頭にカッと血が上る。
無茶苦茶な理論なのに、反論ができない。
「な、なら! ニャロウ・カンソーの首は!! あれがあれば討伐証明になるだろうが!!」
「あぁ、そうだな。立派な功績だ。──魔王軍四天王を倒したということで……。
な、に…………!
「マナック、達が……昇級だと?」
「当然だろう──見事ニャロウ・カンソーを仕留めたんだ。
こっの! どの口で
「さ。今から、上申書を作るんでな──まずはそいつをマナック達に渡せ。それから、」
ニヤァ……と笑ったギルドマスター。
そしてそれに追笑するマナック達3馬鹿。
……唯一シェイラだけはギュッと目をつぶっていたが、この場で抗議の声を上げないなら、連中と同類だ。
「──そうそう。……そのあとで、お前の罪に関しても──なんらかの処分を考えないとな」
「な?! 罪……だと?? お、俺が何をしたっていうんだ!」
突如、自分の身に降りかかってきた青天霹靂の事態にグエンが仰け反る。
だが、ギルドマスターは容赦しない。
「何をした?…………
………………は???
「馬鹿な!! おい、シェイラ! お前──……」
ビクリと震えるシェイラだが、グエンの詰問には答えず──魔法杖を抱くようにしてギューと目をつぶってしまった。
「もう何も聞きたくないッ」とばかりに耳まで抑えて。
(く…………ガキに期待しても無駄か)
ものすごい形相でシャイラを睨んでいる自覚があるが、首を振ってどす黒い感情を押し隠す。
だが、
「…………シェイラ。これで何度目だ────お前は俺をすでに3度裏切った」
一度目はニャロウ・カンソーから逃げるとき、
次は、マナック達と口裏を合わせたこと、
極めつけは、先日の調書作成時に魔法でのステータスの偽造。
それまでのパーティでの狼藉を考えていけば、どれほどになるというのか……。
そして、今日のいま……だ。
「ひぅ……!」
耳をふさいでもグエンの声は聞こえるのだろう。
ブルブルと震え、俯く。
「ふん。次は子供を脅すつもりか? 本当にお前はクズだな。そして、とことん救えないやつだ。……いいからそれをよこせ」
そういってグングニルらをよこせと手を突き出すギルドマスター。
だが、グエンが「はいそうですか」といって従うはずもなし。
しかし、ギルドという組織を背景に絶対的優位に立っていると確信しているギルドマスターはふんぞり返って大声を出す。
「強情を張るな! 今すぐ、お前を衛兵に突き出してやってもいいんだぞッ! 換金した金もだ! さっさと、よこせっ!」
ギルドマスターは、グエンが握りしめている槍ではなく、グエンが腰につけていた財布をひったくる。
その拍子にジャリン♪ と小気味のいい音が響いて、マナック達が歓声をあげる。
「ひゅ~! 白金貨5枚に、金貨550枚! ひゅ~!!」
「うふふふ。神は黄金色を好むわぁ。うふふふふ♪」
「ひゃは! すげぇぇぇええ! 大金だぜぇ!」
「あ、あの……。み、みんな──」
シェイラを除く3馬鹿が、歓声をあげてギルドマスターから財布を受け取ろうとして──。
「ん? なんだ、少し軽くないか?…………あぁ?! こ、これは!!」
違和感に気づいたギルドマスターがグエンから奪った財布を開くと予想よりも少し少ない。
一番大きな財布の金貨550枚はともかく、小さな財布に入れられている白金貨5枚の重さを早々間違うはずもない。
慌てて財布をひっくり返すと────……。
「おい、グエン!! 白金貨2枚はどこだ!」
チャリン♪ と、澄んだ水音のようなお金の音を立てて転がる白金貨。
しかし、小汚いギルドマスターの手の上で踊るのは、白金貨が3枚だけ…………。
「ふん…………誰が言うかよ」
目線でバレない様に、さりげなくリズの姿を探すも、彼女の姿はすでに察知できなかった。
騒ぎが始まって以来、ずっと気配を絶っているのだ。
もしかするとこうした事態を予測してすでにこの場を去っているのかもしれない。
……それならそれでいい。
リズまで巻き込むつもりはグエンには毛頭なかった。
「おい! さっさと言え────横領罪で、ぐぁぁああ!!!」
グエンの胸倉をつかんでいたギルドマスターが突然片目を押さえてたたらを踏む。
そのあとで奴の目にめり込んだ白金貨がポロリと落ちて、キィンキィンキィィィィン♪ と澄んだ音を立てて転がった。
それは、白く輝く金以上の希少金属の硬貨で……。
………………白金貨?
「ま、まさか」
そんな大金をもっている人間なんて早々いないはず……。
「…………さっきから黙って聞いていたけど、随分言いたい放題じゃない? 辺境都市の冒険者ギルドを預かるマスターさん」
そういって冒険者間から出てきたのは、さっきまで成り行きを見守っていたリズだった。
だが、冒険者の間から出てきたリズは、いつもの彼女とは全く様子が違う。
それは、暗殺者でも、グエンの仲間だった頃のそれでもない。
どこか……事務的で、冷たささえ感じさせる様子で顔を見せたリズ。
いっそ逃げたと思っていたくらいなのに──どうして?
どうして、今?!
「り、」
こんなリズはグエンも知らない。
り、リズ…………?
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