第41話「なんだと……! まさか、リズが?! いや、だからって……」

「まったく、黙って聞いてりゃ言いたい放題──。ほーんと、公益通報のとおりだったわね。それにしても──」


 ジロリとマナック達とギルドマスターを睨みながら、小柄な体躯でありながらも圧倒的な迫力を纏ってリズが冒険者の人ごみを割って、ゆっくりと現れる。

(り、リズ…………? だよな??)

 とっくに逃げたとばかり……。


「り、リズ! 出てくるな! こ、ここは俺に任せて、お前はすぐに町を離れろ」


 グエンは苦々しく顔をゆがめつつも、せめてリズは庇わねばとマナックやギルドマスターの前に立ちふさがる。


 だが、

「あらどうして? アタシは冒険者────誰ともパーティを組んでいないし、行動の束縛を受ける謂れはないわ」


「──ッ!」


 リズの思わぬ突き放しに、グエンの顔にさっと朱が奔る。

(そ、そんな言い方しなくても……。だけど、そうか──)


 そうだった……。


 リズとは仲間同士。


 たまたま、所属が同じだっただけだ。

 二人とも、好き好んでパーティを組んだわけでもないし、先日はやむを得ず手を組んだだけ……。


 そして、

 今はお互いソロで、もはや何の関係もない──。


「───それにグエンは勘違いしているわね」


 は?

「か、勘違い……?」


「あのねぇ。……な~んで、アタシがこいつ等相手にビビって逃げなきゃならないのよ。むしろ──」


 ニッコリと、闇を纏った表情でリズがギルドマスターを含めてマナック達を睥睨へいげいする。


「──こいつ等こそ、ビビってしかるべきなのよ。こんな不正も不正、そして半恐喝の現場をアタシの目の前で見せられちゃぁね~」

「な、なんだと? だ、誰がお前なんかにビビるか──」


 ギルドマスターは気分を害した風に顔をゆがめると、リズの胸倉をつかまんとして肉薄するが、

 スッと最低限の動きでその手をかわす。

 そして、

「アンタはともかく、マナック達の一件は先日の騒動で丸く収まると思ったんだけどねー。まっさか、アンタが蒸し返すとは思わなかったわ」


 ギルドマスターの手をパシリと払いのけると、そのままフワリと舞うように飛び、テーブルの上に音もなく着地。


 そのまま、ギルド全体に向かって一礼。

「結構……。実に結構よ」


 パチパチと乾いた拍手。

 誰もがその意味するところがわからず、一瞬だけ硬直する───。


「んまぁ、いい機会だから、勝手にベラベラ喋ってくれるのをずっっっと待っていたの────ね、マスタぁ!」


 高所から、じっとりと甚振るような目つきに剣呑さを感じたのか、ギルドマスターが一歩後ずさる。


「な、なにぃ? な、ななな、何を言ってるんだ!! たかが、ダークエルフの小娘が!!」


「そーよぉ。アタシはダークエルフ。まつろわぬ民の末裔にして、暗殺者一族。そして、グエン以外にも、彼の調書の裏付けをとれる、元『光の戦士シャイニングガーズ』の偵察員。そして───」



 バサリッ。


 リズが身体に纏う薄い防具兼ボロボロの首巻マフラーをはぎ取った──。


「な!!」

「そ、それは────……!!」


 ギルドマスターと、マナックが同時に驚く。


「──そして、マナック達に囮にされ、…………グエンとともにニャロウ・カンソーを撃破して生還した冒険者ッ!!」


「うそ……! そんな、まさか──」

「え……す、SS──」


 レジーナとアンバスがパッカーと口を開ける。

 二の句が継げぬとはこのことか。


 それを受け継ぐのはシェイラだ。

 彼女も呆気に取られつつも、その豊富な知識の中からひとつ───。


「ぷ、プラチナとミスリル合金製のライセンスプレート! ま、間違いないよ。ほ、本物の……ギルド最高峰の──」


 そこに刻まれたルーン文字の『S』が3つも踊り、

 キラリと輝くそれを、シェイラが読み取った……。


「し、至高の冒険者ッ───!!」

 ワナワナと震えるシェイラ。


 全員の視線の先には、


 ───チャリン……♪

 リズの首元に燦然と輝く、冒険者ライセンスドッグタグ


「ふふっ♪」

 涼しげに笑うリズと、


 彼女の胸で輝いている、栄光の証があった───。



 それは紛れもなく、ギルド最高位の冒険者を示すもの。 

 だから、グエンをして叫ぶ──!!



「え、SSSランク最強クラス冒険者ぁ?!」

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