第42話「なんだと……! リズ──……さん、敬語で呼んだ方がいい?」

 え、SSSランク冒険者?!


 ……り、リズが?!


 ま、

 ま……。 


「ま──」

「「「「「マジかーーーーーーーーー!!」」」」」


 その瞬間、ドカーーーーーーーン! と、ギルド中がドワァァアア! と沸き返った。

 驚愕のあまり、多くの冒険者が仰け反りひっくり返る。

 なかには泡を吹いているものまでいる始末。


 それほどにSSSランク冒険者は希少で、滅多に人前に姿をあらわさないという。

 つまり、それはもはや、伝説……。


 国によっては「勇者」と称えられるほどだ。


 ──その伝説の存在が、今まさにここにッッ!!


「嘘だろ……リズ」

「ゴメンね、隠してて──」


 少し寂しそうに笑うリズ。

 ティナだけは何やら訳知り顔で「うんうん」と頷いている。


 そして、グエン糾弾の場から一気に形成はリズ側へと傾く。

 名声、実績、そして何より────……真実。


 その中心には、紛れもなくリズがいて。

 ほんのひと時だけ冒険を共にした少女がいて、この場のすべての空気を圧している。


 さすがは、世界中にほんの一握りしかいないといわれるSSSランク冒険者の威容だ。


 一部の有名な冒険者を除き、極力露出を控えている真の実力者たち──……。



 SSSランク冒険者。二つ名を「隠密のリズ」



 …………それが彼女が持つ、もう一つの顔であった。


 そして、

「う、うっそ、だろ……。き、聞いてねぇぞマナック!!」

 ギルド中の喧騒をしり目に、ギルドマスターが顔を真っ青にしてマナックに掴みかかる。


「お、俺も知らねぇよ!! そんな馬鹿な?!……か、加入時の時には、SSSだなんて一言も……! いや、それよりも、なんでアンタが知らないんだよ?!」 


 マナックの言うことも、もっともである。

 ギルドから斡旋された冒険者にも関わらず、辺境とはいえギルドマスターが知らないとは。


「バッカいえ!! 調べたに決まってんだろぉ!! 稼ぎ頭のお前のとこのニューフェイスだぞ!」

「なら、なんで!!」

「俺が知るかぁぁあ!!」

「お前が知らねぇで誰が知るんだよ!!」


 二人でギャーギャー!


 その陰でこっそりティナが手を振り振り。なにやら黒い笑み。

 束の間、お祭り騒ぎのようにヤイのヤイのと沸き返るギルドと、仲間内で喧嘩を始めた『光の戦士』たち。


 しかし、そんなお寒い喧嘩を見逃すリズではない。


「どう? これでグエンの話が、荒唐無稽じゃないってわかったんじゃないかしら? このアタシがみたもの──そして、彼とともに戦い、彼とともに生還したわ」


 クスっ。と、どこか妖艶な笑みを浮かべたリズがない胸を張ってギルドマスターを見下すようにみる。


「少なくとも、アンタが支持する、そこの卑怯で腰抜けどもとは違うわよ──」

 リズはグエンに優しげな瞳を送り、小さくウィンク。

 それだけで、彼女が味方であると確信できたグエン。


(り、リズぅ…………!)


 だが、

「だ、黙れぇ!! SSSランクだか、なんだか知らんが──そんなのは身分詐称だ……! ギルド登録を誤魔化すなんて許されると思ってんのかぁぁああ!」

 ギルドマスターはそれでも食い下がる。

「そ、そうだ!! 身分を誤魔化していた奴の証言なんて、信ぴょう性があるとでも──」


 マナックも追従し、ここぞとばかりに反撃しようとする。


「はぁ~……。筋肉だけ鍛えるのも結構だけど、この先、頭まで筋肉じゃ困るわよ──ま、もう……」



       「──先はないけどね」



 クスリと、鼻で笑うように言い切るリズ。


「なん、だと……!」

「ど、どういう、意味だ!!」


 余裕を崩さないリズに、ギルドマスターとマナックが表情筋を引きつらせながら彼女に迫る。


「どうもこうもないわよ。わざわざ身分を隠してパーティに潜入・・・・・・・した意味がまだ分からない?」


「な、に?」

「潜、入……?」


 リズの言葉に思わず顔を見合わせるギルドマスターとマナック。


 そして、

「──ま、まさか……。アンタ」


 わなわなと震えるレジーナだけが勘付いたようだ。

 だが、ほかのものは誰一人として気づかない。


 気づかないのだが……。


「あーら、さすがは枢機卿カーディナル。オツムは悪くないらしいわね。……伊達に教会の権謀術数のなかを生きてきただけはあるみたい、か」


 クスクスクス。


 それでも余裕を崩さないリズに、レジーナがガクンと膝をつく。

 そのまま、顔面蒼白になり、ずるずると後ずさる。


「い、いやよ……! いや! 違う、私は違うの!!」

「ど、どうしたんだよ、レジーナ!」


 わななくレジーナにマナックが声をかけるが聞こえていない。

 しかし、それを追撃するように──。


「アンタも相当よね──。修行だか何だか知らないけど、教会信者を使って、裏であれこれと……」

「違う!!」


    「違わないわ」


 フルフルと首を振るレジーナにリズは言い切る。

「そ、そんなぁ! なんで、アンタみたいな────!」


「レジーナ! や、奴は何者なんだ?!」

「レジーナぁぁああ!」


 マナックとギルドマスターが恐慌状態に陥ったレジーナの胸倉をつかむと叫ぶ!!


 すると、

「──ぎ、ギルドの…………」

 口をわななかせながら、レジーナは言う──。


 ぎ、

「「「ギルドの??」」」


 ……か、


「「「か?」」」


 か、ってなんだよ? と、ギルド中が疑問に感じたとき。





「監察官──……!」






「ご名答──!」


 スッ……と、足を一歩引き、執事のように優雅に一礼。

 そして、顔を持ち上げるとニィィと酷薄に笑うダークエルフの美少女がそこにいた……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る