第72話「さてと、一瞬で帰ってきたぜ」

 光速移動ファストラン!!



 キィィィィイイイイイイイイイン……!!



 スタッ!!


「きゃあああ!!」


 二人の少女を抱えたグエンが華麗──……というには、ちょっとあれな姿勢を降り立つ。


 ズザザザザザザ────……ぷしゅ~!


「ふぉ!? く、くせ者ぉ?!」


 それを迎えるのはいつかの番兵。


「ちょっと落ち着きなさい。アタシよ。アーターシ」

「むむ?! そのライセンスは──……!」

 反射的に槍を構える番兵。

「り、リズさんでしたか、急に目の前に男が現れたので何が起こったのかと……まことに申し訳ない」

 慌てて臨戦態勢をとくと、素直に謝罪している。


 だが、その風体はいつもの小役人然としたそれではなく。

 今日ばかりは彼らも完全武装だったのだが──……。


 リズを抱えていると番兵と目があう。


「ぐ、グエンか?!」

「おう」

 スパッ! と挨拶を交わすグエンも慣れたものだ。


「こ、────コホン。辺境の町リリムダにようこそ」


 いつも通りのやり取り。

 番兵は、また──真面目腐って見張りの任につく。


 どことなく緊張しているのは、魔王軍に備えているためだろうか──……。すまんな、もう連中は来ねぇよ。


 つーーーーか、シェイラは何時までくっついてくんの?


 そんな目でグエンはシェイラをみているが、意外にも彼女は目をぐるぐると回しながらも、グエンを見るといった。

「なんだ、お前──さっさと」

「──は、早っ?!」


 え?


「速ッぁぁあッ!!??」


 目をぱちくりとしたシェイラが何度も何度も言う。

 だが、あまりにも至近距離でいうものだから、グエンの耳がキーンと──……。


「はっやーーーーーい!!」


 スパァン!


「はぶぁ!」

 シェイラの顔が爆発。

 しかし、すかさずそこに──

「うっさいわ。エエからいくぞッ────はぶぁ!?」

 スパァン!!

「女の子を叩かないの!」


 「はぶぁ」×2の表情。仲良しシェイラ&グエン。

 どちらも同じように頭を押さえて「うぐぐぐ……」と唸っている。


 リズのツッコミは、防御力が「紙」に等しいグエンには結構堪える。


「ったく、シェイラにだけアタリがきつすぎるわよ。グエン!」

「お前のツッコミもきつすぎるわッ!!」


 いってー……。

 頭が割れるかと思ったぜ──。


「ったく、男のくせにいつまでもウジウジと──」


 いや、ウジウジとか言うけどね、君ぃ。

 結構以前から、グエンさん嫌がらせ受けてたのよ?

 そして、先日はリズと一緒に魔物の前に見捨てられた──。


 それを、「おっす、全然気にしてないよーニャハハ」って感じにできるわけなーだろ!

 

「……そう簡単に許せるかよ」


 絞り出すように答えるグエンの声に、

「う…………グスっ。ううぅ……」


 しょぼーん。と、

 あからさまに落胆したシェイラ。


「ち……。いちいち泣くな、っつーの」


 今回はそれなりに活躍したのだが、手放しに誉めてやれるほどグエンの心はまだ許せていなかった。


「……だって、」

「貸しをひとつ解消してやっただけだ──」


 「ふんッ!」と、そっぽを向くグエンを、呆れ交じりに見るリズだったが、

「あーはいはい。そのうち許してやんなさいよ」


 んだよ……。


「──お前は俺のオカンかッつーの? ったく……」

「誰がオカンじゃ!」


 スパァン!


「いっだ! リズ、いっだぁぁあ!────もぅ……頼むよ」


 本気で涙ぐむグエンが情けない声でリズに懇願する。


 だが、

「歳のことはいうなっつーの!! もう、行くわよッ」


 ぷりぷりと怒りつつ、リズが先頭に立ってズンズンと行く。


「と、歳のことは言ってねぇのに……」

「ぐ、グエンん……」


 シェイラに呆れた顔をされるグエン。

 その表情にちょっとムカついたので、「なんだ、その顔ぉ!」と、シェイラの頭をグリグリしながらリズについていく二人。


「あーうー……いーたーい──」




 そうして、リズとグエン達が向かった先は──……いつものところ。

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