第71話「さてと、どうする?」
──魔王様のご尊顔を拝謁できるかもよ?
そういって、実に楽し気にほほ笑むリズ。
これから死地に飛び込もうというのに、こうまであっけらかんと笑えるのは、なるほど──やはり彼女はSSSランクなのだなと納得できる。
「魔王かどうかはさておき──……連中をそのまま逃がすのも面白くないな」
グエンは少し考え込む。
光速攻撃のおかげであっという間に殲滅してしまったので、グエンにはまだ余裕がある。
だが……。
「グエン。ここはあなた次第よ」
リズはそう言って悪戯っぽく笑う。
グエンと違って、魔物の群れに飛び込み奮戦していたリズ。
そんなものだから彼女の戦闘力の低下は著しく、実際のところ継戦能力は疑わしい。
そして、シェイラはシェイラでかなり消耗している。
魔力の消耗ももちろんのことだが、オークメイジにやられた傷が思ったより深く、このままでは長い戦闘には耐えられそうにない。
「そっちは大丈夫なのか?」
念のため、二人の状況を確認しておくグエン。
リズはともかく、シェイラは厳しいだろう。
「アタシは大丈夫だけど──」
「うぅ……」
脂汗を流すシェイラ。
その顔は青ざめており、今にもへたり込みそうだ。
傷にも効くポーションで抑えているとはいえ、結構な重傷だ。
「…………だよな」
グエンは小さく息をつく。
今判断を誤るわけにはいかない。
冷静に状況を分析してみると、
ポーション類には余裕があったが、そもそも追撃戦を想定していない防衛線だったので、諸々を含めて準備不足もいいところ。
つまり──。
「……さすがに、今すぐ追撃ってのは無理があるよな」
「まぁ、妥当な判断ね。……だけど、今追わないと逃がすわよ? それに、うまくすれば
リズの本音では追撃をしたいのだろう。
グエンにも冒険者としての矜持がある。
敵の指揮官を追って、策源地をつきたいという気持ちもなくはない。
だが……。
「ぼ、僕はちょっと遠慮していい?」
(お……?)
本当に遠慮がちにシェイラが手を上げる。
彼女の今の心境や、立場からすればかなり勇気のいる発言だっただろう。
だが、それを押しても手を上げて言葉を発したのは彼女なりの覚悟のあらわれだ。
冒険者として、
償うものとして──……。
「なんだと……?」
「──そうね。その傷じゃちょっとね……」
リズは、余計な事を言いかねないグエンをそっと押しとどめると、さりげなくシェイラの包帯を巻きなおしてやっている。
血のにじんだそれはシェイラの傷口を痛々しく覆っていた。
それをみてグエンの口が何かを言おうとして、やはり閉ざされる。
(ち……。たしかに怪我人じゃ、足手まといだな。だけど──)
レジーナ級の
ただでさえLvの上がりにくい回復役はどこのパーティでも引く手数多だ。
ましてや、高位の回復役ともなればなおさらだ。
だから、グエン達のような最前線に配置されたパーティに回復役は配置されていない。
……つまりはそういうこと。
所詮グエン達も捨て駒なのだ。
「──ちっ。わかったよ」
無理を押して追撃しても、こちらもただでは済まないだろう。
今のところは、グエン達が準備した戦場で戦うことができたが、追撃ともなれば敵にも戦い方の自由がある。
戦場を選ばなければグエンのスキルとて無敵というわけにはいかないだろう。
いずれにしても──……
「一度、態勢を立て直すしかない、か……」
「追撃できないのは悔しいけど、ね」
リズも忌々しげに敵の指揮官がいたであろう方角を睨みつける。
幸いにも撤退した魔物の群れは負傷者だらけで動きが鈍い。
すぐに追撃をかければいくらでも追いつけそうだが、街に戻っていては取り逃がす────。
ん?
いや、まてよ────。
街に帰るといっても……。
グエンならば────!
「「あ……!」」
リズがピンと、何かを思いつく。
だが、当然グエンだって思いつく──。
「「考えがある」んだけど」
思わず、ハモった二人。
そういってグエンとリズはニヤリと笑った。
「「
「え……?」
え?
え? ええ??
「
何のことだかわからないのはシェイラだけ────。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます