第70話「豚の、撤退」
ぼんっっ!!
と、戦場に爆音と光が奔った。
いや、光が走って爆音だったか?
いやいやいやいや!
そうじゃない、そうじゃない!!
「────ナ、ナンダトォォォオオオ?!」
ガッパー!! と、大口を開けて呆気にとられるオークキング。
その巨体と筋肉ですら滑稽に見えるほど、圧倒的な光景がキングの目の前で起こった。
「ば、ババババババババーーーーーバカナぁぁああ?!」
何度目を瞬きしても同じこと。
オークキングの目の前では、、たしかにその信じられない光景が──……。
「オ、俺の軍団ガァァァァ……」
あと少し──。
あと少しで、あの生意気な人間と、その先鋒をぐちゃぐちゃにできるというところだったというのに、
寸前にて、あの光が奔った。
それは先の
「ア……ア……アァァァ────」
開いた口が塞がらない。
そして、何度見返しても間違いなかった。
オークキングの有する軍団は、
小娘を圧殺できると思ったその現場に迸った光が、一瞬にして──彼の配下を木っ端みじんに吹き飛ばしてしまった。
オークも、
ゴブリンも、
アンデッドも、
捕虜も、
老若男女の区別なく──……!
吹っ飛ばしちまいやがった──!!
そして残った僅かな負傷兵。
彼らは叫びながら逃走を開始。
そりゃそうだ。
指揮官を失い、数の優位を失ってしまえばそんなものだ。
だが、まさかのまさか……。人間の町に指一本触れることすらできずに壊滅するなんてー!
「ミ、認メン! 認メンぞぉぉっぉぉぉおおおおお!!」
ありえん、ありえん!!
ありえんだろぉぉおおお!
「「「ブ、ブヒィイ!!」」」
「むぅ?!」
一人で憤慨しているオークキングのもとに、ヒィヒィと唸りながら兵らが逃げ込んできた。
見れば、リザードマンらの残余はてんで好き勝手に湿地のかなたへ逃亡し、引き連れてきた兵らは指示もなく撤退開始。
重傷者を見捨てつつ、足を引きずりながら──のろのろとこっちに向かってくるではないか。
「バ、バカモノ!! ソンナ、ゾロゾロと来レバ────」
こっちの位置がバレ……る。
──ぞくり……。
「ブヒッ?!」
オークキングは、自らの首筋を刺すような視線を感じた。
その鋭利な視線はどこから──……。
(あ、アソコカラ?!)
それは先ほど光が迸り、配下の群れを消したあの場所からだった。
「グ……! カ、勘付カレタノカ──」
その瞬間、オークキングは素早く計算する。
退くべきか、逝くべきか──。
退けば、ただの敗北だ。
みじめな敗残兵の長として後ろ指をさされるかもしれない。
だが……。
だが、だが、だが……!
それでもッッ!!
華々しく散り、兵の後を追う──……実にカッコイイ。
「グヌヌ……」
……だが、それだけだ。
そして、そのていどだ。
もちろん、この程度の残余の兵で人間の町が落とせるはずがない。
自棄になって突っ込んでも勝てる相手ではない。
つまり、無駄死にだ。
死に際はかっこいいかもしれないが、素材として捌かれてギルドに陳列されるのが関の山。
「ウーム。ブヒッ……・」
だが、潔く散るのも将としての務め────。
「──ッテ、何デ死ナナキャナラネーンダヨ!」
だが、オークキングは俗物だった。
敗残兵をジロリと見下ろすと、サッと身をひるがえして後退開始。
彼らを収容するでも、叱咤激励するでもなく……ただ逃げた。
逃げて、逃げて再起を図るべく。
「ブヒヒヒヒ! ナァニ、兵ナラマダマダ……イクラでもイル────。冒険者ドモメ、コノママデ許スモノカヨっ」
──覚えていろよ、と。
捨て台詞を吐くと、クルリと踵を返した。
断末魔の叫びを上げつつ追いすがる敗残兵どもには一瞥たりともくれずに、それはもう鮮やかに──。
グハハハハハハハハ、ブヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!
と、高笑いを残しつつ、オークキングは撤収を開始した。
……しかし、その判断は果たして正しかったのだろうか?
一瞬にして、群れを全滅させた冒険者を前に、すごすごと撤退することがどれほど正しいのか──。
……賢いようで、所詮は魔物。
文字が読めて、魔法が使えたとて、人間の底知れぬ悪意の前にはとてもとても……。
その姿をジィっと見ている目があることなど思いもよらずに──彼は逃げる。
そして、
大急ぎで撤退を開始したオークキングの後を追って、敗残兵が途中途中で力尽きながらも──死の街道を形成していく。
それはまるで、地獄への道しるべのごとく……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます