第69話「さてと、殲滅したぜ……!」

「グエン! 遅かった・・・・じゃないッ」

 リズの軽口の中に、一人の男。


 ──しゅうう……。


 湿地帯の、しけた空気のなかに降り立つのは──光速の男、グエン。


「光より早く来たっつーの……」


 スタッ……!


 地面にまっすぐな抉れた痕跡を残してグエンは降り立った。


 腕にはシェイラをしっかりと抱きしめ、

 まるで星を一周してきたかのような有様で、全身から湯気を──……いや、魔物を蹴散らした際のオーラを漂わせている。



 ぶぅぅ……ん。



名 前:グエン・タック

職 業:斥候

称 号:光

(条件:敏捷9999を突破し、さらに速度を求める)


恩 恵:光速を得る。光速は光の速度、まさに光そのもの

(光)アナタは光の速度を越えました。

 ※敏捷ステータス×30800000

 ※光速時の対物理防御無限

 ※光速時は、攻撃力=1/2×筋力×敏捷の2乗


体 力: 757

筋 力:  14

防御力:  20

魔 力: 757

敏 捷:9999

抵抗力:  12



 ジャキジャキジャキジャキジャキ♪



⇒「オークロイヤルガード」を倒しました×8

⇒「ホブゴブリン」を倒しました

⇒「オークナイト」を倒しました×32

⇒「ダークスケルトン」を倒しました

⇒「ウェットランダー」を倒しました×21

⇒「ゴブリンポーター」を倒しました×65

⇒「捕虜」を倒しました×6

⇒「スケルトンウォーカー」を倒しました×100

⇒「オークオフィサー」を倒しました

⇒「ゴブリン」を倒しました×26

⇒「さまよう戦奴」を倒しました×2

⇒「オークポーター」を倒しました×103

⇒「ゴブリンリーダー」を倒しました

⇒「ゴブリンポーター」を倒しました×102

⇒「スケルトンウォーカー」を倒しました×98

⇒「オークポーター」を倒しました×98

⇒「さまよう人足」を倒しました×102

⇒「捕虜」を倒しました×54

⇒「リザードマン」を倒しました×12

⇒「オークソルジャー」を倒しました×6

⇒「オーク」を倒しました×8

⇒「魔狼」を倒しました



 回るは回る。

 撃破ステータスがギュンギュンと高速回転。


「おぃ……」


 首筋には、今もシェイラがしっかりとしがみついている。

 彼女は目をきつくつぶっており、ようやく恐々と目を開けた。


「おぃ!!」

「きゃっ!!」


 シェイラの首根っこを掴みまじまじと見つめるグエン。

 すると、彼女の顔がみるみる赤く染まる。


「ぐ、グエン……?」

「降りろ。もう、片はついた」


 ポーイと投げ捨てられたシェイラ。


「きゃあああ!」


 ボテチーンと、腰を打ちつつ、涙ぐむ。


「いったーい! 放り捨てなくたって────……って、きゃあああ! リズぅ?!」


 シェイラの目の前には装備がボロボロになったリズ。

 こころなしか、トレードマークの笹耳がたれーんと垂れていた。


「だ、大丈夫?! だ、誰にこんなひどいことを────ハッ?! まさか……」


 恐る恐るグエンを見上げるシェイラ。

「……って、なんでやねん!!」


 グエンはグエンでシェイラの失礼な妄想に思い至り、キツめのチョップを叩き込む。

 「はぶぁ!」とか、言ってシェイラが地面に突っ伏しているが、知らん。

「なんでやねん!!」

 もう一度言っておく。

「今の今までお前と一緒におったやろがぃ!!」


 マセガキめ……。

 何を想像してやがったんだか──。


 そこに、ヨロヨロとリズが立ち上がろうとする。

「──あははは。ほーんと、マイペース。結構遅かったわね……。待ちくたびれたわ」


 あはは、と力なく笑うリズに手を貸すグエン。

 リズが土埃を払いながら起き上がると周囲の景色は一変していた。


 よっと……。


「それにしても……」


 動くものがほとんどいなくなった湿地帯……。

 リズが足りりと冷や汗を流す。


「──ぜ、全部やったの……?!」

「あぁ、イイ感じにお前に集中していたからな。コイツがタイミングを見て──そして、かっ飛ばしてやったよ」


 ポンポンと気安くシェイラの頭を叩くグエン。

 トレードマークの三角帽子がベシャベシャと潰れるが、「うー……」と、怒っていいのかわからない表情でシェイラは見上げるのみ。


「あら。仲直りしたのね? よかったじゃない」

 ニコリと笑うリズを見て、グエンは嫌悪感をあらわにする。


「はっ。誰がこんな悪ガキをそう簡単に許すかよ。リズのために一時的に利用しただけだ」

 そういってそっぽを向くグエンを見て、

「素直じゃないんだから。……シェイラ、ご苦労様。ちゃんとやればできるじゃない」

「う、うん……。僕も今までゴメンね」


 シェイラは褒められてどうしていいかわからず、とりあえず謝る。

 しかし、フッと相好を崩したリズがシェイラの肩を叩く。


「自分で判断したんでしょ? アタシは見てたし、知ってるわ────」


 そういってシェイラに礼を言う。

 シェイラはグエン突撃の判断を任されていた。

 そして、しっかりと戦況を読み、リズが魔物に倒され組み敷かれるギリギリを見計らっていた。


 なぜなら、

 

 グエンのスキルは強力無比だが、威力がありすぎる。

 下手なタイミングで、

 下手な方向にぶっぱなすと、……リズを巻き込みかねない。


 だから、補助者が必要だったのだ。


 そして、グエンはシェイラにそれを任せ──。

 それをシェイラは完ぺきにこなした。


 ……たとえ、それがリズの見様見真似だとしても──だ。


「ふん……。リズはこいつに甘すぎる」

「アンタが厳しすぎるのよ。…………子供なのよ、まだ」


 リズがしみじみと言う。

 彼女なりの行動規範なのだろうが、割を食ったグエンとしてはそう簡単には許しがたい。


 だが、リズのやることに口をはさむ権利も、またグエンにはない。

 割を食ったのはリズも同じだからだ。


 だけど、まぁ……。

「リズの年齢からすれば、みんな子供だろうが」


 ごっき!


「いっだ!! いっだぁぁあああ!!」


 ケリに蹴りを貰ったグエンがぴょんぴょん飛び跳ねる。

「──レぃディぃに年齢のこと言うなっつの!!」

「……グエンさいてい」


 うっさい!! とくにシェイラ! 調子に乗んなッッ!!



「っと……。冗談言ってる場合じゃないんだったわね」

「あぁ、いてて……。っと、そうだな────残余は?」


 グエンは肩と首をコキコキと鳴らしながら周囲を見渡す。

 そのころには、すでに敵の数を走査スキャンし終えていたリズ。


「んー。百もいないんじゃないかしら? ほとんど、負傷してるわね────……あと、湿地の魔物は四方に散ったわ」


 さすがが斥候としてグエンの上位互換。

 敵上の把握力が、半端ではない。


「つまり──……」

「えぇ、まとまって逃げた兵のいる場所に、王がいるわね」



 ──王。



 この魔物の群れを率いてきた連中だ。

 それが魔王か、それとも、別の四天王かはわからないが、この魔物の群れの根源ともいえる。


「どうするんだ? ギルドに報告するか?」

「さぁ、こんなケースはアタシも初めて。…………もしかして、史上初なんじゃないの? 襲撃前に魔物を殲滅したのって──」



 ま、マジ?



「今までは防戦一方だったけど──……」


 フフッと、リズが上品にほほ笑む。

 初めて見る顔だ。





「──魔王様のご尊顔・・・・・・・を拝謁できるかもよ?」





 そういって、ニィと犬歯を見せるように上品にかつ凶暴に笑うダークエルフがそこにいた。

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