第73話「さてと、まずは報告しよう(前編)」
冒険者ギルド辺境支部は紛糾していた。
職員が行ったり来たりしては、大騒ぎ。
冒険者も右往左往。
衛兵隊に至っては責任者を出せと怒鳴り込んでくる始末。
この体たらくに、臨時とはいえ責任者となったティナの我慢は限界寸前に達していた。
「うー……ぐぬぬ──うぅぅう!!」
それを知らない衛兵隊の連絡将校がティナに掴みかかる。
「おい、ギルドのぉ!! お前んとこの冒険者は何をやっている!? なぜ、前線の状況が届かない!」
ティナの顔色を窺うこともなく、ガックンガックンと!
「っさい……」
胸倉をつかまれたティナがブルブルと震える。
「──あんだぁ? 聞こえんわ!! いいから、さっさと
ぷっちん……。
「うるっさい!! っていってんのよ、このボケカスぅう!!」
ジャキーーン! と、特殊警棒を抜き出したティナが連絡将校の頭をカチ割らんとして振り上げる。
「ひぇ?!」
あまりに剣幕に腰の抜けた連絡将校。
それを見て、ゆら~りと警棒を構えたティナが────。
「
「あわわわわ……」
顔が影に覆われてどんな表情をしているかさっぱりわからないというのに、ティナの纏うそれは魔王のごとし。
「──あぁ、そうだ……」
ニコッ。
「そーーんな頭は、こぉれでカチ割ってみせましょーーーかーーーーー!」
「ひぃぃぃいい!!」
そういうが早いか、ティナが猛烈に特殊警棒を振り上げてド頭に────……。
「わー! ティナさんを止めろぉぉ!!」
「みんな早くぅぅうう!!」
慌てた職員と冒険者がティナを止めにかかるが、怒り狂ったティナが警棒をぶんぶん振り回して手が付けられない。
「だーまれ!! 私とリズさんの逢瀬を邪魔する奴ぁ、誰も許しはしねーーーーー!」
「うわー、やばい。ティナさんが本心駄々洩れじゃー」
「マスター代理がご乱心じゃーー……!」
わーわーわー。
と、騒々しいギルド。
そこに門から一直線にやってきたグエン達が思わず顔を見合わせる。
「なんか騒がしくね?」と──。
「ま、気にせず行きましょ」
「そうだな」
シェイラを小脇に抱えたまま、ヘッドロックを決めつつグエンもリズの後についていく。
「いーたーいー! グエンんんん」
知らん。
って、
「なんだこりゃ?」「なにこれ?」
そして、ギルドに入って一番に目にした現状はといえば、特殊警棒で連絡将校を追い回した後、ふーふーと荒い息をついているティナ。
そして、ぐったりとしたギルド職員たち。ちなみに連絡将校は目を回して床に突っ伏していた……。
「「「…………えーっと」」」
どういう状況??
思わず顔を見合わせたグエンたちであった。
「あ!」
そして、床に突っ伏していた冒険者の一人がグエン達に気づいてがガバチョと起き上がる。
「ん?」「え?」「あぅ?」
「り、リズだーーーーーー!!」
まるでゾンビのように起き上がった冒険者が素っ頓狂な声を上げて奥に駆け込んでいく。
それをみて、また顔を見合わせるグエン達。
「なんだ?」
「さぁ? っていうか、人の顔を見て、お化けでも見たいに逃げるなんて失礼じゃない?!」
「顔、ねぇ?」
じっと、リズの顔みるグエン。
「な、なによ」
じーっ……。
「ちょ、ちょっと──ち、近い……はわわ」
なんか、顔を真っ赤にしたリズだけど──。
「いや、お化けには見えないけど────……リズの顔、泥だらけだぞ?」
「んが?!」
顔を真っ赤にしていたリズであったが、慌てて顔をグシグシとこすって汚れを落とす。
「ど、どう?」
「ん?────うん、可愛い可愛い」
ポンポンと頭をとりあえず撫でておいてやる──……この人SSSランクなんですけどね。
「う……か、可愛いか、えへへ。って、なんか適当すぎない?!」
「そこぉ?! っていうか、リズぅ──顔が真っ赤だよ?」
痛みで青い顔をしたシェイラも、なんだか面白くなさそうに口をとがらせる。
「うるっさい────で、どういう状況な……」
リズが職員を捕まえて状況を確認しようとしたとき、
ダーーーーーーン!!
と、次の瞬間、ギルド中を揺るがすほど大音響が響いたかと思うと、ティナが悪魔憑きにでもなったかのような姿勢で起き上がる!
そして、ものすっっごい勢いで突っ込んできた。こわッッ!!
「ひぃ?!」「ひぇぇ!」
その剣幕にグエンとシェイラが飛びのくと、必然的にリズだけが残される──「リズさぁぁぁあああん!!」。
「ちょっと、あんたらぁぁ! って、きゃーーーーー! ぐふ……」
ガバチョとものすごい勢いで抱き着く百合野郎──あらためティナ。
「リズさん、リズさん、リズさん、リズリズリズリズレズリズリズぅ!」
「おぅふッ! ごぶぉ!……な、中身でるぅ!」
リズが体をくの字にして苦悶の声を上げるもティナは容赦せずグリグリと頭をこすりつける。
うわーなんだろう、この光景デジャヴだわー。
「ちょ、ティナ──離して……」
「離さない、離さない! このまま一緒に逃げましょうー! どこか遠くへ──」
てい!
「エエ加減にせぃ!」
とりあえず、リズが死にそうだったので、チョップをブチかましてやるが、ティナはギロリと非難がましい目を剥けるだけ。
「あ、ギルド破壊男……! アンタも無事だったのね」
「まー一応な。っていうか、誰が『ギルド破壊男』じゃ!……無事も何もアンタが前線配置したんだろうが──」
冒険者の管轄は一応ギルドマスター代理ということになっている。
そのティナが無事かどうかを心配しているのはちょっとどうかと……。
「私がそんなことするわけないじゃないですか!! くぅ……。マスター不在を理由に冒険者の統率が取れないってことで、町の衛兵隊が勝手に決めたんですよ!! ギルド内の掌握をしているうちに──」
あぁ、なるほど。
どーりで無茶苦茶な命令だと思った。
衛兵隊は自分たちの戦力を温存するために、冒険者を捨て石にするつもりだったのだろう。
だから、前線には冒険者だけが配置され、町の防壁の中には衛兵隊がいるわけだ。
「わかった、わかった。それより報告だ」
「そ、そうよ──ティナ落ち着いて聞いて……」
ゲホゲホとせき込むリズ。
それを聞いてようやく落ち着きを取り戻したティナだったが、
「いえ、いいんです。魔王軍には前線を突破されたんですよね──……もともと、冒険者だけで魔物を食い止めるなんて土台無理──」
「殲滅したわ」
うんうん。
「殲滅したんですね。それは仕方ないことです──」
と、ティナが頷く。
──と、その瞬間、目をクワッと開くと、
「へ? せ、殲滅──……?!」
殲滅ぅぅぅううううう?!
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