第73話「さてと、まずは報告しよう(後編)」

 殲滅──……?!


 ザワッとギルド中がどよめく。


「嘘だろ?!」

「いや、わかんねぇぞ! なにしろSSSランクだぜ」

「だけどよー。いくらなんでも──」


 ざわざわざわ。


 まるでさざ波のようにギルド中がその話題で持ちきりになる。

 居残り冒険者にギルド職員。そして衛兵隊などなど。


 その様子に、衛兵隊の連絡将校がようやく起きだし、

「ぬぅ……。ギルドマスター代理ぃ、きっさまぁあ──!」


 怒り心頭といった様子で、

「──使えん冒険者を前線に配置して何が悪いッ! 冒険者ごときはなぁ、黙って街の防衛のためのいしずえになることを誇りの思わんかぁああ!」



「いや、だから倒したって──」



 プルプルと震える連絡将校の肩を叩くグエン。

「あ、倒しただぁ?! なぁにを馬鹿なことを────って、貴様は犯罪者『光の戦士』のメンバー!! それも二人もぉぉお!」


 あ゛?


「誰が犯罪者だ、こらぁ!」

「ぼ、僕、犯罪者じゃないもん!」


 仲良く怒るグエンとシェイラ。

 ……シェイラはまぁ──うん。


 そして、胸倉を掴まんばかりの勢いで怒り狂うグエンだったが、

 連絡将校はことさら居丈高になって言う。


「──かッ! 犯罪者に犯罪者と言って何が悪い! どうせお前も、ギルドの恩情で、恩赦目当てに前線に行ったクチだろうが──……けけけ」


 ニヤニヤと厭らしい笑いの連絡将校。

 その様子にグエンが青筋を立てているが、さすがに殴るとまずい。

 だから思いとどまっているのだが、連絡将校はそれを見て気をよくしたのか、


「はっはーん! ここにいるってことは、さては逃げだしたな? これだから、下賤な冒険者など役に立たない──」


「あ゛あ゛ん?!」


 ……なんっだ、こいつ?!


「知ってるぞぉぉ! グエンに、シェイラだな! 揃いも揃ってクズどもが!! どうせ、犯罪者のお前らのことだ。前線から逃げかえってきたんだな?! けっ、臆病者どもが!!」


 ピキっ!


「しかも、さっき『光の戦士』が脱走したと聞いたぞ、どうせお前らが手引きをしたに違いない──……! なぁにが『殲滅した』だ、『倒した』だ! お前らの言うことなど誰が聞くかぁ──」


「あ、かっちーん」

「僕も激おこだよっ!」


 ────おらよ!

 ──いっちゃえ!!


「カッ! 馬鹿な犯罪者どもが、俺は貴様らなんぞこれっぽちも信用──」



 イラっと来たグエンが、念のため証拠にと持ち帰ったオークメイジの生首をポーイと床に放り投げる。シェイラも、ない胸を張って怒り心頭。


 すると、



 ズドーーーーーーーン!



 と、生首が床の上にデーンと鎮座する。


「信用でき────うほぉぉおおおおおお?!」


 ビックーと、体を硬直させた連絡将校。


「ぉぅ……。これでいいか? こんなもんで良けりゃ、あと数百は戦場に転がってるぜ」


 うんうん、リズが相槌を打つように頷く。

 シェイラも戦利品の杖をこれでもかと見せびらかす。


 当然、連絡将校は完全に固まってピクリともしない──。


「う、」


 う?


「……うっそぉぉん?! お、オークの超上位個体か、これ……。え、マジぃ!?」


 顔面をひきつらせた連絡将校もこれを見せられれば納得するしかない。

 そも、こんな奴でも一応町の防衛が目的なのだ。これ以上意味もなくゴネる必要はない────。


 うんうん。

 現物みせりゃ誰でも黙るってもんさ。


 マナック達もニャロウ・カンソーの首を見せたらこんな感じだったな──……。


 って、あれ?

 さっき確か、このくそ連絡将校の野郎──……『光の戦士』が。


 って、

「────『光の戦士』が脱走したってどーーー言う意味だ、こらぁぁああ!」

 ミリミリミリィ!!

 と、連絡将校の胸倉を引きちぎらんばかりに絞って羽交い絞めにしたグエン。

「ひぃぃぃいい?!」




 さすがに連絡将校のセリフの中に聞き捨てならない単語があったので、今度はグエンがこいつに怒鳴り散らす場面だった。

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