第6話「すいません、それってフラグですよね?」

「や、やったか……?」


 ──そのフラグっぽいセリフよ。


 って、

 ……案の定。

「や、やってないわよ!! ば、バカじゃないの、アンタら?!」


 ようやく息を落ち着けたリズが、全員を非難するように叫ぶ!


「な!」

「は?」


 ポカンとしたマナック達。

 だが、リズだけは武器を構えたまま油断せずに──────さらに叫、ぶ……?


《キシャァァアアアアアアアアアアアア!!》


 叫ぶリズの代わりをかってでたのは、

 ぬぅ……と、煙のベールを破って顔をだしたニャロウ・カンソーだ!


 その顔が、ギラギラと闘志に燃えているようも見えた。


「「「ひぃいい!? き、効いてない?!」」」


「もう! 効くわけないでしょ!! 奴の鱗には魔法は通じないって──事前にグエンが言ってたじゃない! あぁ、もう! なんなのアンタら?! クエスト前にあれほど……きゃあああ!」


 バチバチバチ!!


 突如、周囲に降り注ぐ電撃魔法。


 慌ててカウンター魔法を発動したシェイラとレジーナのおかげで被害は最小限に抑えられたが、周囲に立ち込める魔力の量は少しも衰えない。


「くそ! ニャロウ・カンソーが魔法を使えるなんて聞いてないぞ……おい、グエンっ、てめぇ!!」


 パーティの雑用係パシリとして、グエンは様々な用務を押し付けられている。

 その一つがクエストの傾向と魔物の種類などを調べる事なのだが───……。


「ち、違う……」

「そ、そうだテメェ!! 適当なこと調べやがって! どう責任取るつもりだ! おっとぉ?!」


 ドカンッッ! と、さらに着弾する電撃魔法。


「ち、違う! お、俺は───」

 グエンは背中の荷物に押しつぶされそうになりながらも、必死で言い募る。

「あんだぁ、ごの!!」

「しね! パシリ野郎」


 しかし、みての通りグエンの話を聞く連中などではない!

 それどころかこの期に及んで、


「責任とれ、この野郎!!」

「ぶっ殺すぞ! パシリがぁ!」


 ───あぁもう!!


「だから、あれは奴の魔法じゃないんだ!」

 グエンの叫びが空しく響く。

 だが、誰もがマナックのように愚かだったわけではない。


「(ま、まさか。こ、これ……僕の魔法?)」


 唯一……。

 いや、マナック達以外の者は大半が気付いていた。


 レジーナも、リズも───グエンも、そしてシェイラも!!


 グエンが下調べをしていたこと。

 魔法は利かないと聞き……さらに、魔法は反射・・・・・されると言われていたことに!!


「ご、ごめ───ぼ、僕」


 慌てて謝罪するシェイラ。

 だがもう遅い!


 魔法の反射は大半が明後日の方向に着弾して、事なきを得ていたが……。


 バチバチバチバチバチっっっ!!


「う、うそ……」

 今度はニャロウ・カンソーの持つ槍に魔法の光が宿る。


 それはシェイラの魔法の何倍もの威力の魔法!


《ウジュルルルルル……》


 まるで、魔法が使えないって?

 バカ言うんじゃねーよ! とばかりにニャロウ・カンソーが槍に魔法をたぎらせる!


 それは、どーみても上級魔法のさらに上位……。

 そう、特上級魔法のそれだッ!


「う、うそでしょ」


 レジーナが茫然と見上げる。

「さ、サンダーロード特上級電撃魔法…………」

 シェイラが茫然としながら、その魔法を見上げる。

「ま、魔法使えるじやん…………」

 自らが練り上げた魔法の何倍もの上を行くそれを──……。




 バチチチチチチチチチチ─────………!!



 に、

「「逃げろぉぉぉぉおお!!」」


 マナック達は叫ぶ。

 そして、弾かれたようにしてリズも。


 レジーナ───……そして、グエンも!!


「ぐ……荷物が───」


 しかし、グエンの行動がワンテンポ遅れる。

 いくら敏捷をあげていてもグエンの筋力で、この荷物の量では──!


 だが、幸いにもパーティメンバーよりも、頭が3つ4つは突き抜けている敏捷のおかげで、先頭を潰走するマナック達に追従できていた。


「し、しかたねぇ、ここは一時撤退だ!!………グエン、後で覚えていろよ!」

「そ、そうだ、この役立たず!! 全部、お前のせいだぞ……!」


 口々に罵るマナック達。


 レジーナだけは、

「今はそんな事より、撤退しないと……! アイツはリザードマン系の四天王。トカゲは執念深いわよ?!」


「だから、言ったのにぃぃぃ! っていうか、アンタたち、バカ? なんで、魔物の領域で静かにできないのよ!! 何を騒いでいたの? ギャーギャーうるさいから気付かれたのよ───」 


 リズは最初から怒っていた。

 せっかく、気づかれずにニャロウ・カンソーを発見し、偵察まで成功させていたのに、この体たらく!


 SSランクのため、

 ギルド肝入りでこのパーティに加入が決まったというのに……。


 だが、実際はどうだ?!

 ろくな反撃もできずにパーティは潰走。


 ……所詮は人の噂。

 だから憤る。


 くだんのSSパーティのいい加減さ・・・・・に!!


「……グエンのせい、グエンのせい、っていうけどねぇ! アタシからすれば全部アンタたちの───……!」

「ま、待ってくれ!! し、シェイラは?!」


 リズの叫びを遮るグエン。


 荷物の都合で最後尾を走ることになってしまったのだが、その視界の中にいつも見かけるあの小さな影がない。


 チョコチョコと駆けているハズのシェイラが───……!!


 振り返ったグエンの視線の先には、茫然自失とし──ペタンと座り込んだシェイラの姿。


 魔法が跳ね返されたことにショックを受けているのか、それとも奴の魔力に驚いているのか。

 遠目にも「ぼ、僕の魔法が……」とブツブツ呟いているのが見える────ちぃッ!


「んあ?! あ、やべ」

「ありゃま?! どうする?」

 だが、それに気づいているはずのマナック達でさえ、これだ。

 ずいぶん軽い調子で危機感も何もない。


 充分に距離が空いたことによる安心感もあるのだろうが、

 マナック達の「あ、忘れ物しちゃった。どうすんべ?」的な軽いノリのまま、逃げ足を止めようとしない。


 それどころか、いっそう距離を開けていくマナック達に、グエンの頭がクラクラとした。


「お前ら! な、仲間だろ?! た、助けに行かないと……!」


「は?」

「はぁ?」

「グエンさん……?」


 だが、まったく聞く耳を持っていない。


 な、ならば────……と、


 マナック達よりも、まだ常識のありそうなレジーナをチラリと見るも、彼女までもがあからさまに目を伏せていた。


(く……こいつらッ!)


 ───……こつら本気か?!


「おいおい。どうした? なんだよ、罪悪感か? お前のせいでシェイラは死ぬんだもんな~グケケケ」

「よかったなーグエンちゃん。シェイラの尊い犠牲で俺たちと───ミスをしたお前も助かるんだもんな! なんせ、俺たちは知らなかったんだぜ、奴に魔法が利かないなんて」


 

 はぁぁあ?!



「お、お前ら本気で見捨てる気か……?!」


 しかも、魔法が利かないことを知らないだと???

 そ、そんなアホな話があるか───!


 俺は何度も何度も忠告したし、事前調査でちゃんと──……。


「なんだよ? 助けに戻りたいなら俺は止めないぜ?」

「そーそー! ま、そんな奇特な奴いるはずが───」


 グエンはみなまで聞かずに荷物を放り出す!


「うわっ!?」

「グエン、てめぇ!」


 そして、


「くそ、バカ野郎どもが!!」


 護身用武器も兼ねる、普段は雑用に使っている折り畳みスコップを手にして、

 ほかには、緊急時用意まとめておいたポーション類の入った小袋だけを手に、グエンは取って返した。

「「おい! グエーーーーン!!」」

 その背後でマナック達がギャーギャー騒いでいるのが聞こえた。


「おい! てめぇ! 荷物ぅうう!」

「何、勝手なことしてんだゴラァぁ!」


「ちょっと! 今引き返したらアイツが追ってくるのよ! やめてグエンさん!!」


 ち……!

 どいつもこいつも!!


「やかましい!!」


 しかし、身軽になったグエンは早い!

 「敏捷」4000超えの速度の本領発揮だ!1


 そう。今のグエンはパーティ一の俊足!

 ……滅茶苦茶早いッ!!



「伊達に敏捷特化・・・・じゃねぇぞー!!」



 バヒュンッ!! と風を切って走り去るグエンを見て、マナック達は顔をポカンとさせて……。




「「「は、はぇー……」」」




 呆気に取られてみていたとかいなかったとか。

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