第30話「よぅ……。これを見て、まだ言えんのか?(前編)」

 デーーーーーン!


 と、テーブルの上に鎮座するニャロウ・カンソーの生首。

 この面々なら見間違うはずもない、あの強敵だ。


 SSランクパーティーを鎧袖一触で蹴散らした魔王軍の四天王……。

 それが燦然とテーブルの上にあるではないか。


 マナック達は、『開いた口がふさがらない』のお手本のようにパッカー……と、お口オープン。


「ば、ばばばばばばばばばばばばっば、ばかなぁ?!」

「うぉぉええええええええええええ? うっそぉん?!」


 おーおー。いい反応ッ。


 マナックとレジーナが腰を抜かさんばかりに見ているし、

 アンバスに至っては「あばばばば」とか意味不明な状態になっている。


「……これが『証拠しょーこ』だけど? 不足か?」


「あば?」

「あばば??」


「あ、これもついでに」

 さらに、もぎとった腕もついでに置いてやる。


 ドーーーーーーン!


 あっばぁ?!

「「「───あばばばばばばばばばば」」」


 三人とも言語が怪しくなってきた。


 あ、腕は二本あるからもう一本つーいーかー。


「ほい。二本目ぇ」

 バーーーーーーン!


 あっばばぁ?!


「「「あばばばばばば、あっばー!」」」


 ついに三人そろって、逆のようにソファーごとバターンと後ろに倒れる。

 ……君たち、息ぴったりだね。


「うわー……。本当にニャロウ・カンソーの首なんですか?」


 ティナが改めて首と腕を鑑定。

 手配書を見るまでもないほど、凶悪さと禍々しさのあふれているニャロウ・カンソーの遺骸。


 おまけ死んでいるのに、この威圧感と悪臭だ……!

 漂ってきた匂いにティナが顔を歪める。


「うえッ。こ、これは間違いなくニャロウ・カンソーの首ですね。ということは……」


 ティナは口元をハンカチで押さえながら、取り調べの調書と見比べている。

 おそらく、さっきグエンが話した討伐の状況と照合させているのだろう。


「ふむ……。ふむふむ。───グエンさんの調書にはスキルの発動とともに、上半身を貫いたとありますが、なるほど……。確かに、首から下の痕跡を見る限り、疑いようもないですね」


 まぁ、何一つ嘘は言っていない。

 つまり、書かれている内容と、この生首の状態に不整合などありえないのだ。


「あば?!」

「あばばばのば!」

 マナックとレジーナが起き上がり、何やら抗議? してくる。


「あっばぁぁああああああ!!」


 いや。……言語しゃべれや。


「通訳します?」

 ティナが見かねて、提案。

 つーか、できるんかぃ!? 何の通訳やねん。

 「あばば語」か?! 「あばば語」なのか?!


「ばかな! ばかな!! ぶぅぁかぁなぁぁあ!!」

「ありえない! ありえないありえないありえない!」


 なんや、しゃべれるんかい!


 グエンの呆れた表情を無視して、マナック達はぶんぶんと首を振って全力で否定する。


 そりゃそうか。

 彼らに取っては、この上なく都合の悪い証拠品だもの。


「ないないないないない!! あのニャロウ・カンソーだぞ! あの凶悪最強の!」


 ──いや、マナックお前……。

 討伐前に、最初は雑魚とか言ってたじゃん。


「こ、こんなの嘘よ! 出鱈目よ! こ、抗議するわッ! ちょっと責任者呼んで!」


 ──いや、なんで出鱈目やねん。

 お前の性格が出鱈目だよ。

 キャラ統一せいや。俺が抗議したいわッ!!


「あばばば……。そ、そうだ! グエンごときに倒せるわけがない! こいつは偽物だ」


 ──いや、偽物も何も。

 見れば一目瞭然だろうが……。


「「「ありえな~い!!」」」


 いや、「ありえるぅー」っーの!!


 見事にハモルのは、馬鹿3人。

 あーもう! だんだんうんざりしてきた。


 その様子を見かねたティナがズキズキと痛む頭を押さえて言う。

「え~っと。あのー、ですね。今のこの場は、私が責任者ですが、ご不満で……? それに、あり得ないとか、偽物だとか言いますけどね、マナックさんにレジーナさん? 現にこうして証拠はある・・・・・わけで──」


 チラリとマナックの顔に視線を投げるティナのそれは、思いっきりさげすんだものだった。


「──そして、あなた方の一連の報告の中で、マナックさんたちが証明できるものは何かありますか?」


「「「どきッ!」」」


 …………そんなものはあるわけない。


「なにか一つでも・・・・証明できるものはありますか?」


 たとえば……。


「そう、例えば。…………グエンさんが死んだという証拠などは───?」





「「「ぐぅぅ……!」」」





 いかにも、痛いところをつかれたという顔をするマナック達。

 ダラダラと滝のように汗を流す3馬鹿。


 おやおやおやおやぁ?

 さっきまでの勢いは、いったいどこへやら?

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