第30話「よぅ……。これを見て、まだ言えんのか?(後編)」

「それで、あなた方は何か証拠・・・・を出せますか?」

 ティナの鋭い言葉。


 それに対して、二の句が告げぬマナック。

 いかにも、痛いところをつかれたという顔をしているが……。


 さっきまでの勢いはどこへやら。

 「はーい♪」とか言ってなかったか、お前ら?


 グエンのジト目と、

 ティナの鋭い視線に晒される。


 さすがにこれは、三人で顔を交互に見ては目をキョーロキョロ。


 あぅあぅあー……。


「そ、そそそそそ、それはだ、な……」

「え、えええええ、えっとぉ、あはは」


 「あはは」じゃねーよ!

 見殺しにして、囮にして、仲間討ちまでしておいて、抗議も何もねぇっつの!

 俺とリズが抗議したいわ!

「お前ら、しょ───」


「う、ううううるさい! 俺たちだって見間違うことくらいある!」

 グエンの言葉を絶ち切るように、そう言い切ったのはアンバスだった。


「……あ?! 見違えだぁ?!」

「は? はぁあ?!」

 グエンとリズが同時に声をあげるも、

 マナックもレジーナも一瞬ギョッとしていたようだが、すぐに顔を引き締めた。


 もはやこれしかない! といった様子で、


「そ、そうだ! み、みみみ、見間違いだ! ニャロウ・カンソーは毒の霧を吐く強敵だったんだ。そこには幻覚作用も───あ、あったはず・・・・!」

「そ、そうよ! げ、げげげ、幻覚。幻覚なのよ! あの毒霧には、幻覚作用があったはず・・・・・・・・・・なのよ! ああ、そうと分かれば、グエンさん! 生きててよかったわ──」


 見間違ぇだあ?!

 それに、「あったはず」だぁ……?


 ほっほーう?


 グエンの反応など知ることもなく、レジーナが熱い眼差しで見上げてくる。

「ああ! よかったグエンさん!」

 それだけ言うと、レジーナがスックと立ち上がり、グエンにしなだれかかる。

 胸部装甲を押し付けるようにして、誘惑にかかりはじめた。

 それをムっとした顔で見ているリズがいたが、グエンはあえて無視。


「グエンさーん……」


 くねりくねり、と。

 それを見たレジーナはいける・・・と判断したのか、グエンに熱い吐息を──……。


「歯を磨け、くそアマ。結構臭うぞ」

「んだぁ?! なんだと、このオッサンがぁぁ! 誰がゲロ並みにくせぇじゃあ!」


 ……いや、そこまで言ってない。


 まぁ口が臭いのは本当だけど、着の身着のままで必死で撤退してきたのだから当然といえば当然だ。


 それよりも、

 一瞬にして般若の形相を浮かべたレジーナ。

 その変貌ぶりに、周囲がドン引きしている。


 聖女と名高いレジーナの百面相っぷりに、マナック達も口をパッカーとあけて驚いている。


「いいから離れろクソアマ。……で、なんだ? ニャロウ・カンソーが幻覚の毒霧を吐いただぁ?───あのなぁ、アイツにそんな成分ねぇっつの!」


 グエンは自信満々に言い切る。


 最後まで奴と戦闘をしていたのだ、そんな攻撃はしてこなかったのはこの目で見ている。


「んなこと、お前にわかるか、っつの!」

「そうよ、そうよ! 証拠出しなさいよ、証拠をー!」


「証拠♪ 証拠♪」


 はーい! はーい♪ はっは~い♪


 ……こいつら、「証拠」「証拠」うるせぇな。

 そんなに言うなら、まずはお前らが出せよと、言いたいわ!


 ま、

「──いいぜ。幻覚作用のある毒霧つったよな?」

 グエンは少しも慌てず、むしろ見下していた。

 だが、マナックはそれでも動じす、

「おう! 当たり前だろうが! そうでなければ──」

「あーはいはい」

 みなまで言わせずに、

「───じゃ、ティナさん。この首から毒腺をとりだせますか? 成分を分析すれば……」


 証拠、証拠というなら出してやればいい。

 現にここにニャロウ・カンソーの首はあるのだ。


「あー。なるほど。そういうことでしたら、お安い御用で──」

「ま、待て!!」


 ティナが解体用のナイフを取り出したとき、慌てたマナックがティナに取りすがる。


 それを迷惑そうにみながら、


「なんですか? 離してください──(うっとうしい)ボソっ」


「そ、その首は、ニャロウ・カンソーじゃない! 解体したって、幻覚成分なんか取れるはずないでしょ! な、なぁ皆」

「そ、そうよ! それはニャロウ・カンソーじゃないわ! た、ただの大きなリザードマンよ!」


 は、はぁ??

「お前ら、さっき、「「「ニャロウ・カンソー?!」」」って言ってビビってたじゃねーか。」


 何をいまさら……。


「うるさい! グエンにニャロウ・カンソーが倒せるわけがねぇ!!」


 うんうん、と頷きあう三人。

 離れたところで見ているシェイラはしょんぼりしている。


「いや。そういう判断・・・・・・はギルドでしますんで……」

「い、いや、だから!」


 いい加減うんざりといった様子でティナがマナックを押しのける。


「なんなんですかさっきから!! いい加減往生際が悪いですよ?! こっちだって、海千山千の冒険者を相手にしてるんです、しょうもない偽証がバレないとでも思ってるんですか?!」


 カッ!!


「「「ひょええええ……!」」」


 一喝したティナの剣幕に、マナック達が震えあがる。

 その様子をいい気味だといわんばかりに見ていグエン。


 リズはさっきから嘆かわしいと、天井を仰いだまま。

 ……まぁ、マナック達が見苦しすぎてね──わかるよ、その気持ち。


「──そ、そうだ! おいシェイラ!!」

 突然、何かを思いついたかのように、マナックがシェイラを呼びつける。


 おいおい、次はなんだ?

 シェイラがどうしたって…………??

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