第31話「よぅ……。仏の顔も三度まで、ってな(後編)」

 お前がどういう人間・・・・・・か見せてもらうよ──。


「ッ!」


 冷たく、

 そして、ハッキリとグエンは告げた。


 あとは、もう。

 ただそれだけを呟きムッツリと黙り込んだグエン。


「ぐ、グエン───。ぼ、ぼく……」

「おい、シェイラ! 早くしろッ」


 その瞬間、苦虫をかみつぶしたような顔をしたシェイラであったが──……。


「うう……。鑑定魔法アナライズッッ!」


 パァァ…………!


 シェイラの魔法が発動し、ニャロウ・カンソーの首に当たる。

 そして、


 ブゥゥウン……。


 と、ステータス画面が魔法により、強制解放。

 ニャロウ・カンソーのデータを明け透けにする……。


☆ 『鑑定アナライズ』によりステータスを開示します ☆



種 族:ラージリザードマン


体 力: 365

筋 力: 255

防御力: 488

魔 力:  65

敏 捷: 709

抵抗力:  56


スキル:コールドブレス、筋弛緩毒、二足歩行、尻尾切断、再生



☆ 大魔術師が、魔法を解除しました ☆


 ガクッ───。

「はぁ……はぁ、はぁ」


 ドサリと、床に膝をつき、肩で息をするシェイラ。

 たかが鑑定魔法で随分と魔力を消耗したらしいが、それよりも────。



「ほーーーーーーら、見ろぉぉぉお!!」

「偽物じゃなーーーーい。おーほっほっほ!」


 いえーい♪

 へいへーい♪


 マナックとレジーナが手を叩き囃し立てる。


「どーだ、見たか! これで偽モンだとわかったはずだぜ──つまりよぉ、」


 一人元気なアンバスは絶好調だ。

 もちろん、グエンもリズもティナも、内心では呆れ返っている。

 そして、その目は絶対零度。見るものをのけぞらせるほどに白けていた。


 しかし、


「「「コイツは嘘つきだぁ!」」」


 ぎゃははははははははははははは!!

 と、空気を読まない3バカ。

 ついには大笑いして床を転げまわるマナック達。

 超見苦しい───。


(あっほくさ……)


 だが、マナック達は空気を読めぬ。

 おまけに、

 ニャロウ・カンソーの首をペチペチと叩きながら、

「なーにが、ニャロウ・カンソーを倒しただぁ? ただの、ラージリザードマンじゃねーか」

「そうよ、そうよ! この大法螺吹き男! 嘘つきは神に断罪されるがいいわ! おーほっほっほ!」

「てめぇみたいなパシリにニャロウ・カンソーが倒せるかよ。このリザードマンだって、どっかで拾ってきたんだろうが!」


 ぎゃーーーっはっはっはっはっは!!


「はぁ~……」

「あーあ……」


 グエンは心底くだらないと息を吐き、

 リズはバカバカしいと肩をすくめる。


 だってそうだろ?


 あれがニャロウ・カンソーの首だってことは、この場ではティナ以外全員が知っているはずだ。

 それを、まぁ…………。


「………………シェイラ」


 だが、グエンはマナック達を完全に無視して、床にへたり込んでいるシェイラにゆっくりと視線を向ける。


「ひっ」


 その冷たい目線に、シェイラが泣き声を一つ。

 だが、いっさいに容赦もなくグエンは言った。


「────……ガッカリだよ」

「ッッ!! ぁ…………ぅ」


 何か言おうとして、シェイラがグエンに手を伸ばすも、その時にはすでにグエンの目線はシェイラから外れていた。


 それはもう、路傍の石のごとく……。シェイラという一個人に対しての関心をすべて失ったものだった。


「ぐ、グエン……。ぼ、僕は──」


 おろおろと、シェイラがグエンに手を差し伸ばすも全くの無視。

 その様子に、傷ついた様子のシェイラは目の涙を浮かべてうつむく。


「ッ……!」


 そうして、ゲラゲラと大喜びのマナック達と、対照的なシェイラという構図ではあったが、当然ギルドが「はい、そうですか」というはずもない。


 あれがラージリザードマンだって?

 そんなの、お前ら以外に誰が信じるんだよ。


 だが、この場の誰も彼もが冷たい視線を送ってもマナック達は動じない。


「「「ぎゃははははははははははははは!!」」」


 なるほど。

 面の皮の厚さならSSランクだわ。


「ばーーか!」

「ばーーーか♪」

「お前らばーーーーか!」


 キャッキャ、

 キャッキャ、と大喜びするマナック達。


 その喜色を浮かべたまま、

「どーです、ティナさん! 俺たちが幻覚でグエン達が死んだと勘違いしても仕方なくはないでしょ?!」

「そう。私たちは必死で戦ったの。だけど、ニャロウ・カンソーの毒をもった幻覚にやられて……。あぁ、よかったわ! グエンさんにリズさんが生きていて! あぁ、神よ感謝しますッ!」


「あーはいはい。そういう設定・・・・・・でしたね……。(つーかギルド舐めんなよ)ぼそっ」


 白けた目線でマナック達をジト目で見るティナ。

 すでに彼女の中で『光の戦士』の評判が地に落ちている。そして、もはや浮上しないだろう。


 さっきの鑑定魔法だって、怪しさ全開だと気づいているのだ。


 もちろん、鑑定魔法を操作するなんている事例は聞いたことがない。

 だが、ないとはいえ、シェイラはあれでいて天才の部類だ。ステータス画面を弄ることもできるのかもしれない。と──。


「そーそー! 幻覚幻覚! あれは俺たちのちょっとしたミスだぜぇ! 小さい小さい。小さいミスだぁ! 報告のミスなんてノーカンノーカン!」

 アンバス絶好調! 大喜びで手をたたいて踊りだす。


 ノーカン!

 ノーカン♪

 ノーーーカン♪


「「「ノーカン♪ ノーカン♪」」」──いぇ~い♪


 一斉にノーカウントコールを歌い始める3馬鹿。


「うふふふふ…………」


 ニーーーーーッコリと、笑ったティナが一言。





「はい。ダウト」

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