第32話「よぅ……。そろそろ年貢の納め時ってな!!(前編)」

「あ?」

「なんですって?」


 唐突に告げられた言葉に、歯をむき出しにしてマナック達がティナに詰め寄る。


「ダウトだといったのですよ。マナックさん」


 そう言い切ると、「ノーカン、ノーカン♪」と歌い続けるアホをさっくりと無視して、ニャロウ・カンソーの生首をコンコンと叩きながら、


「あー……。コレガニセモノデスカー」


 「はっ!」と鼻で笑いながら、蔑みの目をみせるティナ。

 そして、しつこいくらいにゲラゲラと笑い続けるマナック達の眼前に、ゴトッ───と光り輝く水晶玉を乗せると、ニッコリ。



 ブゥゥウン……。


種 族:キングリザードマン

名 称:ニャロウ・カンソー

称 号:魔王軍四天王


体 力:883369

筋 力: 12257

防御力:566453

魔 力:  8765

敏 捷: 12709

抵抗力:244356


スキル:魔法反射、複合神経毒、筋弛緩毒粒子、

    二刀流、高速追跡術、言語理解、

    二足歩行、尻尾切断、超高速再生


「あれれー? ウチの鑑定器にはキッチリとニャロウ・カンソーってでてますねー。おっかしいなー?」

 んふー? と、ティナがわざとらしく首をかしげる。

 彼女がマナックたちに見せたのはギルドの正式鑑定器、『かんてぇ~いき』だった。


 そしてそこには、くっきりとニャロウ・カンソーの鑑定結果が映し出されている。


 もちろん、本物。

 ラージリザードマンの記述などどこにもない


「「「───あばぁ!?」」」


 ドキーン! と顔を引きつらせるマナック達。


「そ、そそそそそそそ、それは?!」

 無茶苦茶キョドリながらマナックが冷や汗を流す。


 だが、ティナはそっけなく。

「───ギルドの鑑定器ですが、なにか?」


 もはや、表情の消えた顔のティナ。


「そ、そんなのってないわ! 言ったじゃない、ギルドの鑑定器はあて・・にならないって!!」

「そ、そーだ、そーだ! 偽造だ偽造!」


 レジーナもアンバスも真っ向から否定する。

 だが、それが通用するわけもなく。


「あー……あのですねー。全世界組織のギルドの鑑定器が嘘をつくと? そして、SSパーティとはいえ、一個人の魔法のほうが信用に足ると、どうやって説明するつもりですか?」


「「「うぐ!」」」


「ご不満なら他の鑑定器も試しますか?

それとも、本部から取り寄せますか? あぁ……いっそ、鑑定士を呼びましょうか!」


 ニッコリ。

 目が笑っていない表情で、ティナがいう。


「「「ぐぎぎぎぎぎ……」」」


 正論も正論に、マナック達が押し黙る。

 一方で、グエンがチラリと視線を向けると、やらかしたシェイラはしょんぼりして顔を上げない。


 事情は知らないが、恐らく不正を強要されたのだろう。

(ったく、しょうもないことに魔法の才能使いやがって……)


 まったく同情の余地もないので再び無視。

 ガキだから多少は甘くみていたが、もう無理だ。


「だ、だが! 俺たちの魔法では、この生首は偽物だとでたじゃないか! なぁ、みんな!」

「そ、そうよ! 第一グエン達なんか信用できないわ!! いっぱい嘘だってついてるじゃないッ!」


「そうだそうだ!! グエンは嘘つき野郎のパシリのカスだ!!」


 ぎゃーぎゃー

 わーわーわー


「いや、その……グエンさんが嘘つきとか、どの口で言いますかね……」


 あーもう、とティナは全身全霊でうんざりオーラ。


「だってそうだろうが!! ニャロウ・カンソーを仕留めただけじゃなく、えーっと、なんだっけ?」

「あ、あああ、あれよあれ! そう、伝説の槍を二本も入手したって言ってたわね──うぷぷーありえなーい」


 ありえるぅ。んだよな、これが。


「──これのことか?」


 ぽぃ!


 ガシャーーーーーーン! と、けたたましい音を立ててトリアイナとグングニルを床に無造作に放り投げるグエン。


「うぉ! あっぶね────って、これは?!」

「きゃ!…………って、何このオーラ」

「す、すげぇ……本物だ」


 床に転がした槍の二本から放たれる圧倒的なオーラ!

 そのオーラはレアリティの醸し出すもので、3馬鹿がゴクリとつばを飲み込む。


「ぐ、グエンさん。こ、これは……」

 ティナもさすがに驚いたらしく、顔をわななかせている。


「伝説とかいうアイテムらしいけど? まぁ、拾いもんですよ。ニャロウ・カンソーのドロップアイテムです」


「「「んな?!」」」


 驚愕した3馬鹿。そして、次の瞬間には物欲しそうな顔になり──……。


「げ……。これ、本で見たことあるぜ、雷撃魔法を使えるっているグングニルじゃん!」

「あ、あら……。これって、教会の禁書に記されているっていう、水を生み出す海神の銛──トリアイナ?!」

「げ、レアリティSクラス以上の本物ぉ?!」


 ぎゅん!! と音がしそうなくらいの勢いで顔を上げた3馬鹿。


「お、おいグエン! ドロップ品はパーティで山分けだろ?!」

「そ、そうよ! こんな貴重な品を隠し持つなんて! 仲間に黙ってるなんてひどいわッ!」

「お、お前に槍はもったいねぇ! これは俺こそが持つべきだ!!」


 手のひらくるーり。


「「「これはパーティのものだろ!!」」」


 ぎゃいのぎゃいの!!


「は? お前ら曰く、俺はニャロウカンソーを倒していないんだろ? おまけに、お前らに見捨てられた俺が未だに同じパーティで、仲間だだぁ?」


 ──どの口でほざきやがる。


「見捨てられた……?」


「う、うるさい! これは俺たちのものだ!」

「そうよ! 独占するなんて許されないわ!」

「卑怯者ー!」


 こいつ等すげぇ性格してんな。こ、こんなクズだったとは……。


「ほう……。マナックさんたちは、これが本物だと認めるのですか?」


「「「え?」」」


「ニャロウ・カンソーのドロップ品と認めて、そのうえで所有権を?」


「あ、当たり前だ! 伝説の槍だぞ! ニャロウ・カンソーが装備していたレアリティSクラスの────あ、」


 ハタと気づいて、口を押えるマナック。

 自分の言ったことにようやく気付く。


「…………つまり、グエンさんがニャロウ・カンソーを仕留めたこともようやく・・・・認めるのですね?」

「いや、その……あばばば」


 ダラダラと冷や汗を流すマナック。

 レアアイテム欲しさについ口が滑ったようだ。


 ギルドの手配書ではニャロウ・カンソーがこのアイテムをもっているらしきことはすでに公表済み。

 つまり、グングニルとトリアイナを入手していることは、討伐証明以上に「証拠」として有用なのだ。


「お、落ち着いてマナック! おーほっほっほ。ティナさぁん、これはグエンさんなりの冗談なのよ。だから、これも偽物なのよ! だからパーティで責任をもって回収するわ! こんなものみっともなくて鑑定に出せないもの!」


 おーっほっほっほ。


 冷や汗ダラダラでレジーナが取り繕う。


「そうそう! 冗談、冗談。だって、グエンは言ってたじゃないですか、砂漠でAクラスの魔物の素材も回収したって──そんなあり得ない話と同じくらいの話で、全部冗談ですって」


 へーーーーーーー……。

 

 どうやら、グエンが砂漠までいって帰ってきたのが冗談だと思っているらしい。

 まぁ、グエンの称号とスキルを知らなければ、普通はそう思うだろう。ぶっちゃけティナさんも信じているかどうか……。


 ま。

「──これが冗談か? アンバス」


 背嚢をひっくり返すグエン。

 リズから受け取ったそれも同時に──。


 ドサドサドサドサドサドサ!! 背嚢に詰め込んでおいた、世界の果て砂漠産の魔物の素材。


 この辺では絶対にお目にかかれない代物だ。


「ぶわ!!」

「きゃあ!」

「あっぶね!!」


 テーブルの上に無造作にぶちまけるそれ。こんもりと小山を作るそれらは、紛れもないAクラス以上の魔物の素材だった。


「で────…………どれが冗談だよ」


 …………。


「「「う、うっそーん…………」」」

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