第32話「よぅ……。そろそろ年貢の納め時ってな!!(後編)」

 ドザザザザザザザザザザ!


 大きな音を立てて詰み上がったレアな素材の数々。


 それを見て、

 しーんと静まり返るギルド。


 マナック達はもとより、ティナも口をあんぐり開けている。


 彼女は、グエン───そして、リズの話を信じていたとはいえ、実物を見るとまた話は別だ。


「こ、これは──獄鉄アリジゴクの素材」

「ま、まさか、鋼鉄ヒヨケムシのドロップ品なの?!」

「げげげ、インフェルノスコーピオンのもあるぜ……」


 ほかにも、あるわあるわ!

 まーたくさん!!


 ゴールデンスカラベの金糞、ゴールデンスカラベの甲羅、

 ヒュージサンズワーム、

 砂亜竜の牙、砂亜竜の角、砂亜竜の甲皮、砂亜竜の逆鱗、砂亜流の肉、砂亜竜の心臓、砂亜竜の魔石

 サンズヘッジホッグの針、サンズヘッジホッグの爪、サンズヘッジホッグの牙


 等々。


 どこかの学者のつくった図鑑にはのっていても、実物を見たことがあるものはほとんどいないだろうという代物だらけ。


 しかも、どれもこれも、この町周辺では取れる素材ではないし、並の冒険者で狩ることのできるモンスターではない。


 そして、Aクラス以上の魔物の素材は非常に高価で取引される。

 しかも、めったに市場に出回らない魔物の素材だ。需要はうなぎ登りで───。

 つまり、偽物や代替品を用意するのはちょっと無理ということ……。


 なんせ、どれもこれも高価な代物で、これらを換金するだけでちょっとした大名なみの資金だ。


「や、やった! これを売れば一生安泰だぜ」

「す、凄いわ……。教会の献金なんて目じゃない額だわ」


 マナック達は目を$マークにして、ヤイノヤイノと大騒ぎ。さっきまでのテンパりぶりが嘘のようだ。

 いや、それ以前に……なんだこいつら?──それらの分け前が当然もらえる前提で話していやがる。


 ふざけるなよ……。


「よ、よくやったグエン! あとは俺たちに任せておけッ! なぁ!」

「はぁ……?」


 気持ち悪い笑みで揉み手のアンバス。


 だが、グエンは忘れない──忘れるはずもない。この男に足を刺されたことをッ。


「………………さっきから、お前らは何を言ってるんだ?」


 グエンはあきれ半分、怒り半分でマナック達を睥睨する。


「俺を刺して、リズを囮にして、散々な目にあわせておいて…………なんで仲間だとか、分け前だとか、どの面下げてパーティだとかほざいてんだ、 あ゛?!」

「んだとゴラァあ!」


 激昂するアンバスが、グエンに掴みかかろうとする。


「パシリのくせに偉そうなんだよ、テメェはよーーー!」

 反射的に剣を抜きそうになるアンバスを、レジーナが押しとどめる。

「ちょ?! や、やめなさい!! ギルド内での私闘は懲罰対象ですよ!!」


「ぐ……!」


 さすがのアンバスもそこで押し黙る。

 だが、怒りが体全体からあふれているのかプルプルと震え、何かの拍子に爆発しそうだ。


 その様子をじっと見ていたティナが、ゆっくりと口を開く。


「…………さて、マナックさん。これでもまだ否認を続けますか? グエンさんはすべて『証拠』を出しましたよ。その一方で、あなたたちは何かあるんですか? そう──自分たちの言い分を正当化できる『何か』が?」


 その冷たい言葉がマナック達の精神を大きく抉る。

 なにせ、証拠なんてあるはずがない。

 当然『何か』なんてものは、マナック達のでっち上げの産物しかない。


 そりゃあ───。

「うぐぐぐぐぐぐ……」


 二の句が継げないマナック。

 唯一無二の証拠ともいえるでっち上げは、ニャロウ・カンソーの首を鑑定したシェイラの魔法だけ。

 いや、それどころか。

 むしろ、それがさらに状況を悪くしているともいえる。


 なんたって偽証のうえに、魔法での魔物のステータスの偽造。

 それをなんとなく見抜いているギルド職員のティナの心証は最悪だろう。


 一方でグエンの報告はすべて正確だ。


 ……そりゃあそうだろう。

 すべて真実なのだから。


 おまけに証言に一つの穴もなく、燦然と積み上げられた証拠の数々。

 客観的に見ても、グエンのほうが誠実かつ、真実だ。


「…………とくに反論がないようでしたら、偽証を認めるということでよろしいですね?」

「「「ぐ……!」」」


「────ないようですね。では、」


 ティナはマナック達のほうも見もせずに、調書をトントンとまとめると、グエン達に目配せをしてソファーから起き上がる。


「……沙汰・・は追って下されると思います」


「「「そ、そそそそんな!」」」


 揃いもそろって馬鹿面を見せるマナック達。

 その面を──とくにレジーナのそれを冷たくにらむティナは言う。


「──…………もちろん、聖女教会の枢機卿といえども、ね」

「ん、なんですってぇえ……!」


 怒髪天つく勢いで反論しようとするレジーナ。

 だが、ティナは取り合わない。


「当然でしょう? 偽証に、ドロップ品の鑑定結果の偽造」


「「「そ、それは……!」」」


「──そして、パーティメンバーに対する暴行罪と殺人未遂…………どれも、罪は軽くはないと覚悟しておいてください」


「いや、それは!」

「ち、ちがうわよ! な、なにかの勘違い──」

「よ、よう! グエン。き、今日飲みにいかね?!」


 やいのやいの。

 なんとか、グエンにすがりつくパーティーの面々。

 ここにいたっては、グエンに助けを求めるしかない。

「ぐ、グエン。頼むよ! なぁ、俺とお前の仲だろ? ここはさぁ……!」


「──────……そうだな、マナック」


 グエンは静かに、

 そして、優しく語りかける。

 …………ニコォ。


「ぐ、グエン!」


 その笑顔に救いを感じたのか、マナックが気持ち悪い顔をグエンに向けると───。


「頼まれてた、焼きそばポーションに『剣の油』だけどよぉ」


 懐に入っているポーションの空き瓶。それは、シェイラから貰った罪滅ぼしのあのポーションだ。

 それを見て、シェイラが小さく声を出すも、グエンは見向きもせずに、中にパーティーの証であるSS級の冒険者ライセンスドッグタグを叩き込む。


「たまには、自分で買いに行けッ! この高慢チキが!!」


 バキャーン!


 けたたましい音をたてて、マナックの足元にそいつを叩きつける。


「俺はもう、パーティーを抜ける! お前が言ったんだろ?──────俺とリズは死んだってなぁぁ!!」


 それを聞いていたリズが、ニッと歯を見せて笑うと、

「よく言ったじゃん、グエン! じゃ、そーいうわけだから、」


 チャラリと、首からライセンスを取り外すリズ。

 それを、指に掛けてヒュンヒュンと振り回すと、レジーナに向かって、トン! と押し付ける。

 そのまま、至近距離で一言。


「………………あんた、このままで済むと思ってんじゃないわよね?」

 スゥと暗殺者の目を見せるリズ。

「───ッ!!」

 それは、彼女を囮にするため、拘束魔法をかけたレジーナにはそら恐ろしかったらしい。


 顔をひきつらせて声をつまらせる。


「なるほど、グエンさんとリズさんは、『光の戦士』を脱退されるわけですね。了解しました。元々死亡届けが出ておりましたから、あとはこちらで手続きをしておきます。今までお疲れ様でした」


 ペコォ、とティナが頭をさげた。


「「「あばばばばばばばばばばばばば!!」」」


 それは、つまりパーティからグエンとリズがいなくなるということで。

 マナックの最後の目論見であったパーティ内のもめ事で処理してしまおうとすること自体が不可能になったということ。


「というわけで………………」


 爽やかな笑みを浮かべたティナは言う。


「くそ野郎共は───おっと、マナックさん方は、仲間を殺そうとした罪で。うーん、そうですね…………。軽くて、ランクの降格と罰金──その他ペナルティ多数。……まぁ、このままなら、衛兵隊に拘束されるのが通例でしょうか?───つーか、」


 つーか?


「…………リズさんに手ぇだしたり、あとギルド舐めんじゃないわよ、クソ野郎共が! 衛兵隊カモーン!」

「「了解!」」


 バチンと指を弾くと、ドヤドヤと衛兵が乗り込んでくる。


「「「あっばぁぁあ?!」」」


 どうやら、雲行きが怪しくなった時点で呼び寄せていたらしい。

「連行してちょうだい!!」


 どーーーーーん!!


 と、言い切ったティナの言葉に、ついに泡を吹いて3馬鹿がバターン! とその場に倒れ伏す。


 そのあとで、通報を受けた衛兵がやってきて、気絶しかけたマナックたちをズールズルと引っ張っていく。


「「「や、やめてー!」」」

「ええい、神妙にしろ! 犯罪者どもが!!」


 ガッチムチの衛兵に引っ立てられるマナックたち。


 そりゃあ、殺人未遂だ。

 あとは、司法機関の仕事だろう。


「あばよ、マナック。臭い飯でも食ってこい。たまに焼きそばポーションでも差し入れてやるからよ」


 じたばたと抵抗するマナックたち。

 だが、捕縛に長けた衛兵たちはマナック達をあっという間に武装解除すると、手早くかせをかけてしまった。


「ぐ、グエン……! て、てめぇ、覚えてろぉぉおおお!」

「教会の権力でグッチャグチャにしてやるんだからぁ!!」

「パシリのくせにぃぃぃいいい───あ、いた! もっと優しく引っ張れ、バーカ!」


 憐れにも、ボロボロの格好のまま引きずられていくマナックたちを見て、グエンは胸のすく思いを感じていた。




「──はっ。いい気味だぜ!!」

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