第51話「なんだと……! 謝ればいいってもんじゃ───(前編)」


「あーもー。あーーーーーーもぉぉおおおおお!!」


 ティナが頭を抱えてウンウン唸っている。


 その最中にも駆け付けた治療院の術師や職員がエッチラオッチラと重傷を負った冒険者たちを運んでいく。

 もちろん衛兵の監視付き。


「どーすんのよ、これぇ!!」


 気絶したギルドマスターの頭をペチペチと叩きながらさめざめと泣くティナ。

 それをアワアワと慰めるリズ。


「あ、あはは。ほ、ほら──嫌な上司を更迭できてよかったじゃん。コイツももう終わりだし」

「うわーーーん、それはいいんですけど、うわーーーーーーん! 職場がぁぁあ」


 あーはい。

 ギルドが半壊してますね、はい。


 っていうか、俺のせいですよね──。


「そうよ、アンタのせいよ!! どうすんのよ、責任取んなさいよ!! あと、バツとしてリズさんは今夜、私の部屋まで来ること、薄着でぇ!!」


 おう、ゴラ。どさくさに紛れて百合展開進展させようとしてんじゃねーよ!


「つーか、俺が悪いのかよ? どう見てもマナック達のせいだろ?」

「それとこれは別です!! 『光の戦士』はそれ相応のバツが下るでしょうが、ギルドを半壊させたのを、『はい、どーもぉ』済むわけないでしょ!!」


 だ、だからって……。


「──どーしろってんだよ!!」

「弁償に決まってんでしょ!! 弁償にぃぃぃいい!!」


 はぁぁあああ?!


「お前のとこのギルドマスターの責任だろ、こーゆーのはぁぁああ!!」

「やっかましいわ!! リズさんとイチャコラしやがって! それが一番許せない──あ、ごほん! それとこれとは話が違いますぅぅう!」


 こっのやろー……。どさくさ紛れに本音と建て前が一緒くたになってやがる。


「俺は払わんからな!!」

「あー、お好きにどーぞぉ!! そのことも含めて全部中央に報告してやるんだからぁあ!」


 フンスッ! と息巻いてティナがそっぽを向く。

 そのままギルド職員たちに指示して、内部の清掃と負傷者の救助に当たり始めた。


 どうやらギルドマスターが逮捕される事態になっては、彼女が次の責任者らしい。

 ……大丈夫か、このギルド。


「グエン~……まずいわよ。形だけでも謝らなきゃ──」

「はぁ?! 俺が悪いってのか?! ギルド側の落ち度だろうに!」


 はぁー……と再び深いため息をつくリズ。


「気持ちはわかるけどさー……。ティナたちみたいな、善良?な職員からすれば──冒険者同士のいざこざに巻き込まれたって思われてもしょうがないわよ」


「う…………」


 た、たしかに、事の発端は『光の戦士』だ。

 そして、グエンもその一端にいるわけで────……。


「ギルドマスターのことは、確かにアタシもモヤモヤはするけど……。ほら、わざわざ中で暴れる必要もなかったわけで──」


 いや、暴れたのはアンタも同じぃぃぃいい!

 ……そ、そりゃ壊し方が一番ひどかったのは認めるけどさ──。

 う、そうなると、やっぱグエンの責任は大きい?


 冷静に考えてタラタラと冷や汗を流し始めるグエン。


 おそらく、『光の戦士』やギルドマスター。そして、そこに加担した冒険者たちにはそれ相応の沙汰が下されるのだろうが……。

 グエンも無関係かといえばそうではない。


 少なくとも、回避のしようはいくらでもあったわけで……。


「あ、謝った方がいいかな?」

「おふこーす」


 あー。

 リズさん、世渡りうまそうですね、はい。


 しょんぼりしたグエンがティナに頭を下げようとして、


「あ、あの……」


 クイクイと、グエンの服の裾を引くものがいた。


「あ゛?」

「う……」


 確認するまでもない。

 シェイラだ。


「ぼ、僕も……」

 ボソボソと何か話そうとするシェイラ。

 苛立つグエンは思わず、

「あ゛あ゛?!──聞こえねぇよ! はっきり喋れやッ!!」


「ひぃ!」


 ビクリとして、怯えたシェイラが小さく縮こまる。


「グエン……」

 それを見たリズがそっとグエンの肩に手を置き、導くようにシェイラの肩にも手を置く。


「なんだよ……。俺は機嫌が悪いんだ」

「いいからッ!」


 リズはやや強引に肩を掴んで、互いに顔を合わせさせる。

 シェイラもリズに肩を触れられては、顔を上げざるを得ない。


「ちッ」


 おずおずと見上げてくるシェイラの顔を見たくなくて、グエンがそっぽを向く。


「子供じゃないんだから! もうッ」


 リズが苛立って、グエンの鼻をつまむ。


「いだだだ!」

「ほらぁ! 顔くらいあわせなさいよ」


 くそ……!


 クサクサした気分ではあったが、リズに無理やりシェイラのほうを向かされる。

 そこには、おどおどとして涙ぐんだシェイラがいた。


 相変わらず小さくて……、今はとても弱々しい。

 少し前の勝気な態度と、年上を年上とも思わない生意気な雰囲気はもはやそこにはなかった。


「ち……なんだよ」

「あ……ぅ。その──」


 グエンに睨まれると、シェイラは反射的に目をそらす。

 だが、すぐに思い切って目を合わせると、


「あの──ぼ、」

「あ?」


 僕も!!


「僕も一緒に謝る! 僕も──」


 そういって、懐を漁り可愛らしいデザインの財布を取り出すと、中からピカピカの金貨を何枚も取り出しグエンに差し出す。


「これ、僕のお小遣い……全部、です」





 だから、

「ま、マナック達や、僕のやったことも全部……。全部ッ!!」

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