第50話「なんだと……! 俺のせいで?!(前編)」
「ふぅ……すっきりした。あ、ごめんね?」
「え? あ、え?」
リズに謝られたグエンは意味が分からずとりあえず頷く。
「いや、その……。この女にはアンタも言いたいことあったんじゃない?」
「うん、まぁ…………うん」
あるけどさ。
あるけどさぁ!
──あるけどぉぉお!
そんなダイナミックな土下座を見せられた後には、さすがにできんわッ!!
ぶっちゃけスッキリしたし……。
「これで全部?」
「んー…………まぁな」
あえていうなら、マナックの顔面もぶん殴ってやりたかったけど────……これ以上やると死ぬか?
音速衝撃波、一撃で吹っ飛んで昏倒するとはさすがに思わなかった。
ぶっちゃけ見掛け倒しもいいとこ……。
「ん? マナックが手ごたえなさ過ぎて驚いてる顔ね」
「あ、あぁ……。まぁ」
図星を疲れてグエンが言葉を濁す。
『音速』が強すぎるのはさておき、それにしたってSSランクだぞ?
ワンパンでダウンはさすがに……。
「──『監察』としての調査対象は『
「え?」
再起不能になった連中を見ながらリズが手近にあった椅子を手繰り寄せ背あて部分に腰掛ける。
「……実力の割には成果だけは上がっているからね。どうにも不自然だったのよ」
「は?」
実力のわりにって……。
「アンバスやレジーナは本物の実力者よ? アンタも知ってるだろうけど、あとから入ってきたメンバーはそこそこに実力者揃い──」
だけど、
「初期メンバーのアンタや、マナックはどう見てもせいぜい実力的によく見積もってAランク。実際はBランク程度だったんじゃないかしら?」
う……。
それは否定できない。
マナックはともかくとして、グエンは少し前までの自分の実力をよく知っている。
高Lv帯にいるとはいえ、アンバスやレジーナ達と比べると頭一つ二つ分は下がった実力だっただろう。
「だけど、成果はだしているし、やたらと地方ギルドからの受けはよかったからね──めきめきとランクを上げていったみたいなの……」
だ、だけど?
「だから、ギルドの中央部が
「は? く、口利き……?」
ど、どういう意味だ?
リズは曖昧な笑みを浮かべて簡単に説明してくれた。
それというのは、地方のギルドと結託したマナックが、マッチポンプを仕掛けていたということ。
例えば、盗賊騒ぎ。
例えば、レア素材の採集。
例えば、探し人────……。
「──で。どれもこれも、ギルドと結託すれば簡単にでっち上げられるのよ」
……あー。そういうことか。
盗賊は雇った連中を使えばいいし、
レア素材だって、自分であらかじめ準備して、その素材が必要になる様に仕向ければいい。依頼人に毒を仕掛けるとか──。色々ね。
探し人に至っては、自分で誘拐してしまえばいいのだ。あとはゴブリンの巣穴に放り込むなどしておけば完璧──……と。
「どれも心当たりあるんじゃない?」
「……あぁ、確かに──。くそっ、なんてこった」
あるわ。
ありすぎるわ……!
「くそ! くそくそくそっ。長年付き合ってて全く気づけなかった!! 疑いもしなかった!!」
「──でしょうね。アンタが馬鹿正直に下調べをして、情報を集めるために東奔西走していたからこそ、発覚が遅れたのよ」
そ、そんな……!
「アンタ。まんまと不正の隠れ蓑に使われてたのよ。根が真面目だから──……」
「ば、かな……」
ガクリと膝をつくグエン。
自分の苦労が不正の温床になっていたなんて……。
たしかに、自分で仕掛けたクエストを達成するため、本気で下調べをする馬鹿がどこにいるだろう。
周りもそう見ていたからこそ、まさかマッチポンプでクエストをこなしていたとは誰も思わなかったのだ。
そして、
「……そして、マナック念願のSSSランク昇格を前にして、ようやくアンタはお役御免──……で、最近の冷遇だったんじゃないかなー。とアタシはみているわ」
そ、そんなことって……!
「そんなことって──……!!」
そんなことってぇぇぇえ!!
「──畜生ぉぉぉおッッ」
グエンに叫びが半壊したギルドに響く。
誰に投げるでもなく、ただただ胸の中にある苦い塊を吐き出すように。
あぁ、だけど、すべて合点がいく。
納得できる。
理解してしまった。
マナック!!!
お前ってやつは……!!
「まぁ、マナックだけじゃないけどね。どうもこうも癖のあるメンバーばかりだと思えば──」
ギロッ!
リズが鋭い視線を向ける先、
魔法杖を抱いたまま、ペタンと力なく座りブルブルと震えている少女──。
シェイラ────。
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