第49話「ダークエルフは、ご機嫌です!(後編)」

 ……借り・・を返させてもらうわよ、レジーナぁ!


 ───シャキンッ!!


 リズが地面に突き立てていた短刀を抜き取り、順手に持ち替え低~く構えると、ユラ~リとレジーナの前に立ちふさがった。


「ちょ、ちょっと……待って。待ってよリズさぁん」

「あはぁ……? 待つぅ? なぁにをぉ……?」


 ずんずんずん。


 抜身の短刀を手に、無造作にレジーナに向かうと、


「待つって言って、アンタは待ってくれるんだっけぇ??───いやー、あの時はびっっっっくりしたわよぉ? まさか、魔物の領域で仲間に裏切られるだなんて。しかもぉ、生きたまま囮にしようってぇぇえ?」

「ひっ、ひっ、ひっ!」


 チク、チク、チク。


 短刀の切っ先をレジーナの肩に突き付け、チクチクと追い詰めていく。

 彼女がずるずると後ずさったとしても、

 その周囲には味方など、もはやほとんど残っていない。


 いや、多少の冒険者がいたとてどうなるのか。


 SSSランク冒険者のリズと、

 SSランクの冒険者二人をなんなく倒したグエンがいるのだ。


 よほどのアホでもない限り、この二人を敵にしようとは思わないはず。


 実際、生き残った冒険者で一度は敵対した連中は隙を見て逃亡を始めていた。

 なんせ、グエンが派手に建物を破壊したのだ。

 その気になれば、どこからでも逃げられる。


「ご、ごめんなさい──リズさん。も、もうしないわ。あ、謝るし。そ、そうだ! たっぷりと慰謝料も!! んね?!」

 慰謝料ぉ??

「あ、あは。あははは。あはははは。あははははは。あはははははははははははははははははは!!」


 メラァ……と、黒い殺気とも瘴気ともつかぬものをまとわりつかせながらリズがレジーナを追い詰めていく。

 にこやかに笑っているのに、めっちゃ怖い……。


「あ! ほ、ほら! だ、ダークエルフはエルフ社会じゃ、身分が低いっていうじゃない?! そ、それを解消してあげるわ! 教会の手で──」

「あーーーーーはっはっはっはっはっはっはっはっは──────……」


 グワシッ!!


「ペッ!! アンタに同情されるほどアタシらは弱くはないっつの。エルフとか、教会とかクソどーでもいーーーわよぉぉおお」


 リズは空いた手でレジーナの顔面を握りしめると、腕力に言わせてギリギリと……。


「あびゅびゅびゅ……! いだい、いだい、いだいーーー!」


 うっわ……。ぶっさいくぅ────。


 ぐにゅーと潰れた表情のレジーナをみて、思わず吹き出すグエン。

 それをギロリッと殺意のこもった目でレジーナが睨むが、リズがそれを許さない。


「なーによ、その眼つき。あぁんのさぁぁぁあのさー……なぁぁんか何かもぉぉおんく文句あるのかぁぁしらぁぁあるのかしら?!」


「ないです、ないです、ないですないですないですぅ!!」

「ないわよねー!! で──────」



 メリメリメリメリメリ……!



 アイアンクローを極めたまま、片手でレジーナを吊り上げるリズ。


「でさ~────……なんか、あんでしょうが、よぉ!! 人を囮にしておいて、何をいけしゃあしゃあと他人のせいにしてんだっつのぉぉお!」


「あだだだだだだだだだだだだだだ!」

「ん~。聞こえないわねぇ」


「ご、ごごごごごごご───」

「ご────?」


 メリメリメリ……! ぴきっ!


「ごごごごご、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい!!」

「そーよ、そーよそーよ!! そーよぉぉおお! まずは、それでしょうがぁぁぁあああ!」


 メキメキメキメキッ!


 ごーーーーめーーーーんーーーーーなーーーーーさーーーーーーーーーーーーーーい!!


人様ひとさまに迷惑かけたら、まず謝罪でしょうがぁぁぁっぁぁあああああ!!」

「はいぃぃぃいい!!」


 ま、謝ってもやることはかわらない。

 なので───。


 アイアンクローーーーーー……───。


 ───かーらーのーーーーー!!

 

「悪い子には教えてあげる!! 謝罪するときは、人様の目を見て、お天道様に謝って・・・・・・・・──地に頭をつけて・・・・・・・許しを請うものよぉ!!」


 ───おりゃぁあ!!


「いーーーーーーーやーーーーーーーーーーー!!」


 リズがレジーナの顔面を掴んだまま大ジャンプ!!

 もちろん、ただで許すわけがない!!!


 ……だから、まずはぁぁぁああああ!


 すぅぅ……。

「上を見なさーい!────まずは、お天道様に謝ってぇぇぇえええ!」

「そ、それは、天井ぉぉぉおおおおおおお!!」

 お天道様みえなーーーい!!


「……知るかぁ!」

 ───おぅらぁぁぁああああ!!


 大ジャンプと腕力を活かしての────天井キッスじゃああああ!!


「いやぁぁあああああ!!」

 ああああああああ──────!!



「───あぶしゅっ!!」



 リズがレジーナの顔面を天井の梁と、そこにいた大蜘蛛の腹に叩きつける。

 ブチュッ! と蜘蛛がつぶれて味噌が飛び出しレジーナの顔面をドロドロにすると、さらにぃぃいい!!


「いっだぁぁああ……あああああ、なんか甘いぃぃぃいいい!!」

「──最後は地に頭をつけて謝罪するのが人の道でもんでしょうがぁぁあああああ!!」 


 天井スタンプからの~~~~~……!!


「ひぇ?! うそうそうそ!! 高い高い高い!!」

「たったの3メートルほどよぉぉぉおおお!!」


 たーーーかーーーいぃぃぃぃぃい!!!


「もう、いやぁぁぁああああああ───」

 ああああああああああああああッッ!!


「こーーーーーれーーーーーーがぁっぁあああ! リアル、ダイナミック、ジャンピング土下座よぉぉぉおおおおおお!」


「いいいいいいいいいいいやあぁっぁぁあああああああああああ──あべしっ!」


 バゴォォオオオオオオン……!!


 ギルドの床を貫通する威力の土下座。

 聖女と唄われた教会の権力者、枢機卿がダークエルフに頭を下げて謝るのだ。

 これは並大抵のことではない。


 っていうか、力技だけど……。


 奇しくも、マナックの隣に突き刺さったレジーナ。

 足をピクピクさせているので、かろうじて生きているだろう。


 そして、リズはといえば、その所業を悪びれることなく、

 実にすっきりとした顔で笑う。





「あーーーーーーーーーーーーーすっきり」





 ニッコリ。

 その屈託ない笑い顔をみて、この子にだけは絶対逆らわないでおこうと心に決めるグエンであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る