第49話「ダークエルフは、ご機嫌です!(前編)」

「グエンってば、強いわね──」

「な、ば…………馬鹿なッ?! グエンにマナックがやられただとぉぉぉお!!」


 聞いてない、聞いてないぞ、そんな話ぃぃいい!! と、ギルドマスターが絶叫しているがリズには知ったことではない。


「ちゃんと、報告書はティナが作っていたはずよ。ろくに読みもしないで破棄するからこうなるのよ──」


 さ。それじゃ──。


「いい加減、神妙にお縄につきなさい」

「く…………」


 リズが踏み込み、一気に肉薄。

 ギルドマスターの首に短刀を押し付ける。


「ひ! わ、わかった──こ、ここここ、降参する……!」


 ろくに戦闘経験のないギルドマスターはすぐに根を上げ降伏しようとする。

 しかし、それを許さない連中もいた。


「おい! ざっけんなよ!」

「テメェ!! お前の口車になったおかげ俺たちは『監察』に睨まれちまったじゃねーか!」

「ふざけんな!! まとめてぶっ殺してやれッ!!」


 うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


「ひぃ! よ、よせ────!」

「あらまー。アンタってば、ほーんと人望ないわよねー」


 殺気だった冒険者が数十名。

 最初ほどの圧力はないが、それでもまだ多勢に無勢。


 だが、リズは薄く笑うのみ。


「────ふふ。仕上げにあと十秒」


 ギルドマスターの首にトンッ! と当身をぶつけて昏倒させると、その頭を踏み台にして跳躍。

 冒険者たちの突撃を軽やかに躱すと、フワリと舞い上がり空中でムーンサルト────……そのまま、懐から暗器を取り出し両の手の五指に挟んで抜き出した。


「感謝なさい。今日のアタシは少しだけ慈悲があるの」


 シャァァアア!!


 そのまま狙いたがわず投擲。4本、4本! の棒手裏剣が冒険者たちの首筋に殺到する。


「ぐぁ!」

「あがぁぁあ!」


 さらに、手足の裾からも暗器を抜き出し、投擲投擲ッッ!!


 スパン、スパパパパッッ!


「うがっぁあああ!」

「あぎゃああああ!」


 鋼線で足を狩られた連中と違い、後方にいた連中主体のためか、リズの手裏剣を防ぐこともできずに無防備に打倒されていく。


「ひ、ひぃいい!!」

「ば、化け物ぉぉおお!」


 その様子に残った冒険者があっという間に戦意喪失。

 すでにその頃には両の手で数えられるほどに──……!


「失礼ねー! こぉんな可愛い子に化け物だなんッて!!」


 スタンッ! と着地するや否や、クナイを引き抜き逆手に構えると低い位置を這うように駆ける。

 その速度たるや、グエンには劣るとはいえ常人に捉えられるものではない!


「ど、どこだ!」

「し、ししし、下だ!」


「畜生ッ、みえねぇえ!!」


 ザバババァァァア!! と、床に広がる血が舞い上がりリズの軌跡を浮かび上がらせる。


「そ、そこだ! 血の跡を注視しろ」

「このぉぉおお!!」


 残った魔術師と弓手が素早く、それぞれの得物を放つッ!


 しかし、その位置にリズはいない。

 なぜなら、彼女の速度は軌跡すら取り残し疾駆するッ!


「残念──……それは残像よ」


 そう言い切った時にはすでに彼女は冒険者の背後をとっていた。

 そして、手にしたクナイにはすでに鮮血が────……。


「あびゅ……」

「ぐぉ……!」


 ドサドサドサ……!


 ピッ……と、血振りした瞬間、冒険者がすべて地に伏せる。

 これで全員……。


 残すところはグエンに包囲に向かった連中だけど────……。



「ふふ。さすが、グエン────アンバスも、伸した・・・ようね」



 かるく汗をぬぐったリズ。

 その足元には、呻く冒険者が死屍累々……。




 この女…………さすがSSSクラス。




 これほどの数の冒険者を歯牙にもかけず制圧すると、あとはもう次なる獲物を見つけてペロリと唇を舐める。


 そう、リズの次なる獲物は────……。


「……借り・・を返させてもらうわよ────レジーナぁ」 

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