第48話「ダークエルフは、ギルドを切る!(後編)」

「打てぇぇぇえええ!!」


 キリキリキリ……!

 すでに矢をつがえていた弓手アーチャー盗賊シーフ野伏りレンジャーどもが弓矢を指向する。


 空を舞うリズは実に無防備で、一瞬のあとに弓矢に貫かれそうに見えた。

 だが、彼女は慌てない。


 少したりとも慌てない。


「……空中・・はアタシの領域ホームグランドだけど?」


 シュパッパパパパパパ!!


 一斉に放たれる矢!!

 矢、矢、矢、矢、矢ッッ!!


「仕留め……────てねぇ?!」


 ギルドマスターが一瞬喜色を浮かべたが、すぐに驚愕に目を見開くッ!


 なんと、リズが空中を縦横無尽に駆けているではないか!


「言ったでしょ。空中は慣れてるのッ」


 トンッ、トン、トン!


 舞い上がったテーブルの破片を足場に、体重を感じさせない動きでリズが三次元の動きで空を舞う!

 そして、一飛びごとに一投し、構えていた短刀を惜しげもなく投擲し弓手を狙い撃つ。


「うがぁ!!」

「ぎゃあ!!」


 たちどころに撃沈する弓手が二人。

 だが、まだまだ!!


「武器を捨てたぞ! 今だ、チャンスだ! 打て、打てぇぇえ!」


 ギルドマスターの声に叱咤され、第二陣がすぐさま躍り出る。

 弓手たちは二本目をつがえ、奥に控えていた魔術師たちが詠唱を終えてリズを狙う。


 さすがにこれは捌ききれないだろう!!


「戦いは数だ!! 死ねッ! クソがき!!」


 打てぇぇぇえ!


 ギルドマスターは手を振り下ろし一斉射撃を指示する。

 その瞬間迸る魔法攻撃と連射される矢、矢、矢!!


「全方位、飽和攻撃────やるぅ!」


 リズの手は二本。

 足を入れても4本!


 対して魔法と矢は無数!!


 絶対に捌ききれない──────……のか?


「バーカ。こういう故事があるのよ────」


 うっすらと笑い、

 空中にあるテーブルの欠片を蹴り、跳躍したリズ。その着地先は──なんと天井!!


「あそこだ、打てぇ!」

 だが、数に勝るギルドマスターたちはすぐにリズの後を追い魔法と矢をビュンビュン! と放つ──。 


「打て打て打て打て!! 休ませるなぁぁあ!」


 あはっ。

「有名な故事。知ってるかしら────……?」



 リズの後を追うように次々に着弾する魔法と矢の連弾!!


 すぅ……、

「────『当たらなければどうということはないッッ!』ってねぇぇええ!」

「馬鹿な!!」


 すたたたたたたた──……!


 天井の梁、

 照明、

 天窓、

 巣くっている巨大な蜘蛛!


 それらを足場にトントントン! とトリッキーな動きで着弾を次々に躱していく!


 おまけにすさまじい速度で今度は壁に────!

「なんだあの女ぁぁ」

「うっそだろッ! 天井を……壁を……。空を走ってやがるッ!」

「バケモンだぁっぁあああ!」

 まるで重力を感じさせない彼女の動きに冒険者たちが翻弄される。


「打て打て打て打て、何をしているぅぅう!!」


 そういって射撃指示をするばかりのギルドマスター。ここに至ってもはやリズの動きを捉えられる者はいない。

 無駄に命中する魔法が天井を穿ち、壁を焦がし、床を爆ぜさせると、ついに仲間の冒険者にも着弾する!!


「あはは♪ 鬼さん、こーちら」


 リズの動きはそれらを誘発するように上へ下へとまるで暴風のごとし!!


 どかん、どかん!!

「うぎゃああ!」「どこを狙って──ぎゃああ!!」「あっちぃいい!!」


 次々に味方を巻き込む魔法と矢玉!

 それに慌てて打てばさらに被害を大きくしていくばかり。


「ばっかねー。屋内で固まってちゃ、数の優位を生かせないわよ」

「な、なんだとぉ!!」


 激昂するギルドマスターだが、すでに仲間同士の誤射で半数の冒険者が戦闘不能。


「こ、このぉ! 使えん連中だ!! ま、マナック何をしている! はやーーーく!」


 頼みのSSランクの『光に戦士』はいまだグエンと激戦中!

 見る見るうちに仲間内で数を減らしていく冒険者たち。


「何もしてないわよ────アンタたちが馬鹿なだけ」


 スタンッ!!


 魔法の爆炎を抜けるようにして、ひとしきり戦場を駆け抜けたリズはグエンの背後に着地する。

 そこが彼女にとってのセーフゾーンで心安らぐ場所。


「このぉぉおお! グエンごとぶちかませぇぇぇえ!!」


 味方の魔法の着弾で数を減らした冒険者たち。

 だが、さすがに数が多すぎる。


「うおおぉおおお!」

「舐めやがってぇぇぇえ」


 槍に剣! そして戦斧を構えた冒険者がしゃにむに突進する!!


「「「死ぃぃぃいいいねぇぇぇえええええ!」」」


「はい、終わり……」


 クンッ! と、リズがからの手を引いて見せる。

 そこには無手で、武器も何もないはずだが──────あれ? キラキラとしたものがうっすらと見える。


 それはまるで糸のようで……いや、糸────なのだろうか?

 その糸がピンと張られて、彼女が最初に投擲した二刀につながっている。


「な?!」


 そして、驚愕するギルドマスターの目の前で、その惨劇は起きた。



「「「うぎゃああああああああああ!!」」」


 倒れた弓手から延びる短刀から繋がる鋼線がリズの手に。

 それが彼女に殺到せんとしていた冒険者の足を狩るッッ!



 スパパパパパッァアアアアアン!



 舞い上がる血しぶきと、冒険者の悲鳴。

 そして、さらに手首にスナップを活かして引けば、鋼線から手繰り寄せられた短刀がリズの手にスチャっと舞い戻る。


「舐めてるのはどっちかしら?」


 ひゅんッ!! と短刀を振ると、そこに伸びる鋼線がしなり、ついた血潮を弾く。

 あとは、戦闘開始前と同じく二手に構えた短刀を身体の前でクロスするリズが一人……。


「わ、ワイヤートラップ?!」

「ご名答。オリハルコン製の特殊鋼線ワイヤーよ。足なんかちょん切れちゃうんだから」


 ぎゃーぎゃーと悲鳴を上げて転げまわる冒険者たち。


「や、闇雲に逃げていたわけじゃなかっただと……!」


 リズが逃げながらも、部屋中にワイヤーを張り巡らし、かつ、最初に投擲していた武器が布石だったなんて──……!


「こ、これがSSSランク……!」


 床でバタバタと暴れる冒険者や、致命的な一撃を貰ってうずくまる連中を含めると、あっという間に3分の2の戦力を失ったギルドマスター。

 顔面を蒼白にしつつも今さら引き返すこともできない。


「もう、決着はついたんじゃない? 降参するならよし、しないもよし」


 チャキリと短刀を胸の前でクロス。

 「いつでもかかってこい」の姿勢だ。


「ま、まだだ! まだ終わらんよ! まだ、マナックたち『光の戦士』たちがいる! 怯むなっ!」


 そういって叱咤激励した直後のこと。





 パァァアン!! と、大音響。


 そして、

「おげらぁっぁああああああ?!」

「あべしっ!」


 ガンゴンガンゴォォォオン!! と、派手にぶっ飛んでいくマナック!

「「「ひでぶぅ!!」」」 と叫んで退場するグエンを囲んでいた冒険者たち。



 その一瞬のうちに、ギルドマスターたちが期待していた『光の戦士』はほぼ無力化されてしまった。



「ひゅ~♪ やるぅ!」

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