第76話「これが、ダンジョン内部?」
そうして、トボトボと歩くシェイラ。
「うう……。二人とも酷いー」
テクテク……。
と、見たこともないダンジョンを一人歩くのだ。
心細いったらありゃしない。
「さ、寒いぃ……」
ダンジョンは年中気温が変わらない。
ゆえに、ここは外温よりも少し寒いダンジョンだったらしく、外の気温に合わせていたシェイラは寒さを感じてローブの前をゆっくり閉じた。
「ほ、ほんとにグエン達、後ろにいるんだよね?」
囮役をさせられているわけだけど、一応背後の目立たない位置に二人は隠れているらしい……。
「うう……。いやだなぁ」
幸いにも、大通路にはトラップの類が設置されることはないため、その心配はないが、それでも恐怖は十分にある。
「ん?」
ふと、立ち止まって周囲を窺うシェイラ。
周りはむき出しの岩壁が連続しており、誰がともしたかもわからない照明がユラユラと揺れている。
「き、気のせい……だよね?」
天井は薄暗く霞むほど高く、通路の幅も広い。
そして、幅広の通路のところどころに側道があるらしく大人が潜れそうなほどの小さな穴がいくつも空いている。
そこから視線を感じる気がするのだ。
「うぅ……グエン。グエンんん」
グスグスと涙組みながらシェイラはおっかなびっくり歩いていく。
通路の奥も怖いし、側道の穴はもっと怖い。天井からだって何が出るか──……。
今にも、どこからともなく唸り声が聞こえてきそうで、やたらとビシバシと視線は刺さるのだ。
「うぅー……やだよー。帰りたいよー」
ダンジョン侵入時までの威勢はどうしたのか、まるで牛のごとく足の遅くなるシェイラ。
のーろのろ。
だが、そのうちに、
───グルルルルルル……。
「え?」
ぶひひひひひひ……。
「うぅ。うぅー。やだなー。な、何か聞こえる気がする──」
と、ブルブル震えるシェイラの前に、
ぬぅー……と、大きな人影が!
「はひっ?!」
『ブヒヒヒ。オ嬢チャン、ドウシタンダイ、コンナ所に一人デ──』
『子供が一人で出歩イチャダメッテお母サンニ教ワラナカッタノカイ? ブヒヒヒ』
のっそり……と、豚面の巨体が側道から顔を出してきたのは、武装したオーク。
そいつらが、ニヤニヤとシェイラを囲む。
『ブヒ。悪イ子は拉致ッチャオウゼー。ブヒヒヒ』
『ナーンニモ怖クナイヨー』
『『『ブヒヒヒヒ!!』』』
ぞろぞろとまぁ、たくさん。
ひーふーみー、と十体以上のオークどもがシェイラを捕まえようと通路から出てきた。
「ひゃぁぁあ!」
なるほど、リズの言う通りだ。
中央のメイン通路にだけ気を配っていると、側道から来た連中に包囲される。
かといって、側道に入れば今度は道を見失ってしまうかもしれない──。
いや、今はそれより!
に、逃げ───……。
「ひぃ!! ぐ、ぐ、グエンんん!!」
『『『ブッヒッヒ! 待ァテー』』』
駆け出そうとしたシェイラ。
恐怖に駆られてグエンを呼ぶも、タイミングがちょっと。
オークが出てきてから、その顔をみてグエンというものだから──まるでグエンがオーク……。
「誰がオーク並みの豚じゃぁぁあああ!!」
「そんなこと言ってないよー!」
シュンッ!! と、音速で接近したグエンがシェイラの首根っこを掴むと、背後にポーイと投げ捨てる。
「ちょっと、女の子に乱暴なことしないの!」
そして、シェイラを危なげなくキャッチしたリズも────。
なんだかんだで、ちょっと低めにポーイ!
「投ーげーなーいーでー!」
そのまま、シェイラを後衛に配置すると、自らも抜刀しグエンの横に立つ。
「リズ!」
「はいな! さぁ、グエンいくわよ! 多分、この後ゾロゾロでてくるからッ」
「おうよ!」
スパパンと、素早く手近なオークの首を切り飛ばすリズ。
『『ブヒャ?!』』
「さすが、リズ! 俺も負けてられねぇ!───ふんっ!!」
グエンも、敏捷9999と、音速を使い分けで、オークにヒット&アウェイを繰り返す。
───ドォン!!
しかも、叩きつけるパンチはお得意の音速で殴るソニックパンチだ!
バラバラと降り注ぐオーク肉。
ところで…………。
「なぁ、リズ。今気づいたんだがよー」
「あん? なによッ!」
スパパ、スパパパ! と目にもとまらぬ速度で短刀をふるいオークを屠っていくリズ。
負けじとグエンも、オークに拳を叩きつけ爆散させていくのだが──……。
「──あー。ここじゃ、光速の攻撃はつかえねぇかも……」
「はぁッ?」
ポカンとしたリズの顔が直視できない。
「いや、だって、ほら──────っと、ふんっ!!」
───ボォォン! と、叩きつけた拳で、巨大なオークナイトを吹っ飛ばす。
なんとか第一波のモンスターは凌いだのだが、
「ちょ、グエン。どういうこと!?」
その隙にリズが血脂を拭いながら信じられないといわんばかりにグエンを見る。
「ど、ど、どどど、ういうことよ?!」
「い、いやー。どういうことっていうか──……ぶっちゃけ、こんな閉塞空間で使ったら、壁に埋まっちまうっつーの!」
そりゃそうだろう。
いくら対物理防御無限とはいえ、敵の攻撃を弾けるのであって、なんでも貫通するわけではない。
多少はぶち抜けたとしてダンジョンの壁だ。
異空間につながるとされるダンジョンの壁の先に何かがあるわけでもない。
つまり──……。
「まさか、アンタ………………!?」
おう。その通り──。
だ、
だだだ、
「……ダンジョンだと、光速スキルがつかえねぇ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます