第63話「さてと、やるしかねぇ!!」


「「「なんじゃこりゃぁぁぁああああ!」」」


 グエン、リズ、シェイラの絶叫が響くなか──。



 ズゥゥウウウン……!



 巨大なドラゴンとリザードマンが倒れ、さらにオーガも膝をついてガクリと首を垂れる。

 どいつもこいつも大穴が開いて、風通しがよくなっていやがる……。


「ちょ?! うぉ? おぇぇええ?」

 グエンは槍を構えたまま同じ位置に着地。


 信じられないが、

「───い、一周してきた……」

「はぁ? い、一周??」


 リズが、「グエン砲発射ぁぁあ!」の姿勢をソーっと戻しながら顔に「?」マークを浮かべながら聞く。


「いや、その……大陸っつーか──世界を」

「せ、世界? ってアンタ……」


 何言ってんのコイツ、という可哀想な人を見る目を向けられるグエン。


 だけど、


「い、いやー……。わ、我ながら速いわー……。なんか、こう───……一周どころか、7周くらい軽く回れそうだったぜ」

「あ、あっそー……?」


 すっごくかわいそうなものを見る目で見られてるけどね!

 だけど、光ってそれくらい早いの!!


 つーか、グエン砲を発射した後、後ろから着地したやん。

 それだけで一周したってことよ?


 今度マジで1秒で7周半したろかい!!


「はいはい。言ってなさーい。それより、第二ラウンドよ」

「え? 第二……」



「「「るぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」」」



 ズズン、ズズン!!


 大群の蠢く振動。


「うっそだろ……! まだあんなに──?!」

「あったり前でしょー。一発で倒しきれるなんてアタシも思ってないわよ。……で、いける?」


 そう言ってから、リズが少し心配そうな目を向ける。

 彼女は「いける?」と聞くのは、グエン砲が二回目もできるのかということ。


 もちろん、


「おぅ、問題ない、ぜ──」

 ……あ、あれ?


 カクッ。


「グエン?!」

「グエンんん?! あぅ!」


 問題ないといった矢先、グエンの足から力が抜ける。

 そのまま倒れそうになるのをシェイラが支えた。


「あ、あれ? な、なんか。ち、力が入らねぇ……」

「…………やっぱりね」


 そういって、肩をすくめたリズが腰のポーション入れから、魔力回復用のマナポーションを取り出す。


「ほら。気休めにしかならないだろうけど、とりあえず飲んどいて」

「え? ま、マナポーション?」


 なんで、こんなものを……。

 俺はただ、光速で────。


「ニャロウ・カンソー戦で一回、砂漠で一回、対ギルド戦で連発。……そりゃ、魔力だか体力だか知らないけど、枯渇するわよ」


 そういって、シェイラにポーション入れごと渡すと、

「とりあえず私が時間を稼ぐわ。最悪の場合、撤退して──」


「撤退って───お、おい。リズ! 時間を稼ぐってどういう、」

 グエンが何かを言おうとする前にリズはすでに腰を低く落としていた。

 その手には神速の速さで抜身の短刀が。


「アンタは十分やったわよ。敵の先鋒と主力を撃破。……あとは残りカスだから──」

「残りたって……まだあんなに!」



「「「「「るぐぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」



 ズンズンズンズンズンズン!!



 地響きを立てながら進軍しつつある魔王軍残存兵力。

 その圧力は先ほどと変わらぬように見える。


「だーいじょうぶよ。あれは後方の非戦闘部隊も混じった雑魚の集団。敵将がどんな奴か知らないけど、引き際を知らない、小者ね」

「小者って……おい、リズ!!」


 ニコリとキレイな笑みを見せたリズが今度こそ疾駆する。

 シェイラを回収するためでも、グエンを救うためでもなく。


 ───自らの身体を、一個の戦闘単位に置き換えて!!


「しゃあああああああああああ!!」


 スタタタタタタッッ!!


 グエンほどの速度ではないものの、常人を遥かに上回る速度で、まるで黒い暴風のようになって敵に集団に躍り込んだ。


「たりゃぁぁああああああ!!!」


 ズン!!

 と、大群が一瞬だけ停止したようにも見えるほとの攻撃!!


 あれをリズが?!


「ぐ、グエンんん……、重いいぃぃ」

「あ、すまん」


 リズの姿を追ううちに、シェイラに体重をかけっぱなしだったことに思い至り素直に謝るグエン。

 そして差し出されたポーションを受け取り、一気に飲み干した。


 ……だけど、

「クソ! 本当に気休めだな!」


 魔力や体力が枯渇した際にはポーションが一番ではあるが、外傷と違って内部から失われた体力などはそう簡単に回復できない。


 もちろん魔力も、だ。


 そのうえ、グエンのステータスは敏捷を除いて、ほとんど初期ステータス。

 そのへんのEランク冒険者と分からないほどだ。


 それらが、先からの連戦連闘で枯渇しないわけがなかった。


「俺はバカか!!」

 なんでこんなことにも思い付かなかったんだ!


 たまたま、ニャロウ・カンソー戦よりポーションを立て続けに飲んでいたため、回復と消費量が釣り合っていたのだろう。

 だが、ここにきて大技を一発ブチかましたがゆえに、ついに枯渇した──……。


 あとどれくらいかかる?

 ……俺に足りないものはなんだ?!



 ステータスおーぷん!



 ぶぅぅん…………。



名 前:グエン・タック

職 業:斥候

称 号:光

(条件:敏捷9999を突破し、さらに速度を求める)


恩 恵:光速を得る。光速は光の速度、まさに光そのもの

(光)アナタは光の速度を越えました。

 ※敏捷ステータス×30800000

 ※光速時の対物理防御無限

 ※光速時は、攻撃力=1/2×筋力×敏捷の2乗


体 力:  32

筋 力:  14

防御力:  20

魔 力:  29

敏 捷:9999

抵抗力:  12


残ステータスポイント「+1453」(UP!)



「く……」


 たしかにこれじゃあな……。

 敏捷はともかく、本当に素人冒険者並だ。


「───そういうわけか……」

「ぐ、グエン、無理しないで──」


 そういって優しく背中をさするシェイラ。


「うるっせぇ! テメェを許したわけじゃねーぞ、馴れ馴れしく話かけんなッ」

「──ッ!」


 その瞬間、シェイラが泣きそうな顔をしてサッと面を伏せた。


(ち……。いらねぇことを言っちまったな)


 苛立ちまぎれに罵ったのは事実だ。

 だけど、許していないのも本当だった。


「いいから、よこせッ」


 だが、謝るわけでもなく、グエンはシェイラからポーション入れをひったくると、グビグビと飲み干していく。

 自分の手持ちと、ギルドから支給された分でまだまだ余裕はある。


 ならば気休めといえど飲んでおけばすぐに戦いに参戦できる。

 いくら雑魚の集団と言えど、あの数はさすがに────……。



 ボォォオン!!



 戦闘集団に激突したリズ。

 初撃で爆発符術付きの手裏剣をぶっぱなしたらしい。


 確かに、雑魚集団ならば彼女一人である程度の時間は稼げるだろう。

 そう、ある程度は──……。


「くそ!! 間に合うのか?!」


 未だに第二撃目の「光速突撃ライトニングチャージ」を使える状態に戻らない。

 ステータスが雑魚過ぎて、第二撃目を放つにはどれほどの時間を要するのか────……!


 ッ!!


「ステータスが、雑魚……」


 ……………………………………あッ!


 しまった!!


 俺としたことが────!!


「おい、シェイラ!」 

「う? あ?! は、はははい!」


 ビクンと震えたシェイラが直立不動の姿勢で返答。

 それをさらりと無視して、グエンは言う。


「ちょっとばかし、周辺警戒を頼む。リズがやばそうになったら教えてくれ────それと、」


 それと……?


 ゾワリと魔王軍が蠢く。

 リズと激突し、街道上で停滞しているはずの魔王軍が──……。



「──それと、魔王軍の動きに注目、要すればお前も迎撃しろッ!」





「え?」

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