第64話「さてと、ステータスはこういう時のためにッ!」
「え?」
シェイラのポカンとした表情。
それをサラリと無視したグエンは、さっさと準備しろと彼女に怒鳴る。
(ったく、自分でちっとは考えろ! 賢者だろうが!!)
実際、わざわざ一から十まで説明している暇もない。
そうさ、
……リズは言った。
魔王軍の指揮官は小者だと。
(ならば?)
……ならば、いつまでも同じ戦法に固執するはずがない。
小者は小者なりに欲張るものさ──……。
「き、来た!! 来たよ、グエンっ! 分散してるッッ。道だけじゃなくって草原にも……湿地にも!!」
だろうな!!
その瞬間、前方で戦闘中のリズの焦りが戦場の空気に乗って伝わってくる気がした。
たった一人で足止めなど無理なのだ。
魔王軍が街道上を悠長に進むのはグエン達を侮っていたから。
我先にと囮に食らいついたものの、…………今は違うッ!
今は、ただただ戦果を求めて、
リズと──……グエン達をも同時攻撃する、大規模な敵の集団だ!!
「「「ぐぅぉぉぉぉおおおおおおお!!」」」
びりびりと空気が震える魔物の咆哮。
──ッ!
「シェイラ! す、少しでいいッ。時間を稼げッッ!」
「……ええええ? む、むむむむむ──」
ズンズンズンズンズンズン!!
「「「「ぐぅぉっぉおおおおおおおおおおおお!!」」」」
さらに巨大になりつつある咆哮にシェイラがまたしてもペタンと座り込む。
──むむ、
「────無理ぃぃぃいいい!!」
前線で戦うリズの脇をすり抜け、魔物の群れがグエン達に殺到する。
その勢いと数を見て、シェイラはすでに戦意喪失。
ついにはシクシクと泣き出す始末──。
(使えねぇ奴ッッ!!)
前衛タンクがいなければ魔法使いはただのカモだ。
致し方ないだろうが────……。
「無理じゃねぇぇえ!!」
すぅぅ……──。
「──いい加減根性見せろやッッ!!」
ぬん!!
と、グエンは気合を入れて仁王立ち。
ダンッ! と大きく一歩踏み込み、
──そして、ステータス画面を起動ッッ!!
「ステータスオープン!!」
ぶぅぅぅ……ん。
名 前:グエン・タック
職 業:斥候
称 号:光
(条件:敏捷9999を突破し、さらに速度を求める)
恩 恵:光速を得る。光速は光の速度、まさに光そのもの
(光)アナタは光の速度を越えました。
※敏捷ステータス×30800000
※光速時の対物理防御無限
※光速時は、攻撃力=1/2×筋力×敏捷の2乗
体 力: 32
筋 力: 14
防御力: 20
魔 力: 29
敏 捷:9999
抵抗力: 12
残ステータスポイント「+1453」(UP!)
スキル:スロット1「韋駄天」、
スロット2「飛脚」
スロット3「健脚」
スロット4「ド根性」
スロット5「ポーターの心得」
スロット6「シェルパの鏡」
スロット7「
スロット8「
スロット9「
習得スキル:
「
「
そうだ!!
忘れていたッッ!!
敏捷9999と称号『光』に奢りすぎて、忘れていた──……!
俺は……。
「──俺は馬鹿か!!」
ステータスポイントが「1453」もあるじゃないか!!
今使わないで──……!
「いつ使うッッ!!」
グエンはステータス画面の「+」に手を伸ばす。
(そうだ、いまだ!! 今こそ──……)
ドクンッ……!!
その瞬間──。
どくん……。
どくん……。
どくん……。
「グエン──」
「え……」
ふと、耳が……。
脳が──……。
心が──……。
声を聴いた。
「おい、グエン!!」
「ま、」
マナック────???
──いつも通りステータスは『敏捷』に割り振ってんのか?
結構ため込んでんの知ってるんだぞ──
「ひゃははははははははは!!」
な?
「なんでお前ら────とっくに、」
「よぉ。グエン!!」
アンバス?!
──もしかして、
コイツステータスポイント貯め込んでやがるのか?
「ぎゃははははははははは!!」
ぐ……。
「何で、いま……」
うぷっ……。
喉元にせりあがってくる何か。
もう、克服したと思っていたのに──……マナックやアンバスの笑い声が蘇ってくる。
ステータスポイントを割り振ることに……。
「
駄目だ──……喉から、
お、
「──おえぇぇえ……!」
「ぐ……グエン?」
シェイラの心配そうな声。
シェイラの──……。
シェイラの────……。
「グエン!!」
シェイ、ラ…………?
──ぷぷー!
グエンってば、プルプル震えちゃって、かーわいー!
「きゃははははははははははは!!」
「ぐえ、ン?」
シェイラ…………………………。
「ぐ、グエン……? ぐ、グエ────」
「シェイラっ!!」
シェイラの心配そうにのぞき込む顔が……。
マナック、
アンバス、
レジーナ、
……シェイラ。
「「「「はははははははははははは!」」」」
「ぐ、グエン……グエン!!」
ぐ──
「シェ、」
──シェイラぁぁああああ!!
「がぁぁぁあああああああああああ!!!」
「ぐ、グエン!? グエン!? 止めてッ! グエン!!」
シェイラ、
シェイラ、
シェイラ!!
「……なんでお前がここにいるんだよ!!」
とっくに捕まったはずだろぉぉおお!!
「グエン~……」
──おや?
おやおや~、これはこれは~。うぷぷぷっ!
「きゃーーーーはっはっはっはっは!」
シェイラぁぁああああああああ!!
──ああああああああああああああ!!!
「シェイラぁぁぁぁあああああああああああ!!」
「グ、え──────ぇぇぇぇ……」
みし、みし、ミシシ……。
「てめぇえええええええ!!!」
ぶっ殺してやるッッ!!
ゴリリリリリリリ……!!
少女の首の感触がグエンの腕にダイレクトに伝わってくる。
気道をふさぎ、酸素を求める肺が何度も脈打ちグエンの力を押しのけようとする。
「……ぁ、か」
頸動脈を流れる血潮が熱く温かく、グエンの指に伝わってくる。
血管をふさぎ、脳が求める血流が何度も脈打ちグエンの力を押しのけようとする。
グッキ……。ごり。
「………………………ぅ、ぁ」
シェイラの命が────────────……。
「ゴメン……グエン、ごめん」
ゴキン………………ッ。
※ ※ ※
シェイラの首の感触が────……。
「あ、え?」
なんで、空が──……?
グルンと天地が回る感覚。
シェイラの顔を見あげるようにしてグエンが下になると。
「ゴメンね、グエン」
え?
たしかに、地面に押さえつけられていたシェイラではあったが、肩肘をついて身体を起こす。
そして、軽く力を押すだけでグエンと位置を入れ替える。
まるで、子供と大人のように力の差が──……。
「少しだけ、痛いよ? でも、あとでいくらでも謝るから──……今は、」
すぅ……。
「──今は、リズを助けるんでしょ?」
ぱち……パリリ──。
ッッッパシャアアアアン!
「──かっ」
グエンの脳天に炸裂した
その衝撃にグエンの身体が仰け反り、シェイラを手放す。
「……グエン。悪いけど、僕も非力ってわけじゃないんだ」
な?!
「……今のグエンじゃ──そんなステータスじゃ僕は殺せないよ? だから、」
グエンの耳元に口を近づけたシェイラ。
そして、
ふぅ……と、彼女の吐息を感じたとき。
「────僕を殺したいなら、もっと
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