第65話「さてと、腹をくくれッ!」

 僕を殺すために……ステータスを──。

「──殺せるなら、ね」


 ボソリとつぶやくシェイラの言葉。

 フゥ……と、耳元をくすぐる熱い吐息にゾクリと首筋が泡立つも、


 こ……。

「──このぉッッッ!!」


 ガッ! と、シェイラの胸倉をつかんで引き寄せる。

 ブチブチと彼女のローブの前がはじけ飛ぶ。


 痩せた小さな少女──……。

 一見ひ弱で、保護欲をくすぐりそうな────SSランクの大魔術師ソーサラー、シェイラ!!


 このガキ──殺せだぁ……。


 ──だったら、

「やってやるよぉぉぉおおおおおおお!!」


 首を洗って待っていろッッ!


「きゃぁッ!」

 ドンッ!! と、シェイラを突き飛ばしたグエン。


 そして、首を振り──脳裏に流れるマナック達の声を殺意で塗り消していく。


 そんなに死にたいなら、

「……ぶっ殺してやるッッ!」


 グエンの中に染み付いたパシリ根性。

 そして、仲間だと思っていた奴らに散々馬鹿にされたせいで心に巣食った精神的外傷トラウマ



 そう。

 ステータスを敏捷以外に、勝手に割り振ってはいけないという思い込み……。



 それを、

 それを────。


「シェイラぁ!」


 ……少女シェイラへの殺意で塗りつぶす。


「──すぐに……、すぐにぶっ殺してやるぁッッ!!」


 そう宣言すると、

 ステータス画面に取り掛かるグエン。


 

 ぶぅぅ……ん。

 中空に浮かぶステータス画面をにらみつけるグエン。



(いくらSSランクでも、たかだか大魔術師……)

 所詮は後衛!!


 ならば──……。

「──1453もありゃ、十分だよッ」



 おらぁっぁあああ!


 殺意で力を!

 殺意を力に!

 殺意が力だ!


 シェイラの首をへし折るにはぁっぁあああああ!!



 『筋 力:14』


 駄目だ!!

 こんなカスみたいなステータスじゃダメだ!!


 ならば、筋力。

 これに全部割り振るか?


 1500近い筋力なら、シェイラの首くらい簡単にへし折れそうだ。


 だけど、腐っても大魔術師でSSランク。

 魔法でガードされれば、魔力のないグエンの筋力など簡単に防がれてしまう。


「ならば……?」

 ならば、魔力と筋力に均等に振るか……?


(いや、それこそシェイラの思う壺──)

 どっちも中途半端なら、ガキとはいえSSランクだ。余計に通用するはずがない。


 ………………ならばスキルだ。

 グエンのスキルを活かして、このガキを砂漠の彼方まで吹っ飛ばしてやればいい!!


 ライトニングパンチ光速で殴ってでも、

 ソニックパンチ音速で殴ってでも、


 十分におつりがくる!!


 ならば、今すぐやってやる!!


 そう。

 さっさと、ステータスを上昇させて、その恩恵のもとに魔力と体力を回復させればいい!!


 そして、思う存分にスキル音速衝撃波の威力を存分に叩きつけてやる!!


「そうさッ!」

 魔王軍にように、光速突撃ライトニングチャージでぶっ殺すなど生易しいわッッッ!!


 だから、


「決めたぞ──……」

 体力、魔力不足で、スキルの次弾が撃てないならッ!


 撃てるようにステータスを割り振るまでだ!



「──スキルを連発できるように、体力と魔力に割り振ってやるっ!!」



 ステータス──────!!


 上昇だぁあああ!!



 体力「+」

 魔力「+」


「惜しまず叩き込む!!」

 

 すぐに稼いでやるよッッ!!



 ───がっががががががががががががっがが!!



 体力32、46、79⇒233

 魔力29、48、81⇒236



「残り全部ッッ」



 グエンがステータスを上昇させている間にも、リズは善戦しているらしい。

 シャイラの観測の範囲からも街道上で暴風のように彼女が暴れているのが見えた。


 オークにゴブリンの腕や足が、街道上で切り裂かれて舞飛んでいる。

「ぎゃああ!」「ぐもぉおお!!」と、ものすごい悲鳴だ。


 どうやら、あえて殺さず、のたうち回らせ後続の障害としているらしい。

 激痛でのたうち回る味方は足元の邪魔だし、悲鳴は戦意を喪失させる。

 逆にリズは敵を妨害し、悲鳴を聞いて戦意を向上させる。


 負傷者は敵に厳しく、味方には優しい。

 ──だがそれでも、数の暴力は残酷だ!!


 徐々に押されるリズ。

 そして、彼女の阻止線を突破した魔物の群れがグエン達に殺到する。


 くそ、間に合うのか??


 シェイラをぶっ殺してから──…………あああ、何をやっているんだ俺は!!



「グエン────……少し時間を頂戴。その後ならいくらでも、殺されてあげるから」



 さっきまで泣きべそをかいていたシェイラが、グッと膝を起こす。


 そして、「グエンに頼まれたんだもん」と、つぶやきながら、警戒と周辺監視を継続していたシェイラは口を結んで敢然と立つ。

 まだ足は震えており、魔物の群れに飲み込まれる恐怖はぬぐえていない。


 ──だけど、グエンが自分の命を取りに来るまでは倒れられないッッ!


「だから、早くしてよ!! そして、僕を殺しにきてよッッ!!」



 ──今すぐッッ!!


「はぁぁぁあああ!! 僕の中に宿る魔力の渦よ──」



 パリパリリリィィ…………。


 シェイラが魔法を起動させる。

 得意の電撃魔法。


 彼女の持つ最大の攻撃魔法で、絶対的な威力を誇るそれ────多段電撃魔法マルチサンダーボルト……!


 それを敵集団に叩きつよけようと──。


「──ううん。これじゃない……これじゃ、足りないよ!」


 シェイラは、グエンがトラウマを殺意で塗りつぶした様を間近で見た。

 そして、その姿を見て──自分もトラウマを乗り越えられると確信した。


 だから、いつまでも震えてはいられない。


「そうだ! 僕の魔法を上回ったアイツ・・・の魔法を、今こそッ!」


 マルチサンダーボルトを受け止め、さらに最上位の魔法をブチかましてきたあの強大な敵。

 

   《キシャァッァアアアアア!!》


 ──ニャロウ・カンソーのそれを思い出す!!


「そう、思い出して……。あの時の恐怖──……あの時の空気、そして──」


 あの時の強大な魔法の行使と、

 そして、魔力の流れ──!


 ニャロウ・カンソーが使っていた魔法の再現を!!


「うううううううう…………!」


 ニャロウ・カンソーの恐怖とともに、奴の使った魔法のそれを思い出すシェイラ。

 人間には到底扱うことのできない強大な魔法だけど……。

 シェイラは、一つずつ、一つずつ、ニャロウカンソーの魔力をトレースしていく。


 空気、術式、色と味────……そして、魔力そのもの。



 バチ……。

 バチチチチ…………!


 そして、ついに彼女を中心に迸る電気の渦。


 つまり彼女は、ニャロウカンソーの最上級魔法をトレースすることに成功したのだ!

 自らのトラウマを克服して──。




「はぁ、はぁ、はぁ……。グエン、僕にもできたよ────」



 魔法と……。

 自分の罪と向き合う覚悟と、

 立ち向かう勇気を振り起すことが──!!



「あの時、僕が一人で逃げなければ────!」



 震えの止まったシェイラ。

 閉じていた眼をスゥ……と空ける。


「「「ぐるるぉぉぉおおおおおおお!!」」」


 涎を垂らしながら雄たけびを上げて突っ込んでくる魔物をそぅっと見上げると……。






 くらえッ。

 もう、逃げない────!!


 僕は逃げないッッッ。




「────サンダーロード特上級電撃魔法ッッ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る