第19話「光の戦士(笑)は、撤退する(前編)」

「に、ニャロウ・カンソーは?!」

「え? あー……来てねぇ! 来てねぇぞ!! やった、上手く行ったみたいだぜッ」


 グエン達を見捨てて遁走とんそうしたマナック達。

 マナックは悪臭漂う湿地の奥が気になったが、振り返っている暇も惜しい。


 まだ、かすかに戦闘音が響いているのだ。

 グエンたちはうまく囮の役目をはたしているらしい。


「うまくいったのね。よかった」


 汗を流しながらも、ニコリと妖艶にほほ笑むレジーナ。

 その顔はまさに聖女のそれだが、

 一皮剥いたら中身は、仲間を見捨ててヘラヘラと笑うヘドロ袋のようだ。


「ちょ、ちょっとまってよ……! も、もう、僕限界……!」


 チョコマカと懸命に走るのは、パーティいちのチビッ子のシェイラ。

 囮の二人を除けば、一番最後に追いついたためか必死の形相だ。


「チッ! このチビすけッ! ちんたらしてる暇はねぇぞ!」


 居丈高に声を荒げるアンバスに、

「あぅ。ご、ごめん……」


 反射的に誤ってしまうシェイラ。

 一度見捨てられかけたこともあり、

 そして、今のパーティ内で一番足を引っ張っていることも相まって、いつのまにかパーティ内の序列が一番低くなったシェイラ。


 それを肌で感じ取っているアンバス達は、シェイラに対してのあたりが厳しい。


「そうですよ。アナタに合わせて逃げている暇はありません。自分でバフをかけるとか工夫をなさい」


 ニコリとも笑わず、努力しろというレジーナに、シェイラもさすがにカチンときた。


「わ、私のことも……。さ、さっき見捨てたくせに……!」


 精一杯にらみつけるシェイラだったが、レジーナはどこ吹く風。

 それどころか、


「あらぁ? じゃあー、アナタもあそこに戻る? 今頃、グエンもリズも美味しく食べられてる頃だけど……」


 ニィ───と形の良い唇をゆがめると……。


「あの巨体ですもの、二人ぽっちじゃおやつにもならないし、もう一人くらい囮にしてもいいんじゃないかなって、思うのよね」


 ニッコリと、とほほ笑むレジーナ。彼女は顔に暗い影をまとうと、シェイラの顔をガシリと支えつつ正面からのぞき込む。

「んねッ?」

 その瞳の奥に隠された真っ黒の感情を見たシェイラが思わず悲鳴を上げる。


「ひぃ!! や、やだ!!」

「でしょう……?」


 ポイスと、シェイラを投げ捨てるレジーナ。

 尻もちをついた彼女を冷徹に見下ろすと、ニッコリ。


「なら、黙って走りなさい。…………でなきゃ、すぐに置いてくわよ」


 その冷たい瞳にゾゾゾーと背筋に凍る思いのするシェイラであった。


 そして、気づく。

(あ…………。も、もしかして───)

 そう。もしかしてだ。


 いままで、グエンがいたから・・・・・・・・こそ、自分はあの冷たい目に晒されなかったのだと……。


 そして、グエンのいなくなった今――――グエンの立ち位置にいるのは自分なのだと気づいた。


 あれほど、小バカにして、さんざんコキ使って、パシリ扱いしたグエンの立ち位置に……。


(そ、そんな……!)


 そこに、

「おいおい、あんましシェイラをいじめんなよー」

「そうそう。女同士仲良くしろって、なぁ、シェイラー」


「ひっ」


 気持ち悪い笑みを浮かべたマナックとアンバスが、いまさらながらシェイラに手を指し伸ばす。

 まるで、地獄の獄卒のような凄惨な笑みを浮かべて――……。



(あああ……、わ、私は馬鹿だ。なんて馬鹿だったんだろう)



 グエンを虐げ、

 グエンを見捨て、

 グエンを想う……。



 今更ながらグエンがパーティで果たしてきた役割を思い出す。

 グエンがいたから、自分が守られてきたんだと気づく……。


 マナックたちの目を見て気づく――。




 ………………次は自分の番なんだ、と。

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