第15話「すいません、ここ……どこですか?」
ヒュゥゥゥ………………───。
熱い風が肌を刺している。
顔に照り付ける日差しもきつく、まるでオーブンの中にでもいるかのようだ。
そんな空気を吸いながら、陽射しに照らされるグエンの意識は徐々に覚醒していった。
「ぐ…………」
それでも体を貫く気怠さは、刻一刻とグエンのやる気を削いでいく。
暑くて、喉が乾いて、肌が痛い。
だけど、
いっそ目を開けることなくこのまま泥のように眠ってしまいたいと───。
「……ェン」
だが、魅力的な睡眠へのいざないを妨害する声が耳元で響く。
それに合わせてユサユサと揺さぶられ、とてもじゃないが眠りに落ちる環境ではない。
(もう、ほっといてくれよ……)
「───グエン!!」
バシリ! と頬を張られて、ようやく目を開けるグエン。
「ふぅわッッ?!」
その瞬間一気に意識が覚醒し、眠りへの欲求が霧散する。
「ぐ、グエン! よ、よかった───……」
半身を起こしたグエンの目の前にはポロポロと涙をこぼす、褐色肌の美少女の姿………………あ、リズ?
「え、あ、り、リズ? え? あれ?」
グエンの肩に手を置き、ユサユサと揺さぶっていたリズが、そのままグエンの胸に飛び込み顔を埋めてワンワンと泣く。
「へ?…………え? あれ? な、なにが起こった? いや、起こってるの??」
「グエンンン……よかった~」
エグ、エグッ! としゃくりあげる彼女の姿は年相応の少女のようにも見えたが、こうみえて彼女はダークエルフ。
グエンよりも年上だ。
そんな女性に抱き着かれて泣かれるのも外聞が悪いので、申し訳なく思いつつも彼女を引き剝がすと、周囲を見渡すグエン。
そして、呆気に取られて口を開いた───。
そりゃもう、間抜けにもパッカー……と。
だって……………………。
「ど、どこ? ここ……?!」
グエンの周囲に広がる光景は一面の砂漠。
砂漠、砂漠、砂漠。
砂漠砂漠、砂漠に時々砂丘の光景であった。
※ ※
「な、なにがあったんだ? なぁ、おいリズ!」
グエンは痛みに軋む体を起こしながら、あたりを見回す。
そこに広がる光景は、魔族の支配地域の湿地帯とは到底似ても似つかぬ光景だった。
「ぐ、グエン。覚えてないの?」
そう言って砂を払いながら起き上がったリズ。
「覚えてないって…………たしか、」
グエンとリズはニャロウ・カンソーに───。
「ッ!! ま、まさか、俺たち死んだのか?」
「ち、違うわよ! たぶん、違う、はず。っていうか本当に覚えてないの??」
覚えてないのって言われてもな。
思い出せるのは、ニャロウ・カンソーに渾身の一撃を見舞おうとしたあの瞬間のみ。
二人ともやられるなら直前で……。
グエンも満身創痍だった。
実際、リズも相当にボロボロの有様だが、体には致命的な傷はないように見える。
でも、あの時、確かに───ニャロウ・カンソーに…………。
ッ!
「リズ!!」
思わず、リズに飛びかかり、彼女を押し倒したグエン。
「な? ちょ?!」
そして、彼女の服を──────……。
「やめんかッ!!」
バッチーーーーーーーーーーーン!!
「はぶぁぁあああ……!」
存外強烈な一撃を食らったグエンはギュルギュルと回転しながら吹っ飛び、少し離れた場所に顔面から突っ込む。
「ちょ! 何すんのよいきなり盛って……って、グエン?!」
ピクピクと痙攣するグエンに驚き、思わず体を砂から引っこ抜くリズ。
「ご、ごめん! そんなに強くしてないんだけど……」
「ゲフッ……。死ぬかと思ったぜ、いまの一撃は」
「ご、ゴメンって。だって急に服を───」
ポッと顔を赤く染めるリズ。
「いや、なんで顔を赤くしてるんだよ! 俺はただ、リズのケガが心配になって───」
「へ? け、ケガ? ケガって……ううん、どこも何ともないよ? 打ち身と肋骨のヒビくらいかな───ほとんどがグエンのせいだけど」
え?
「打ち身って……。でも、リズはあの時ニャロウ・カンソーに食われそうになって───」
ズキッ。
突如、痛む頭。
「え、ええ?! だ、大丈夫なの、グエン??」
本気の心配顔でグエンの顔を覗き込むリズ。
グエンもリズが何を言っているのか分からない。
だって、あの時間違いなくニャロウ・カンソーに……。
「大丈夫なものか! 俺は……リズ、君が奴に食われたかと……!」
「ちょ、ちょっとグエン、何を言ってるのよ? アイツはアンタが……」
と、そこで何を思ったか、
ずずず……。
と、砂に手を突っ込んだリズ。
そして、
「───ほらぁ」
ひょいと、取り出したのは、巨大なトカゲの頭部──────……ひッ!
「にゃ、ニャロウ・カンソー?!」
ズザザザザ……! と砂の上をズリズリと後ずさるグエン。
だって、目のまえにニャロウ・カンソーの頭が…………───あれ?
なんで首だけ……?
「し、」
死んでる…………?
グエンの目の間に翳されたその生首。
だけど、あの時感じた絶望的な恐怖感は全く感じない。
それもそのはず。
目の前にあるのは、デローンと舌を垂らしたまま目を白く濁らせたニャロウ・カンソーの生首だ。
そこには一切の生気も感じられない。
つ、つまり……。
「───そりゃ死んでるわよ。……っていうか、アンタがブチ殺したんじゃないの。何をいまさら、」
リズはつまらなさそうに、巨大な頭部をポンと放り捨てると、ズシン! と砂の上に無造作に。
「へ? 俺?………………は?」
「いや、どうしたのよ、さっきから……? これ、アンタの手柄でしょ。アタシもびっくりしたけど───」
リズがマジマジとグエンの顔を下から覗き込む。
そして、
「でも、ありがとう……。命がけで救ってくれて」
そう言って、ニコリとほほ笑む。
「あ、うん…………え? あ、うん」
その美しい笑みに柄にもなく、ドキリとするグエン。
でも、悲しいかな───グエンさん、ね。
実はまだ、事態を100%理解していません。
「…………はぁ。その様子だと、無意識か、無我夢中だったみたいね───」
そう言って、砂の上にストンと腰かけたリズが
トントンと隣を叩く。
座れという意味らしい。
「お、おう」
ややドキマギとして座るグエンをみて肩をすくめたリズ。
彼女は彼女が知る限りのことを、少しだけ話してくれた。
そう。
ほんの数刻前になにがあったのかを───。
ポツリ
ポツリと。
そして、話を聞き、周囲に散らばるニャロウ・カンソーのバラバラになった死体をみてようやくグエンも───。
「お、思い出してきた───……」
そう、あの瞬間のことを───。
ブゥゥン……。
グエンはステータス画面を呼び出すと、確認した。
その瞬間を再確認するように───……自分の身に起こった奇跡を思い出す様に、
名 前:グエン・タック
職 業:斥候
称 号:音速→光(NEW!!)
(条件:敏捷9999を突破し、さらに速度を求める)
恩 恵:光速を得る。光速は光の速度、まさに光そのもの
(光)アナタは光の速度を越えました。
※敏捷ステータス×30800000
※光速時の対物理防御無限
※光速時は、攻撃力=1/2×筋力×敏捷の2乗
体 力: 32
筋 力: 14
防御力: 20
魔 力: 29
敏 捷:9999(UP!)
抵抗力: 12
残ステータスポイント「+588」
スキル:スロット1「韋駄天」、
スロット2「飛脚」
スロット3「健脚」
スロット4「ド根性」
スロット5「ポーターの心得」
スロット6「シェルパの鏡」
スロット7「未設定」
スロット8「未設定」
スロット9「未設定」
習得スキル:
「
「
「
「
な、
な、
な───、
「なんじゃこりゃぁぁああああああああ!!」
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