第13話「ソニック! それでも届かぬ!!(前編)」

「俺の……」


 グエンは思う。


「俺の足が……」

 そう、足のケガが治りきれば、もしかすると逃げ切れるかもしれない。


「俺の足さえ……───」

 いや、飲み干したポーションのおかげで僅かながらも怪我は回復している。

 ちんけなポーションでも、何かの助けになれば、とリズがくれたそれが体を癒してくれた。

 例え、僅かであっても───。


 ならば、いま必要なのは負傷した体で駆け抜けるだけの速度。

 高速の逃げ足だ。


「──俺の足がもっと早ければ……!」


「な、なに言ってるの? いいから、早くいって! もぅこれ以上──……」


 ニャロウ・カンソーはもう目前だ。

 このままとどまれば、グエンもリズとともに、奴のターゲットになる。


 新称号の『音速』をいかせば、この足でもなんとか数歩分くらいは奴を圧倒できるかもしれない。


 それほどに『音速』の称号はずば抜けている。


 ………………だが、それだけだ。


 敏捷が人のそれを優に上回っても、所詮は音の速度。

 SSランクパーティを蹴散らしたニャロウ・カンソーに通用するはずもない。


 だけど────。


《ギェェエエエエエエエエエエ!》


 ニャロウ・カンソーがついに追いつく。

 そして、迷わずリズにターゲットを向けると、二手の武器をたたきつける。


「くっ!」


 先ほどのおびえた様子はどこへやら。

 勇気を振り絞ったリズが、体調の悪化を押して跳躍し、その一撃を躱す。


 そして、巨体に似合わず素早い連撃を繰り出すニャロウ・カンソーと幾度となく、刃を交え、そらしつつ、危うい戦闘を続けるリズ。

 

「グエン、これ以上支えきれない!」


 ギィン!!


 強烈な一撃を受け止め、衝撃をバックステップで逃がすも、リズは荒い息とともにグエンの傍に着地する。


 すでに、肩で息をしており、

 幾分マシになったと見えた体調はまた悪化していた。

 激しい動きで毒のまわりが早いのかもしれない。


「リズ──」

「グエン、いい加減に、し──て…………」ってッ?!


 リズが驚きに目を見開く。

 なぜなら、グエンのバカげた行動を目にしたからだ。

 この状況、この場所でそれを取り出すグエンに、目を見開く!!


「そ、それは!!」


 だけど────!!


「いくら、音速のそれがあろうとも……」

「音、速……?」

 リズの疑問に答えるでもなく、グエンはひとりごちる。

「………………敏捷が5000×35ぽっちじゃ、渡り合えない……! だけど、」


 そう。

 だけど────!!


「俺は敏捷に賭けるッッ」


 そうとも。

 音速の称号は攻撃力をも飛躍的に上昇せしめる。

 なら、もしも、敏捷が今以上なら?


 奴の知覚を上回る速度で翻弄し、

 音速の攻撃力をのせたグエンと、

 満身創痍ながらも腕利きのリズと連携すれば、もしかして一矢報いることができるかもしれない。


 そうとも。


 一度はニャロウ・カンソーに知覚させずにリズを取り返した。

 ならば、さっきよように、音速の壁を破れば、あるいはッッ!!

 

「──俺は、『敏捷こいつ』に賭けるッッ」


 ステータス画面起動。


 ……音速の称号は敏捷を35倍に増加させる。

 それはつまり、敏捷が100上昇しただけで、3500という途方もない敏捷の恩恵をグエンに与えるのだ。


 ならば?


 ……ならば、すべてのステータス・・・・・・・・・を敏捷に注ぎこめばどうなる?


「───ならば俺は、音すら越えてみせるッ!」


 グエンは懐に手を突っ込むと、取り出した……。

「グエン?!」

 マナックに押し付けられ、飲めと強要されたあの悪臭漂う丸薬・・────『再振りの丸薬』という呪いの産物を!!


「グエン! やめて──」


 リズがグエンに手を伸ばし、それを止めようとする。

 その無謀な賭けを────……!




「いくら敏捷が早くても、速度だけで勝てる相手じゃないわよーーーーーーーーー!」




 リズの叫びが響く中、グエンは意を決して、


「やってみなきゃわかんねぇだろうがーーーーーーーーー!!」


 ここでリズを見捨てておめおめ一人で逃げ帰る?

 そして、マナック達を断罪してハッピーエンド??


 は!!!

「そんなのはクソくらえだ!!」


 俺の敏捷特化を舐めんじゃねーーーーーーー!!


 パシリ上等!

 俺の速度は音速を超えるッッッ!!


 だったら、

「他のステーーーーーーーータスなんざいるかぁぁぁぁぁああ!」





 ………………ゴクリ。

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